06/03の日記

01:06
思い続ける力 〜社会人篇(ナルト)〜 
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久しぶりに、先生を 駅のホームで見かけた


高校を卒業してからの3年間、この時間は 意識して避けてたのに


迂闊だった…


あれから過ぎ去った幾つもの季節が、油断を誘ったのか


それとも、もう先生の事は 綺麗な想い出として整理できてるとか…


イヤ… それは、無いな


今でも、こんなに… 胸が痛む


あの時から、流れた月日ほどは 先生を記憶から消せてなくて


その存在を、その温もりを 今でも忘れず シッカリと心身が覚えている


「参ったな…」


震える手を握り締めた



俺が、最初先生を好きになったのは


正直、その大きな胸と顔だった


気の強そうな大きな瞳 上唇の方が厚い唇 薄い耳たぶ 綺麗な長い髪 左目の下の黒子 


そんなのが、全部 俺のストライクゾーンど真ん中だった


確かに、その胸も 思春期の健全な男子には、すげぇ魅力的だったが


どっちかと言ったら、やっぱ あの眼に惹かれたんだと思う


俺は、昔っから 気の強そうな女性に弱い


最初は、ただの大勢いた先生の取巻きの1人で


そっからどうなりたいとか、考えた事も無かった


上級の担任な先生に、会えたら1日ラッキーで


バトミントン部の顧問だった先生の、身体のラインにフィットしたジャージ姿や


ラケットを振るう胸が、揺れるのをニヤニヤして見てたりするくらいで


むっさい1人暮らしの俺の生活に、潤いを与えてくれる そんな存在だった


それが、変化したのは… いつの頃からだっただろう


きっかけは、自分の孤独な生い立ちと 世の中全部を恨んで 憎んで 荒れていた中学時代


度々補導を繰り返すこんな親の居ない俺の、身元引受人になってくれたじっちゃん


その葬式で見かけた時からだ


先生は、じっちゃんの1人娘で 


あのよく話を聞かされた、女の子だったんだ


じっちゃんの昔話には、良く女の子が出てきた


それを、娘だなんて 一言も言わなかったから
全然気づかず


「またその話かよ〜 何度も聞いたってばよ」


と、あからさまに毎回嫌な顔をしたりしていたが


じっちゃんは、いつも決まって


「まぁ、そう言うな…」


なんて
その女の子が 何度も練習して 逆上がりができるようになった話しとか


ケンカして、男の子を負かしてきた話しなどを、嬉しそうに何度もしていた


そう、その女の子が… 先生だったんだ


先生は、結婚に反対され 勘当同然で 家を出ていた事


ずっと、連絡も取っていなかった事を 教えてくれた


そして、俺に逆に生前のじっちゃんの様子などを、色々聞いてきたので


じっちゃんとの思い出を、面白おかしく話してやったのに


泣きだして…


その姿に、ドキリとしたんだ


男は、女の涙に弱い… ホントに、弱い 


好きな女なら、尚更だ…


そっから、たまにだが 


じっちゃん家で、一緒に飯を食いながら


思い出話などをするのが、決まりごとのようになった


俺は、いつも1人で食う味気ない飯が 


誰かと食卓を囲める嬉しさと


更に先生の手料理も食えて、超ラッキーだったし


ドキドキしたケド


先生は、多分 


身元引受人だった、じっちゃんの代わりで


俺の事、気にかけてくれているのだと 思っていた


現に先生は、学校で会っても 口をきく事も無かったし


そこらへんの線引きは、シッカリとされていたから


お揃いの携帯ストラップを「おみやげ〜」なんて、もらっても


時々、「逢いたいな〜」なんて、呼び出されても 


余計な期待はしないように と


自分に強く言い聞かせていた



ある日


待ち合わせの時間に、じっちゃん家に行くと


玄関先で、揉める男女の声


その片方は、先生の声で もう片方は


見た事の無い、男の人


先生は、険しい表情で カバンから財布を出すと


数枚の紙幣を投げるように、その男の胸倉に突き付けていた


そいつは、悪びれた様子も無く


それを、ポケットに突っ込むと


先生の長い髪を撫で、強引に引き寄せ口づけようとする 


先生は拒むが


それでも、ねちっこく抱き寄せようとする
その腕を掴んだ


「何やってんだよっ…」


凄んだ俺に、2・3歩後ずさる男


今度は、俺の腕を先生が掴む


「やめて… その人、私の夫なの 」


驚いた…


綺麗な先生の旦那さんが


こんな冴えない、無精髭で ヨレヨレのワイシャツを着て 競馬新聞を後ろポケットに突っ込んでるような男だなんて


そいつは、事もあろうか俺に


「なんだ…?おまえの教え子か?ちょうど良かった、
金貸してくんない?倍にして返すからよ」


なんて、俺の肩に気安く腕を回した


至近距離に寄ったその身体から、酒の匂いがプンプンして


嫌悪感が、込み上げる


払い除けようとした俺より早く、先生が 男の身体を押しのけ


俺を、自分の背に隠すと


「やめてっ、この子は関係無いわ」


キツク男を睨む


先生よりデカイ俺を、まるで小さな子供でも庇うように 俺の前に立ちはだかり


そいつがなんかしてきたら、俺が先生を守ろうと思っていたのに


その背後から、前に出ようとした俺を


強い力で押し留め、俺を守ろうと ガンとして譲らない


あまりの勢いに、男はおどけて わかった わかった なんて繰り返し


フラフラと、その場を後にした


俺達は、暫く そこに佇んでいたが


「さっ、ご飯にしましょう!」


いつもと変わらない先生の笑顔が… 少し痛々しかった


それからの先生は、普段よりもテンション2割増しな勢いで


よくしゃべり、よく笑った


そして、少しだけ と口にしたビールの酔いも手伝い


コテン と、寝いってしまった


その目元に浮かぶ雫を、そっと拭う


ゴソゴソと、押し入れから引っ張り出してきた毛布を


細い肩に、かけると


台所に向かい 皿を洗って帰った



それから、先生と飯を共にすることは パタリと無くなっった


あんな事があって、先生は 俺に顔を合せづらくなったのか


それとも、あいつが何か言いだしたのか…


ごちゃごちゃと思い悩むも、そのまま何もできない日々を 過していた


その日、先生は 珍しく学校を休んだ


俺は、気になって 居てもたってもいられず


先生の家に向かった


はっきりした場所は分らなかったが


小さいが、美味しいパン屋がある と言ってたあたりを ウロウロしてると


怒鳴り声と共に 物が壊れるような 凄い音が聞こえてきた


それは、もう長いコト続いているらしく


近所のおばちゃん連中が、心配そうに中を覗き込んでいて


「何かあったんすか?」


そう声をかけ、その場を覗き込む


俺の目の前には、チンピラ風情の男2人を前に
あの時同様 旦那を庇って立ちはだかる先生が居て


先生の背後で震えてるその旦那を指差し


「あの旦那さん、借金取りに追われてて 毎回大変なのよ〜」


噂好きのおばちゃんらしく、ペラペラと教えてくれた


その間も、割れたガラスの向こうから


男の怒鳴り声が響く


俺は、腹の底から沸く 得体の知れない衝動に


思わず、身体が飛び出していた


「あんたら、どこの組の人?俺、うずまきナルトってぇんだケド… 知ってる?」


その男達は、コソコソと何か話し


「じゃ、奥さん 来週までには必ずお願いしますよ」と先生の肩に触れようとした奴を


ギロリと睨むと


舌打ちをしながら手を引込め もう片方とその場を後にした


昔取った杵柄が、こんな時に役にたつなんて


皮肉で笑えてくる


事態の終息と共に、おばちゃん連中も居なくなり


俺は、先生の手を握り締めると 旦那に向きなおる


「あんたがこれ以上先生を泣かせるなら、あんたから先生を奪う」


座り込んで、うな垂れながらも 先生の旦那は


「高校生のガキが一丁前に、何ができんだよ」と吐き捨てた


前々から密かに思っていた決意を、口にする


「高校を辞めて、働く。働きぐちのメドはついてる
後は、先生の許可だけだ」


先生は、ビックリして 手を振り解こうとしたケド


俺は、それを許さず ギュッと握り直す


「おまえ、ガキのクセに コイツの事が好きなのか?コイツは、俺から離れられないんだよ 諦めなっ」


卑下た笑みを浮かべるその胸ぐらを掴むと


大袈裟に怯えた振りをして 先生に助けを求めた


最低だ…  コイツ


それでも、“やめて”と言う先生の腕を


苛立つ感情のまま掴み、駆け出す


でも、少し走った所で 止まる先生


俺の手を振りほどき


「…ごめんね」今にも泣きそうな顔で、綺麗に笑って


元の位置まで戻り、俯く旦那の背を撫でる


…なんでだよ



あの頃の俺は、先生の気持ちとか うまく考えられなくて


どうして、俺じゃダメなのか


どうして、あんな奴がいいのか


全然分らなくて 先生を恨んだりもしたケド


今なら、なんとなく分る…


いろんなものを、捨てれなかった先生を


俺の事を、思って身を引いてくれた先生を


それを知ったのは、高校を卒業して 何年も経った後だったケド



「 先生〜っ 」


俺は、ありったけの声を振り絞って 先生を呼んだ


振り向いた先生は、俺を見ると


凄く嬉しそうに笑った







end

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