01/17の日記

23:17
50000HIT企画  T (鋼の錬金術師〜リン・ヤオ) 
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1.澄んだ声に、(恋をした)   




生き倒れのように倒れていたその人が ほっとけなくて声をかけた


この辺境の地では、珍しい 自分と同じ髪と肌の色


それが、懐かしく思えたのかもしれない


「 大丈夫 ですか…? 」


かけた声と同時に、お腹が返事をするような 大きな音で鳴り 驚いて


思わず買物のカゴに入っていたパンと牛乳を差し出した


それが、リンとの一番最初の接点


差し出した先から、ガツガツとたいらげ 牛乳を一気飲みすると


サッキまでの死にそうな顔から、生気が戻り


安堵の溜息と、なにかゴニョゴニョと口にした後 パッと顔を上げ


「 ありがとう、心優しき娘さん 」


とニッコリと笑った


その笑顔にもドキリとしたが


なによりも、その声


最初その声を聞いた時


王子様のような声だと思った


なぜか、それから彼 リン・ヤオは まるで野良猫のように


私の家に居ついてしまった


私は、家庭環境に恵まれず 早々と生まれ育った故郷を出て この町まで流れてきた


年端もいかない身分では、働き口など限られていて


今の私は、この身を売って生活の糧を得ている


そんな私の事は、勘付いているのか


リンから手出ししてくる事は無く


私達の関係は、寝食を共にしているだけ 


そんな間柄だった


それでも、たまに辛そうな私を


「 おいで 」


と抱きしめ ずっと背中を擦ってくれたり


膝枕や 時には腕枕で 私が眠つくまで髪を撫でてくれたりして


こんなに優しくて扱われる事に慣れてなく、最初は戸惑って


何度か「 する? 」 と聞いてみた


リンの優しさに、何を返したらいいか分からなかったから 私にできる事 そう思って口にした言葉だったが


リン特有の、あのハの字眉毛で 困った顔をされただけだった


よく考えれば、他の男と寝ている汚い身体など お返しになる訳も無い


そう気づいてからは、口にしなくなった


リンと居ると、心地よかった


ずっとこうして居れたら…


そんなバカな事も考えたケド


別れは案外スグにやってきた


その夜、珍しくリンが物言いたげで


何かずっと考えて、悩んでやっと言った言葉が


「 抱いてもいいか…? 」だった


少しビックリしたが、OKすると


スルスルと脱ぎだしたリンの裸体に驚いた


細くてヒョロリとした印象だったが


シッカリとした筋肉に無駄な贅肉が一切ない


芸術的な裸体だった


それよりも、もっと驚いたのは その身体に刻まれた無数の傷痕


中には、よく命が助かったな…と思う深い傷もあり


痛々しかったが、それが余計に私を不安に駆りたてた


リンの手に指を絡めギュッと握る


彼は、驚いたような 困ったような顔で


それでも、今までのどの男よりも優しく大事に私を抱いた


私の不安は、確信に変わり


情事の最中、コレが最後なんだ… と痛いほど感じた


後から後から溢れる雫に、リンの唇がそっと触れる


私は、その時初めて… 愛するという感情を知った


朝方目を覚ますと、やはり…リンの姿はなくて


それから、彼の姿を見る事は無かった



私は、リンと肌を重ねたあの日から もう以前のように身体を売る事ができなくなって


今は、修道院に住み込みで働き 昔とは全く違う暮らしをしていた


そんな俗世間との関わりが薄い私の耳にも、セントラルの大きな動乱や


国を動かす大総統が変わった事は、耳に入ってきた


それから数日後の、たまたま見かけた街中のテレビで


彼を見た


キチンと整えられたその国独特の髪、着飾った衣装


テレビから聞こえるその声は、正にあの当時のままで


「 民有ってこその王 王は、民の為に 国の安定・世界の平和の為に天命を尽くす 」 


私の好きなあの声で、力強くそう語っていた


「 本当に、王子様だったんだ… 」


溢れる涙を堪えられなかった


それからまた、季節は何度も巡り


リンと最初に逢った季節


私は、また野良猫を拾った


そのネコは、


「 腹減ったぁ… 」と呟いた後


「 最後に、抱いて思い出にしよう… そう思った… でも、抱いたら返って忘れられなくなって… もう我慢できなくて、王座譲って来ちゃったよ 」


頭を掻きながらそう言った


そして最後に、王子様のような声で


「 優しいお嬢さん… 俺を飼ってくれない… 一生… 」


と、つけ足した



―澄んだ声に、(恋をした)―


たとえあなたが、王子様じゃなくても 恋をした…







end



企画最初のSSは、リン・ヤオ(鋼の錬金術師)でした


このアニメ凄く好きで、一時期どハマりしてました


どのキャラも、めちゃくちゃカッコ良く


マスタング大佐 エドワード ハボックなども好きでしたが


一番好きなのは、この リン・ヤオでした

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