04/28の日記

01:24
めぐる 〜シカマル〜
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「シカマル、最低っ!」


乾いた音と共に、頬に痛みがはしった


駆け出す彼女の背を呆然と見送る… 


今年だけで、もう何度目だ?


もう数えんのも めんどくせぇ


まだ、彼女は 泣きださなかっただけマシか

いやっ… もう、 元彼女か…


溜息と共に、胸ポケットから 煙草を取り出すと

火をつけ 近くのベンチに座る


この、冬の冷たい空気の中 更に追い打ちをかける寒々しい出来事に ぼやかずにはいられない


「だいたいよ〜 俺は、好きにはなれないと思う
て、言ってんのに “それでもいいから”て押してくるのは 向こうのクセによ…」


頭をガシガシと掻くと 前に突っ伏し


「もう、俺には 無理なんだって…」


当の昔に諦めた想いが またジワジワと込み上げてきて

慌てて、煙草の火をもみ消した


「お兄ちゃん、フラれたの?」


いきなり掛けられた声に、顔を上げると


年端もいかない女の子が、目の前に立っていて
こちらをじっと見つめていた


ゲッ!ガキは苦手だ

体よく追い返そうと 何かナイかとポケットを漁る

誰かからか貰ったアメ

それを差し出すと


人懐こそうな笑顔で、手のひらからアメを取り
俺の横に座った


イヤッ、あっちで食えって!


心の中で呟き空を仰いだ 


「お兄ちゃん、なんで振られたの?」


めんどくせぇ… 


「ママがね、女の子には 優しくしないといけないんだ!って、いつも言ってたよ」


「やさしくねぇ〜」


「そう!女の子は、守ってあげるものだって」


…なんかどっかで聞いたことあるセリフだな…


その子の顔を、ジッと見ていると


「奈良!女性には、優しくしろと言ってあっただろう!!」


眉間にシワを寄せた、おっかない顔のあの人が浮かんだ



「え!?俺が悪いんすか?俺、フォローしたつもりですよ…」


「アホか!無言でもくもくとフォローされたら、相手が気にするだろう!」


解せねぇ… 優しくしろって言うから フォローしたのに… ニコニコ笑えば良かったのか?

俺には、無理だ…

ガックリとうな垂れると、


「奈良は、好きな人は居ないのか?
その人にするみたいにすればいいんじゃないか?
男は、女を守らないとな」


ズリィ… 俺の気持ち知ってるクセに 守らせてなどくれないクセに

キッチリ牽制される



そんな昔のやり取りを懐かしむ気持ちと 胸を駆け上がる切なさに
心拍数が上がった


「おまえ、名は?」


「人に名前を尋ねる時は、自分から名のるんだよっ」


この気の強さ


「俺は、シカマル」


「シカ…マル…?」


「あぁ、奈良シカマルってんだ」


「あ、 私は… かの
こうづきかの 」

 
「こうづき…」


気のせいか…


知らず知らずのうちに力の入っていた肩が、ゆっくりと下がる


「…俺は、もう誰かを好きになったり出来ないんだよ」


投げ捨てるように言い放つと


「なんで?」


コイツ、なかなか諦めねぇなぁ…


何度目かの溜息をつくと


「昔、すごい好きな人がいて その人が…
忘れられないんだ 」


俺、ガキ相手に ナニ言ってんだろう…


うな垂れる


「元気出せよっ」

なんて、ガキに背を擦られて…   情けねぇ


「ウチのお母さんも、ずっと大好きな人がいるって
言ってた」


「そうか、まぁ… ありがちな話だからな 」


力無くカラ笑いをすると 立ち上がる

じゃあな! そう言おうとした時


「私の名前は、その人から取ったんだって」


ふ〜ん…


「おまえの、父親?」


「おまえじゃ無くて、かの!鹿乃って書くんだよ」


わざわざ地面にしゃがみ込み、土の上に漢字を書いた


「この“か”が、難しいんだよね… まだ学校で習って無いから」

と、何度も 鹿 の字を書くその子に


「おまっ、鹿乃!母親って…」


すごい勢いで、掴まれた肩にビックリして 
涙ぐんだ瞳の色が…


同じ色…




「…奈良…? 」


背後から聞こえた声に、背筋が震えた


まるでスローモーションのように振り向いて


あんたを確認した途端


「どうして… 」


それが、何を指しているのか 誰への言葉なのか

自分でも分からなかった


「久し振り…だな 」


昔と変わらず、左のエクボだけ出る懐かしい笑い方

ズキリと胸が痛んだ


「仕事… どうだ? うまくいってるか?」


この人は、変わらないな


俺の上司だった時のままだ


「変わり、ないです…」


「そうか、良かった…」


「かの、帰るよ 」


その子の手を取り じゃあ、 とあっさり背を向けた肩を慌てて掴む


また、あんた…逃げんの…

振り返った瞳を、シッカリと見据える


「なんで… いなくなったんだ? 」


俺の手を押し戻し、子供に一言二言声をかけると


鹿乃は、「じゃあね、お兄ちゃん」と駆け出して行った


その小さな背が、見えなくなってから

俺は、言葉を続けた


「苗字…」


あんたは、サッキまで俺が座っていたベンチに腰掛けると


「ちょっと、色々あってね… 今は、母親の姓を名乗ってる 」


愁いを秘めた横顔


「鹿乃の… 父親って…」


俺の問いに 言い淀み、黙り込んでしまったあんた


「あの時、俺の上司じゃ無くなった日… 部屋に押しかけて… 半ば無理矢理…


「無理矢理じゃ、無いよ」


「イヤ、あんたは 俺の気持ちに流されただけだ… 
本意じゃ無い…」


俺の顔を、悲しげに見つめて それ以上 
ナニも言わなかった


「あの時の… そう考えれば、あんたが居なくなった訳も 納得がいく 」



あの日

俺の所為で、会社を辞めた事を知って


いてもたってもいられなくて、強引にマンションに押し掛けた


何を聞いても、“奈良の所為じゃない…”と繰り返すあんたに


気持ちが抑えきれず 強引に、抱いた


まだ、ガキだった俺は
それで あんたが手に入ると思っていたし


いつもは、軽くあしらわれていた告白も

その時は、真正面から
見てくれて

抵抗をしないあんたに

受けとめてくれてたんだ…

なんて、勝手に勘違いしてた



後に思えば


あんたは、俺に 同情してくれたダケだと言うのに…



溜息と共に、肩をすくめると


「俺、ガキだったもんな… 自分の気持ちに手一杯で
あんたの事、考えてやれて無かった…」


少し距離を空けて、同じベンチに座る


「婚約者と別れたばかり… 不本意な理由で好きだった仕事を 辞めざるおえなかった
そんな時に…
自分の気持ちばっか押しつけて
自分の事ばっか手一杯で
こんな男… 最悪過ぎて 居なくなりたくもなるよな… 」


俺との空いた距離に片手を付き 俯く俺を覗き込む


「ホントに、会社を辞めたのは 奈良の所為じゃ無い… 」


無言で首を振る俺に


「奈良は、ホント変わらないな… いつも真っ直ぐで
 計算高そうな割には、不器用で…
ホント、変わらない…」


「それは、俺がいつまでもガキだって事ですか?」


視線を合わせる


反らされない瞳のまま


「怖い…と思って 昔も今も… その真っ直ぐさが…」


「だから… 逃げたのか… 」


「…そう、かな…私には、奈良の気持ちを受け入れる覚悟も自信も 
そんな半端な自分を、まだ若い奈良に背をわせる事も… 考えられなかった…」


「…意気地ナシ だな…」


「大人の分別と言って欲しい 」


気の強い、そのまんまの顔で笑ってみせた


「じゃあ、俺も… ガキの主張って事で…」


手を伸ばし、 触れる


拒否られたらどうしよう とか

ホント、またガキみたいだ とか

頭の隅を掠めたケド


そんなことよりも先に、身体が動いてて


勝手にあんたを抱きしめていた


「今、あんたの傍に 誰もいないなら… 俺に居させて…」


「奈良… ズルイな… おまえ、もう全部分かってるんだろ?」


今、掴まえておかないと  もう二度と
あんたに逢えない気がするから


かっこ悪くても、どんな手をつかってでも
掴まえたい


もう、居なくなられるのは こりごりだ


この何年もの間  シンドかった


なんで… どうして… そんな事ばかりを繰り返して

否というほど後悔して…

ホント… めんどくせぇ



「なぁ、鹿乃が言ってた事… ホント?」


「あの子、ナニ…言ってた…?」


「自分の、名前は 母親が好きだっつた奴の名前からとったって 」


「そンな事を…」


抱きしめたあんたの髪を そっと撫でる


今度こそ、勘違いしたくねぇ


「もう、あんたの事… 諦めたくねぇんだよ 」


抱きしめられたまま、密かに震えている肩を
ギュッと自分に押し当てた


「なぁ… 」


「奈良… 私は、めんどくさいぞ… それでもいいのか…?」


「俺の上司だった時から めんどくさかったんで
慣れてます 」


俺の胸から顔を上げ 睨んできた瞳が 潤んでいた


「あ、それから… もう上司でも部下でも無いんで
名前呼んでください 」


「シカ…マル…」


「よくできました…」


見あげてくる額に、口づける


「おまえ、キャラ変わってないか?」


「そっすね、立場逆転 
男は、女を守らないといけないんでね」


渋い顔をするあんたが可笑しくて


久しぶりに、思いっきり笑った





end





なんか、色々と設定がおかしくてすみません(^^ゞ

初恋の続きもどきです





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