01/01の日記

03:19
ゲンマさんとシズネちゃん B 
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お昼もとうに過ぎた頃、何故か私は紅と一緒に食堂に居た


待ち合わせた訳でも無かったが、互いに忍務や書類整理などが長引き 


2人共こんな中途半端な時間に昼食になってしまったのだ


もう食堂には、人影はまばらで ここの主のようなおばちゃんが


もう定食は売り切れたと告げる


それを別段気にする事もなく


2人してうどんを注文し、他愛ない世間話などをしながら麺を啜っていると


「 今日、ゲンマと忍務一緒でね… 」


急に出た名前に、不意打ちをくらって 大袈裟にドキリとしたのを見逃さず


「 … ははぁん …あんた達、なんかあったでしょ… 」


怖い怖い、あの夕日家独特の瞳で射抜かれて 私の力無く振った否定の手など軽くはらわれ


「 ゲンマもねぇ… なぁんか、おかしかったのよ 」


顎に手を当て、考えるような仕草の後


「 普段、あいつ カッコつけてポーカーフェイス気どってるケド 今日はテンでダメでヘタレててねぇ… 」


酷い言われようだ…と苦笑いしたほっぺたをギュッと摘まれ


「 で、何があったのよ… 」


摘まれた頬は、離してもらえず …話すまでこのままな気満々な紅の笑顔が怖い


そんなどSな紅ねぇさんの、吐けオーラに逆らえるハズも無く


「 … なんか流れでそういう事になっちゃって 」


一通り話し終え、エヘヘとばかりに頭を掻いた私に


「 あんた… 」深い溜息の後


「 10代そこいらの小娘じゃ無いんだから、勢いでやりました て、どんだけアンポンタンなのよ… 」


再度海より深い溜息を吐き、私を睨むと


「 あんたまさかっ、避妊せずしたとか言わないわよねぇ 」


いくらあんたでも、それは… 


そう続くはずだった言葉が、私の引き攣り笑いで止まる


「 マジなの…? 」


それは、どっちの意味でなのか 


多分、話の流れからして 呆れてる方の“マジ”だな


「 …ホントにねぇ …もう 」


たじたじな私に、追い打ちをかけるように


「 マジで、ゲンマが好きなのかって聞いてんのよっ 」


今にも胸ぐらを掴まれそうな剣幕に


そっちか… と慌てる


「 好きなんて… そんなぁ… 」


シドロモドロな私に


「 あんたは、好きでも無い男とヤッちゃうような 尻軽女だったの! 」


そんな… 身も蓋も無い言い方…


うな垂れた私の頬を、容赦無くガッツリと掴むと


紅ねぇさんの方を、向かされる


「 あんた、何歳? 」


ねぇさん顔が怖いです


自分の歳を素直に言うと


「 三十路過ぎた女が何をしてんのよ! しかも顔見知りとってっ 」


顎をぐらぐらと揺すぶられ、脳震盪をおこしそうだ


…ごもっともです ねぇさん


どうしてかと言われると…


自分でも、悩むところだケド


確かに、ここ最近 数少ない同僚の死や 長年床に伏せていた祖母の死など、心労が重なり


ポジティブが売りの私にしては、とても疲弊していた


だからなのか、普段そんなに飲まない酒量が増え


誰かの温もりを求めてしまった


いや…


あれは、ゲンマだったからだ


他の人だったら、あんな事にはなっていなかった


たぶん、私の中に ゲンマはずっと居たんだと思う


最初は、その端正な顔立ちでも 女性受けする立ち居振る舞いでもなく


綺麗な髪だな〜” それが第一印象だった


私は、くせっ毛なんで 羨ましい


そんな事を思いながら、眺めていた


でも、その後 何かが芽生える訳でも どうにか発展する訳でもなく


他の男性と付き合ったりもしたが


あの日… 背負われた私の頬がゲンマの髪に触れ 


なんだか それを急に思い出して


目の前の、ゲンマの背に 縋りたいと思ってしまった


「 で、どうするのよ… 」


すっかり呆れ顔の紅に言われ 考える


… どうする…って…


どうにもなりっこない、ただの酔った勢いの戯れ


お互いに、いい年なのだ


遊びなのかとか、責任取れなど 言うつもりは毛頭無い


私自身でさえ、こんなに気持ちがふわふわと揺れていて定まらないのに


相手のゲンマに何かを言うことも 求めることもできない


「 どうもこうも… どうにもならないよ 」


紅は、私の考えを見透かしたように


「 まぁ〜そうねぇ… いい年して 責任とっても無いしねぇ
まして、若い生娘ならまだしも ゲンマだっていい迷惑だわね 」


…返す言葉もありません


「 あんたも、久しぶりに楽しんだんだから良いじゃない! これに懲りたら、好きでもない男と寝るのは止めなさいよ 」


ビシビシと突き刺さる言葉を残して、席を立った紅を見送り


私も、書類整理に戻らないと そう立ち上がりかけた時


「 … シズネ上忍 」


なんだろうこの改まった言い方


て、 この声!!


大袈裟に驚き振り返った私に


「 鍵 」


単語だけ言葉にすると、パチンと音をたてて机の上に私の部屋の鍵が置かれる


何も言えず無言の私を、睨むようにジッと見つめてから


「 俺は、勘違いするとこだった あぶねぇ あぶねぇ 」とお道化たように笑って


普段と変わりなく、千本を揺らし 何事も無かったように去っていく


違う!


口にしたかったが、何が違くて どう説明すればよいのか


言葉にできなかった










つづく







もう少し続きます








 

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