06/03の日記
02:15
偽り B
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夜、俺を気遣って 店を休ませてくれたゲンマさんは
ずっと俺の傍らに胡坐を掻き 頭を撫で続けてくれていた
俺は、泣くだけ泣いて 泣き疲れて眠るを繰り返し
ガキよりも性質が悪い感じなのに
そんな俺に、ただただつき合ってくれるゲンマさんに
申し訳ない思いで一杯だ
それでも、俺は この頭に乗る手の温もりを手放せなくて
その手に、縋っていた
今、一人になることは 酷く怖かった
「 奈良… 」
それまで、口をつぐんでいたゲンマさんが ゆっくりと話だす
「 おまえが一人になりたきゃ、部屋を出て 」
ゲンマさんが言い終わらないうちに、必死にその腕を引き寄せた
一人に、なりたくない
もう、誰かの傍に居られなくなる事も 誰かが居なくなってしまう事も 残されて一人になる事も嫌だ
こんな思いが間違っていて、ズルくて卑怯でも
どんな手段を使ってでも、もう一人にはなりたくなかった
急に引っ張られ、バランスを崩したゲンマさんが
俺の上に乗りかかる形になり、慌てて体制を立て直そうとする
その腕をキツク握り締め
「 抱いてくれ… 」
ふり絞るように吐き出した 擦れた声だが、確かに聞こえたようで
ゲンマさんは、驚いた顔の後 スグに
「 それは、出来ねぇ相談だな… 」
真っ直ぐ、薄茶色の瞳を向けてくる
俺の真意を探っているような視線に、思わず目を逸らし
誤魔化すように、その首に腕を回す
「 あんた… 昔も今も… 俺が何してたか 全部、お見通しなんだろ… だったらいいじゃないか… 」
意を決し、逸らした視線を合わせ 誘うように笑ってみせた
「 綺麗な身体じゃなくて、悪いけど お願いだ… 抱いてくれ… 」
ゲンマさんは、暫く黙って俺を見ていたが
溜息と共に、縋りつく俺の腕をやんわりと解き
「 あんま自分を安売りすんな… 」
言ってから、困ったように笑った
俺は、それでも必死で
ゲンマさんの形の良い唇に強引に口づける
本当に、ガキみたいに諦めが悪く 無茶苦茶必死な俺を押し留め
「 奈良… あんま、俺を困らせんじゃねぇよ… 」
頬を掻きながら、再度溜息を吐き 俺の頭を撫でる
もう、俺は 誰にも必要とされていない
もう… 誰も
止まっていた涙が溢れだす
どうしようも無い虚無感や絶望感で震えだす指先を
ゲンマさんが、ギュっと握る
「 おまえが必要とする人は、他にいんだろ… 」
ゆっくりとした声なのに、強い口調で
ただ、カタカタと震える俺を 自分の胸元に引き寄せ
「 奈良… 俺は、おまえが思ってるより 大人じゃねぇ 」
後ろ髪を優しく撫でる
「 他の誰かを、想いつづけるおまえを抱ける程… 人間できてねぇんだよ… 」
苦しいくらいに、ギュッと抱きしめられ
「 最後の最後… もうどうしようも無くて そん時まだ俺の顔が過ぎるようなら… 」
俺の肩口に顔を埋め 低い声で
「 … そん時は、 遠慮なく来い 」
俺の耳元で、噛み締めながら吐き出される言葉に
心臓が、酷く痛い
苦しくて息もできなくて
涙が一気に溢れ出し止まらない
目の前の、ゲンマさんの アンダーシャツを握り締める
「 … そんなに …そんなに、俺に優しくしないで ください… 」
嗚咽の合間にやっと言えたのが
「 俺に、そんな価値は 無い … 」
そんな言葉で
俺は、この人を巻き込んだ事を
酷く後悔した
それから数日後、任務は最初の計画通りに終了した
あれから、ゲンマさんは変わらず
いつも通りで
あんな八つ当たりのようなとばっちりのような最低な目に遭ったというのに
あの日の事は、何も無かったようにふるまってくれている
それは、あの人の優しさで 大人の対応なんだと思う
ただ一つ変化があったのは
あれから、ゲンマさんは俺と二人きりになる事を避けるようになった
当たり前だ、自分の感情だけ押し付けて 勝手でガキでしかない俺の事なんて
さぞ呆れて疎ましがられても仕方ない
なのに
「 頼むから勘違いすんなよ… 」
頭をガシガシと掻きながら、突如切り出した言葉は
「 おまえと二人だと、俺が不味いんだ 」
俺を甘やかす言葉で
いつもポーカーフェースのこの人らしく無く
しどろもどろで苦笑いなゲンマさんの顔を
真面に見れない
胸を締めつけられるような息苦しさに、無意識に鳩尾辺りに手を置くと
「 奈良、そんな顔するなよ 」
溜息と共に、いつもの用に頭をワシャワシャと撫でられ
俺は、俯く事しかできなくて
何かと折り合いをつけようとしているゲンマさん
その何かに触れられない俺
こんな誰かに頼ってばかりの弱っちい俺は、迷惑にしかならない
自分の足でシッカリ立たねぇと
俺は… どこにも進めない
つづきます
ゲンマさん推しです(笑)
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