02/26の日記

02:55
猫背 〜カカシ〜
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久々に見かけた彼女は、綺麗で


昔より随分と長く伸びた髪を春風になびかせ歩いていた


なぜか思わず気配を消した俺に気づく事は無く


そのまま火影室の方に向かう背を見送る


随分と感じは変わったのに


背の高さを気にして、少し猫背になるその後ろ姿は健在で


「 変わらないなぁ 」思わず吹き出した


途端、コチラをチラリと見たような気がして


慌ててその場を離れた



そう… あれは、まだ俺が10代の頃


俺と似たような境遇の彼女と身を寄せ合った事があった


その時は、互いの寂しさや悲しみを癒す為の手段の1つで


互いが互いを支えていないと


様々な感情にのみ込まれてしまいそうで


それは、俺達には必要な行為だった


愛や恋 それらと結びつくのかと言われると、少し難しく


あの頃の俺には、それが不特定で不安定なものであればある程


自分の中で繋ぎ留なければならない数少ない絆のように思えていた


互いに気持ちを口にした事は一度も無く


彼女が俺をどう想っていたのか、今でも分らないが 


思えば、それは恋愛と言うには 余りにも拙くて


今でも時折、俺の胸を締めつける


先行きの見えない不安、断ち切れない執着心


重なれば重なる程 互いの傷を抉るようなそんなどうにもならない時


暗部入りが決まり、何も告げず彼女の前から姿を消してから今日まで


逢う事も無かったが


そうか… これからは、普通に見かけたり顔を合せたりするんだな


なにも、暗部から上忍師になった初日に…


溜息が、宵闇に消える



それから、暫く


彼女に会う事は無かった


昔を知っている、お節介なアスマから


彼女の住んでる場所や


結婚は、していない事を聞いた


「 見合の話しも片っ端から断ってるみたいだぜ 」


なんて、ニヤニヤされたりしたが


あの時の俺達の関係は、そんな甘観照のモノでは無い


彼女からしたら、忘れ去りたい過去だろう


そんな彼女の前に、のこのこ顔を出せる程


俺は、夢を見ちゃいない


だが、彼女を避ける事も 違う気がして


敢えて普通に冷静を貫いた


それでも、初日の偶然が嘘のように


その後全く会う事がなく


油断していたのかもしれない


突然の彼女の部隊からの、応援要請に


瞬時に反応する事ができなかった


「 大丈夫か?カカシ… 」


五代目に心配されながらも、現地へ向かう


道中色々な事が頭を過るが、敢えて考えないようにした


ただ、負傷者あり との情報だったので


気にかかっていた



現場に着くと、最初に


数人の敵を相手に、戦っている彼女が目に入った


それは、けして少なくない人数を相手に


舞うように戦っている姿で


それまで、彼女の戦う姿など見たことが無かった俺は


そこから目が離せなかった


思えば俺は、彼女の事を何も知らない…



任務は、増援部隊が入った事もあり


直ぐに終結した


引き返そうした俺を、一緒に増援に出たアスマが呼び止める


「 俺達先に帰ってるから、おまえと彼女は ゆっりと帰って来いよ 」


まるで、俺 気がきくだろ ぐらいの勢いで俺の肩をバンバン叩くアスマ


お節介にも程がある


仕方なしに、医療班に手当を受けている彼女をチラリと見ると


足を怪我している様子


この分じゃ、今日中に里に着くのは無理そうだ


俺は覚悟を決める


調度手当てが終わり、医療忍が引き上げていく中 彼女に近づく


俺が声をかける前に


「 …久しぶり 」


そう言って笑った彼女の顔が、泣きそうで


俺は、返事をする事もできなかった


でも彼女はスグに、「 ゴメン、ドジっちゃって 」なんて怪我した足を擦りながら笑って


やっと、「 …里まで、送るよ 」そう返すのが精一杯だった俺とは正反対で


昔と変わらなく接してくる姿に、安堵と 少しの淋しさが入り混じる


おぶうと言う俺の申し出を断り、彼女は自力で里へと急ぐと聞かない


仕方が無く、怪我を気遣いながら


里へと駆ける


途中、又もや夜通し駆けると言い張る彼女を説き伏せ


野営をする


火の番をしながら 仮眠をとる彼女の背を眺め昔を思い出す


あの頃は、俺の方が身長が低かった


俺は別に気にしていなかったが


たった数センチのその差を、酷く気にしていて


彼女の猫背はその頃の名残だ


「 猫背ねぇ 」思わず口をついた言葉に


「 カカシもね… 」彼女の声


「 起きてたの 」


薪を足しながら、彼女の方は見ずにいると


ゆっくりと起き上がる気配


「 カカシは、私を見ないのね… 」


少し責めているようなその口調に、反論しようとしたが


「 今も… 昔も… 」


その言葉で、何も言えなくなり


ジッと彼女を見た


「 昔も…? 」


なんて、情けなく聞き返したりして


再開してから、初めてまともに顔を見た気がする


絡む視線が息苦しくて、すぐさま目を反らすが


「 昔も… よ  あの頃の私の事なんて、カカシは何も覚えていないでしょう 」


そんな事は無い と言おうとして


「 あの頃… 私の全ては、カカシだった… 
でもあなたは、一度も私と向き合おうとはしなかった… 
都合の良い部分だけを受け入れ
自分の本心にも 私の気持ちにも蓋をして…
気づかない振り、見ない振りを貫いた 


「 で、苦しくなって暗部に逃げた…と 」


言葉を遮った俺の傍まで歩み寄る彼女


「 カカシ… 昔は、言えなかった事を言うわ…
私、あなたが好きよ…  昔も、今も… 」


俺に手を差し出す 綺麗な長い指が少し震えていて


「 カカシは… 」


求められる答え


俺は、その指先をジッと見つめ


ゆっくりと、自分の手を重ねた


「 俺も…  」


あの頃、寄り添う相手は誰だって良かった そう思っていたケド


彼女を選んだ時点で、もう決まっていたんだ


俺の気持ちも…


人を信じる事が怖かった俺


そのせいで、こんなに時間がかかってしまった


彼女の方が、自分の気持ちに正直だった事に 感謝しつつ


「 ただいま… 」


彼女を抱きしめた







end









 

 

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