東方求望記

□もうひとつの願い
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奈々 「泣かした?」

「そう、それで慰めようと思ったんだけど、それが霊夢の気に障ったらしく、今朝も怒ってた」

奈々 「霊夢、怒ってたの?」

「恐ろしい笑顔だった。やっぱり慰めるのに、抱きしめるって発想が間違っていたんだよな」

奈々 {まさか、私の思い違い?そもそも、貴将の考え方って・・・}

「奈々さん?」

奈々は、徐に立ち上がると貴将に抱きついた。他人から見れば、父を抱きつく娘にしか見えないのだが。

「ちょっと、奈々。いきなり何?」

奈々 「私は、今怒ってるのよ。私のしたいようにさせなさい」

奈々は悪戯っぽく笑って言った。

「まあ、これで奈々の気が収まるなら」

貴将は、ホッとしたように言った。

奈々は、思う。貴将は、あの異変で少し考え方が変わってしまったのかもしれない。それで、人の気持ちを間違って解釈しやすくなった。それでも、いつか、自分は・・・。

「寝ちゃったみたいだな。でも、結局奈々は、何で不機嫌だったんだ?まあいいか、奈々の機嫌も収まったみたいだし」

貴将は、奈々をお姫様抱っこして、来た時と同じように影の中に潜っていった。

博麗神社

霊夢 「早かったわね」

貴将が、神社の境内の前に現れるとそこには霊夢が待っていた。

「ああ、結局、奈々が何に怒っていたのかは、わからずじまいだったけど、ちゃんと戻ってきてくれてよかったよ」

霊夢は、そうだね、と苦い笑みを浮かべて返す。霊夢は、朝の時点で気が付いていた。昨晩の貴将の行動に特別な意味はないことを。しかし、残念がることはない。最後のチャンスだったわけではないのだから、まだ・・・。でも、この三人での関係を壊したくない、とも考えている霊夢だった。

翌日

奈々 「いいのかしら」

奈々は不敵に笑って言う。

霊夢 「今の奈々では、勝負にすらならないよ」

霊夢も不敵に笑って言う。奈々に、今日の予定についてはすでに話してある。

霊夢 「それに、まだ確実に治ると決まったわけではないのよ」

奈々 「わかってるわ」

貴将 「じゃあ、日が暮れたらすぐに帰ってくるよ」

貴将と奈々は、霊夢の書いた地図を持って永遠亭へと向かった。

道中

二人は、竹林の中にある一本道を歩いていた。周りは、同じような色、形の竹が生えていて、目印になるようなものはない。霊夢によると、竹林に入ったら、迎えを遣すように頼んだらしい。が、姿は見えない。

貴将 「なんだろう。この展開判っていた様な気がする」

貴将は何かを悟ったように言った。
霊夢に案内をする妖怪は、悪戯好きの兎であることを聞いていたのだ。

奈々 「案内の兎が来ても辿り着けない気がする・・・」

半分諦めたように言った。
それから、一時間ほど歩き回る。博麗神社を出てから約5時間が経過した、昼過ぎ。太陽が真上にある、貴将のもっとも嫌いな時間帯である。そんな中2匹の兎が現れた。一匹は、癖のある黒髪のショート。背丈は、奈々より少し高いぐらいだろう。頭には兎の耳が生えていて目には涙を浮かべていた。そんな兎を引っ張って歩くもう一匹の兎は、地面に届きそうな程の銀髪。背丈は隣の兎とは頭一つ分以上高い。特徴的なのは、見た者を狂わせそうな赤眼。しかし、今は怒ったような困ったような色を浮かべていて、本来の役割を果たしていない。

?? 「貴将さんと奈々さんですよね?」

「ああ、そうだよ」

?? 「すみません、遅くなりました。自分は鈴仙・優曇華院・イナバと申します」

鈴仙は、とてもすまなさそうに言った。

奈々 「気にしなくていいわよ。私たちがお願いしに行くんだから、気を使わなくていいわ」

奈々は特に怒っていないらしい。

鈴仙 「ほら、てゐ。挨拶して謝りなさい」

てゐ 「う゛〜」

どうやら、小さいほうの兎はてゐと言うらしい、そして、涙を浮かべているのは鈴仙が怒ったからのようだ。

鈴仙 「全く・・。すみません、この子は因幡てゐです。てゐに案内を頼んだんですが、サボっていたみたいで」

貴将も、初めからこんなに腰を低くして謝られたのでは、起こる気にはなれないので、大人の対応をして永遠亭へと急ぐことにした。
この時てゐの口の端がつり上がっていたのは、後の話。
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