08/23の日記

00:42
覚悟 〜カカシ×イルカ〜
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「いいよ、別れてあげるよ… 

欲しい者が手に入らないなんて 

…慣れてるから… 」


俺の目の前で、片目だけで笑ったカカシさんの顔は


いつも惜しげなく曝してくれていた


あの紅い目や 口元や 高い鼻筋 などは見せてくれなくて


ワザと表情が読み取れないように


唯一見える筈の左目も、降ろされた前髪で シッカリと隠されていた


「俺、こういうの慣れてるから イルカ先生が気にしないで… 」


そっと伸ばされた手が 空を切り引き戻る


「俺は… 」


「だから… いいって… 」


普段と変わりないトーンなのに 有無を言わせない冷たい空気が遮る


「裏切られるのも  去られるのも  おいてかれるのも  死なれるのも…  みんな、 慣れてるから… 」


視線をこちらに向け 笑って見せたケド


片目だけでも、その笑顔が 本物ではナイ事が分る



――この人と共に生きる


それは、俺が思っていた以上に 苦しいコトだった


俺には、カカシさんを支える自信も 強さもナイ


里の誉れ 写輪眼のカカシだ


その経歴 生い立ち など ナニを取っても


交わる事の無い接点 なのにどうして俺だったのか


俺にナニができる… 


イヤ、 なにかできると思っていた自分が滑稽だ



カカシさんの 壮絶な経歴は 噂では耳にしていた


父一人仔一人で育ったその環境


その里の英雄とまで言われた父親が亡くなったのは カカシさんが10歳に満たなかったという


尊敬してやまなかった父が自害と言う形で亡くなったコト


その第一発見者は、子供のカカシさんだったコト


その後、身元を引き受けてくれた四代目を 九尾の件で亡くし


文字通り 天涯孤独になったコト


…どんな思いで生き どんな傷を背負ってきたのか


同じように、孤独を味わった者同士なら 少しは…


なんて思い上がっていた俺 



“アイツは、昔 死に急ぐように任務をこなしてやがって
生きてる事を悔いてるような 戒めているような そんな日々だった 
それでも、どんなに死の淵にいても生き残っちまう自分を 酷く恨んでいた…
もっと、誰かの所為にしたり 他者を恨んでもいいのに
そんなこと一切しなくてな… 静かに堪える姿は
見てらんなかった
後に思えば、そんな自分の想いを吐き出す行為なんて 知らなかったのかもしれないな…”


アスマさんの言葉を思い出す


父親のコトで、向けられる疎外感


その後の任務先で友から譲り受けた写輪眼への疑心や嫉み


四代目がかなり庇っていたようだが、それでも言われない誹謗中傷


四代目亡き後は、暴力やそれ以上の酷い扱いも 受けてきたらしい



そんな中でずっと育ってきたんだ


俺なんかの想像を絶する… 



“畑カカシとつき合う” と言う事は 


その過去も傷も痛みも全部 引き受ける と言う事


自分如きが、カカシさんを受け入れる 度量もなく


彼の想いに絆されて つき合いだしたモノの


そこまでの決心が 俺には足りなかった


暗闇に、血を流し続けながら泣く事も許されず静かに膝を抱える

そんな彼に、向き合えなかった



「 … ごめんなさい 」


「だから… 謝んないでよ」


その銀の髪をガシガシと掻きながらも、寂しげな表情の彼に 胸が痛んだ


カカシは、1つ大きく溜息を吐くと 途切れ途切れに言葉を紡いだ


「ねぇ… イルカ先生は 俺と一緒に居て… イヤだった? 」


思い切りブンブンと振った頭を見て 笑った笑顔


俺… この顔… 好きだった



最初に笑った顔を見た時 綺麗に笑う人だな… と


ボーっと見とれてしまった程で


いつも近づきがたいイメージと 我関せづな態度に


業務上のつき合いしか無かった間柄


ナルト達の担当上忍となった事で 話す機会は増えていったケド


ただ、子供らの担任だった俺を 色々気にかけてくれているんだ


そう思っていた



あの日、暗部面のまま突然夜更けにやって来て


ポツリと気持ちを打ち明けられた時には、 驚いた


その頃の俺には、カカシさんは 特別な存在だったケド


恋愛のそれなのか…  憧れなのか…


自分の気持ちを計りあぐねていた


それでも、この里のトップクラスに入る強さを誇るカカシさんの


その手が… 密かに震えているのを見た時


この人の背負っているモノの重さを 垣間見た気がして


「俺で良ければ… 」 そう答えていた



一緒に居る事が増え 目の当たりにした“畑カカシ”と言う人は


繊細で寂しがり屋な人だった


俺が台所で夕飯の支度をしていても 片時も離れなかったり


その浮き名の通り、すぐにベットに押し倒されるのかとドキマギしていた俺に


やっと手出ししてきたのは、随分たってからで


俺は、かなりな覚悟で言った“俺で良ければ”も なんだかカラ回りだったのか…? と悩んだ程で



その生い立ち故なのか、時々垣間見るその余りにも普段のカカシさんと違う部分に


驚き、戸惑ったのも確かだ 



暫くの沈黙の後


またカカシがポツリと口を開く


「イルカ先生… 俺ね… 」


でも、そこまでで  


なかなかその先が続かない


あの、告白の時同様 カカシさんの手が震えていて


それを誤魔化すように 自分のベストをキツく握っていた


「俺は… イルカ先生に 俺の事を、理解して欲しいとか… 分って欲しいとか… そんな事は、思ってない… 」


大きく深呼吸するみたいに 息を吐いて


「…俺は イルカ先生と、…生きたいんだ 」


今まで伏目がちだった視線が、シッカリと俺を捉えた


でも その瞳は、スグに反らされ


また、寂しげな横顔だけを見せ


「…それ だけだったんだ… 可笑しいでしょ?ずっと 死にたい… そう思って生きてきたのにね… 今更、 欲張り過ぎた… 」


数歩後ずさりながら、


「じゃね、イルカ先生… 」


なんて、普段と変わりない挨拶で 踵を返そうとする腕を


思わず掴んだ


驚いた表情のカカシさんに 


“なんか言わなきゃ!”


そう思うのに、うまく言葉が出ない…


カカシさんの手が頬に触れる


「なんで、イルカ先生が 泣いてるの… 」


言われて初めて気づいた


「カカシさん…俺の、俺の話を、 聞いて下さい… 」


カカシさんは、俺の背をそっと撫でながら


「…いいですよ 」


俺の大好きな笑顔で笑った



どっちがどれだけ とか 


想いの強さや 損得なんて バカらしい


回りの目や 他人の想いなど 関係ナイ


俺がカカシさんを好きなんだ


ただそれだけで… 


それが一番大事なんだ 俺達には






end

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