04/30の日記

23:59
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ズルッと滑り落ちた腕を、片手で戻しながら彼女を背負い直す


まだ、日付を越えて少しなこの時間は


まだまだ繁華街の人通りは多く


こんな強面の男が、特上でも高嶺の花な彼女を背負って歩いている姿なんて


ワザワザ噂話の的になるようなもので


意識的に、裏通りを選んで歩いていた


復興が進んだとはいえ、まだまだ空き地の多いその通りは


電燈もまばらで


風が空地の雑草を撫で、吹き上げていく態に


思わず空を見上げた


「 今日は、星がキレイだなぁ 」


感嘆の声を上げるが、ただの大きな一人言になった と恥ずかしくなり


あははっ なんて力なく笑って誤魔化した


それにしても分からない…


何故、今 俺は彼女を送るはめになっているのか


そりゃあ、気になる存在で 好意はあったが


多分、俺と彼女の接点は 恐ろしく少なく


全うに話をしたのも、今日が初めてだと思う


なのに… 彼女は、俺の隣に座ったかと思うと


ガンガンと酒を呑みまくり


あれよという間に、胡座をかいた俺の膝にコテンと寝込んでしまったのだ


回りの男連中は、「どけっ!」「俺と代われっ」や、酷いヤツは「彼女の頬が腐るっ」なんて言いやがって


それでもなぜか、俺のズボンを握り締め寝入る姿に


「 … … … もう、おまえが送っていけ 」


と半分諦めの溜息を吐かれ、今に至る


気になったのは、彼女の住むアパートを アンコ達に聞いた時


普段なら、大反対されそうなのに


案外あっさりと、彼女の家を教えてくれ…


少し拍子抜けした


まぁ、アイツらは酒好きだから 飲んでいる途中で送って行くのが めんどくさかったのだろう


「 ちゃんと送って行きなさいよっ 」


なんて、逆にハッパをかけられて


普段なら、彼女に近づく男共を 蹴散らして歩ってるような奴らが…


「 女は、よく分らん… 」


また溜息が漏れた


俺は、残りの距離を惜しむように ゆっくりと歩いた


温かな背中の感触


「 ドキドキするとか… 俺、幾つだよっ 」


今まで、何人かの女性とはつき合った事がある


ただ、彼女は別格で… なんて言うか…


俺の心の特等席にドーンと君臨する存在で


他の誰とも違う特別な存在だったから…


でも、俺も高嶺の花の彼女とつき合えると思うほど 身の程を知らない訳じゃ無い


だから、ずっと 知らないフリ 見ないフリをしてきた


なのにこんなコト…


「 俺の“運”、今日で使い果たしたかも… 」


力無く笑ったが、それでもいいや なんて思っちまう時点で


俺は忍び失格だな…


目的の彼女の家まで辿り着いた



予めアンコに渡されていた鍵で部屋に入る


彼女らしい、スッキリとした室内


所々にある、ぬいぐるみやハートのクッションなどが女性らしさを感じさせた


取りあえず、室内を見回し ベットを見つけると


そこに彼女をゆっくりと慎重に下ろしたが


靴を履いたままだった事に気づき


慌てて脱がせ、玄関に揃えた


一呼吸吐くと このままでは、寒いかもと思い直し


そっとベットの淵に腰掛け、彼女に薄手の布団を掛けた


色の白い彼女の頬 それに近い桃色の布団は、彼女に良く映えた


今日は、酒が入っている所為か


若干、赤味が強い気がする


触ったら 柔らかそうなネコ毛


伏せられた長い睫毛


カタチの良い唇も…


「 綺麗だ… 」


思わず呟いた言葉が、静まりかえった室内に響いて


恥ずかしくて、ガシガシと頭を掻いた


まだ宵の口、幸い明日は休みだ


ゲンマやアオバ辺りは、まだ残っているかもしれない


「 店に引き返そう… 」


そう呟き、腰を上げようとした俺の腕が引かれ


不意な事に、布団の上に倒れ込んだ

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