02/04の日記

23:40
幻影 2 
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俺が久方振りに、その名を聞いたのは


あれから何年か後の 


中忍試験の担当になった時だった


各里の試験担当者の中に


その名は、あって


俺を、ドキリとさせた


「どうした?」


中忍試験の総責任者を担うゲンマさんが


目ざとく、揺いだ俺を見て


声をかけてきた


まったく… 鋭い人だ


「なんでもありません」


俺は、ソツなく返し 会議を終えた


それからも、色々な準備と 警護との連携体制の確認などで


家に辿り着いたのは、すっかり夜も深けた頃だった


メシや風呂を適当に済ませ、部屋に上がる


そうそうにベットに横になるが


身体は心底疲れているのに、頭が冴え眠れない


仕方なしに、枕元に投げてあった書類に目を通す


中忍試験担当者

≪砂≫ … テマリ


その1行から、先に進めなくなり 無意識に溜息を吐いた自分に気づき、更に溜息を吐いた


やっぱ、あいつの名前見ると


今でも胸が痛む


あんなに何度も抱いたのに


その感覚も、温もりも 全部自分の中から抜け落ちて


そこにポッカリと穴が開いたような


そんな虚無感に、息苦しくなって 


今度は意識して、大袈裟に溜息を吐いた


あれから、流れた年数程は 自分の気持ちに整理はついてなく


会ったら、どうするか…


なんて、考えて無かった


イヤ… どうにもできないだろ


今更…


何をどう謝ったって、許される事じゃねぇ


あいつだって、謝って欲しいとは 思って無いだろう


なら、どうすんだ…


なんどもグルグルと考えるが、この手の事はどうも不得手で


なんの解決も浮かばない


俺は諦めて、書類を投げ捨て眠りについた



次の日


俺は、綱手様のお達しで 砂の試験担当の案内係を言い渡された


正直、勘弁して欲しかったが


断る理由が無く、渋々受けた



到着時刻に、門まで迎えに行く


門に背を預け、空を見上げていると


遠くで、少しためらう気配がした


だよな… 俺になんか、会いたくねぇだろうよ


もう朝から何度目になるか分からない、溜息を吐いた


意を決したように、近づく人影に


そのまま動かず


「俺が、今回の案内役だ… 嫌だったら、交替を申請して…


「私は、構わん…」


俺が言い終わらないうちに、淡々と言い返された


まぁ、そうだよな… 任務に私情を挟むような奴じゃないよな


「じゃ、行くか…」


何も言わず、数歩後をついてくるその存在と


ぎこちないフインキに


や、やりずれぇ…


ガシガシと頭を掻いた



それから、中忍試験終了まで 特に何も無く過ぎた


話す事も、事務的な事がらのみ


あの事に触れる事も、謝るタイミングも無く


何を言われるかと、内心ヒヤヒヤしていた俺は


スッカリ気が抜けていた


なんだかなぁ…


宿に送りとどけた帰り道


半分まで欠けた月を眺める


こうしていると、あの時の出来事が 嘘のようで


自分が、やらかした事なのに 


そのまま、何も無かったように忘れたい自分と


あいつの中の俺の存在が、薄れ


消えて無くなっていくように感じるのが


酷く寂しく思う自分もいて


自分で、自分の思考に困惑する


もうすっかり癖となった溜息を吐きながら


少しズキズキと痛む頭を抑え


フラフラと家路につき


ベットに倒れるように眠った



額に感じる冷たさと、頬に感じる温もりで目を覚ます


瞼に感じる光から、朝だと分ってはいたが


身体が言う事を効かない


「まだ寝ていろ…」


ボーっとする意識に、ハスキーな声がこだまする


母親の声では無いその主の方に、ゆっくりと視線を向けると


綺麗な顔立ちの… 金の髪…?


慌てて起き上がろうとするが、自分の思っていた半分も起き上がれない


「起きるな…」


俺の背に腕を差し入れ、ゆっくりと横たえると


その綺麗な手が
額の手ぬぐいを取り、そこにそっと手を宛ててくる


「少しは、下がったか…」


その手を、無遠慮に掴む


「なんで…あんたが、ここに居んだよ…」


「時間になっても、おまえが迎えに来なかったから
綱手様に聞いてな」


慌てて、枕元に置いてあった時計を見る


約束の時間は、とうに過ぎていて


とんだ失態だ…


「今、支度する…待っててくれ」


再度起き上がろうとした俺を、枕に押し戻し


「今日は、ゆっくり休めとの 火影様からの伝言だ
序でに、誰も居ないハズだから 看病してやってくれ と頼まれたが
もう、大丈夫そうだな」


情けねえ…


よりによって、
家に誰も居ない時に
まして、こいつが木ノ葉に居る時に
こんなヘマを


1番醜態を晒したく無いヤツに、こんな情けない姿を見られるなんて…


多分、俺の事


呆れているだろう


イヤ、…今更か…


もうなんか、何もかにもが自棄になって


咄嗟に、細い手首を掴んだ


「女が、男の部屋に気安く入ってんじゃねぇよ」


その手を、引き ベットに組み敷く


ただ、イライラしていた


ここ何日も、ずっと
こいつの事ばかり考えていた事がバカみたいに思えて


何事も無かったようなそぶりで、俺を避けるその態度にも


なんかもう、どうにも腹立たしくなり


自分勝手に自分の気持ちを持て余し、当っているだけだ との自覚はあったが


まるで、目の前のテマリが 煩わしい事の根源のような気がして


腹の底から沸く怒りを、抑えきれなかった


あれから、過ぎた年月程は 大人になれて無い自分を
嘲笑うしかない


また同じ事を繰り返すのか、とか


あんだけ後悔したのに、とか


もう、どうでもよくて


兎に角、こいつに勝ちたかった


…そう、思えば あの初小隊長任務から


ずっと… 俺は、こいつに助けられた事


男のクセに泣くような、弱みを見せた事を


ずっと、長い間 引け目に感じていた


それが、俺の心に 深く突き刺さっていて


いつも、苦しかった


無意識に、自分の中に引いたボーダーラインは


自分を戒める為


こいつの前だと、どんどん自分が弱くなりそうで


受けとめてもらえる事に安心しきって、胡坐をかいて


おまえに酷い事をした俺を、いっそ呆れて 嫌ってくれれば良かったのに


こんな最低な俺の事“好きだ”とか言っちまうから


どんどん甘えたくなる


ずっと、怖々こいつに接していた


無意識にヨソヨソしい態度を取っていたのは、


こいつじゃねぇ… 俺の方だ…


なのに、こんなに易々と 懐に入ってくるような真似して


「なにされても、文句言えねぇぜ…」


抵抗するテマリを、腕力と体格の差だけで 抑え付ける


それでも、俺を拒むコイツに怒りが増し


「前は、ヤラせてくれたのに 今回はダメなのかよ」


酷い言葉を、投げつけた


「私は…」


それっきり、唇を噛締めたテマリ


その頬に、雫が伝うのを 


見て見ぬフリをした







end

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