聖銀の魔法使い

□第8話
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「王子役――!?

さくらがか?」


12月…友枝小学校では毎年学芸会がある
今回、さくら達は劇をすることになったらしい


「きっと可愛い、王子さまになりますわ―!」


「で、お姫様は誰やねん?」




「李くん」


ズザザザザ…


「なんじゃ、そりゃ――っ!!!」


豪快につっこみとうら手をきめたケルベロス…
だが、これはすべてあみだくじで決まったことなのでしょうがないのだ


「しっかし、なんであの小僧が…」


「李くんもきっと可愛いお姫様になりますわ!」


「どの役にも公平にチャンスがあるように、観月先生の提案なんだって」


「観月先生って休んでる算数の先生のかわりにきたんやったな」


「うん。綺麗で優しいんだよ…

でも、李くんが…」


そう、小狼は明らかに観月歌帆に警戒している


「“気を付けろ”言うとったんやろ?

わいは会うてへんからわからんが…」


「でも、レイさんは…」

《心配しなくても、観月さんは味方だ》


あの《迷》の神社でたしかにレイは自分にそういってくれた



「そうか、レイにいちゃんがなぁ…

もしかしたら、にいちゃん何か知っとんのかもしれへんなぁ」


「うん。」


「まぁ、どっちにしてもや…この町になんか“力”が集まってきてるような気はするんや」


「力ですか?」

当然、魔力のない知世はわからない


「魔力のむっちゃ強いもんがおる気配と…

なんか起こりそうな感じや」


「…!」


「レイにいちゃん。この頃、夜姿見んやろ?」

「う、うん」

確かにレイはこの頃日が暮れてから部屋を開けていることが多くなっている


「散歩がてら、町の見回りするいいだしてん」


「それは、レイさんお一人でですわよね?」


「なっなんで、危ないよぉ!」


知世とさくらは夜に一人見回りをしているというレイの身を心配せずにはいられなかった


「いんや、さくらと知世が思っとる以上にレイにいちゃんの力は強いんや。

もしかしたらクロウよりも強いかもしれん


力がまだ中途半端なわいやまだ子供なあんさんらがおったら逆に、にいちゃんの邪魔になるで」


「それは…っ!」


わかってはいるが、だが彼の身を心配せずにはいられないさくら


「…(けど、無茶はしたらあかんでにいちゃん)」


だが、それはさくらや知世だけではない。ケルベロスもそれは同じ心境だった



さくらたちがそんな会話をしている頃…






ザァ…



『…ほぅ、おれの気配に気づいたか…』



「…君、だれ?」


そう、ここは雪兎の住む家だ…
その庭にある高い樹の枝に片膝を立てて座り見下ろしてくる、銀髪の長い髪を靡かせた男を雪兎は驚きながら見上げた


『…わからねぇか?

そうか、そこからだとおれの顔は見えねぇか』


「君は誰なの…?」


『さてね…自分で考えな…』


「…どうしてここに?」


『…なに、散歩のついでに寄っただけさ


邪魔しちまったな、雪兎』


ふわっ
「…っ!?」



レイはすっと立ち上がり、ふわりと宙に浮く



「待って!何故、君は僕を知ってるの!?」


その言葉にレイはふっと笑みを深くする



『…おれはあんたの近くにいつでもいるからさ』


「!え…」


『…あんたとおれは似たようなもんだ

だから、心配なんだよ
昼のおれもな』


「…!?」



『フッ…じゃあな』



不敵な笑みを溢し、ゆらりと姿を消したレイ…

雪兎は彼のいた場所を戸惑いを隠せない瞳で見つめていた




……

―木之本家―

ゆらっ…



『…(すっかり遅くなっちまったな…)』


雪兎と会ったあと暫く夜の散歩をしていたレイが木之本家に着いたのは、もう夜も遅い時間だ

外から窓を開け、中へ入ったレイだが…










「どこ行ってたんだ?こんな夜遅くまで…」


『…!』


明かりのない真っ暗な室内に聞き覚えのある声が響く

『…何、夜の散歩さ



そう怒るなよ、桃矢…』


「…」


桃矢は無言のまま、ズイッとレイに近寄った


『…どうした?』


「この頃、ずっと夜抜け出してんだろ
どこで何してたかまでは聞かねぇけどな


外に出るなら出るで一声かけろ。心配すんだろ」


『…、そいつは悪かったな
気を付ける』


「んなら、いい」


困ったように瞳をふせ微笑んだレイを桃矢は一目見るとドアノブに手をかける



「レイ…」


『…?』


背を向けて話しかけてきた桃矢にレイも彼を見た






「…頼むから、いなくなるなよ」


『―――!!』


その言葉にレイは紫の瞳を見開いた



「お前が遠くに行ってしまいそうな気がするんだ」


『…』



彼の異質な気配はただただ綺麗で、儚くて…


目を離したらすぐに消えてしまいそうで…

彼がいたことがただの“幻”になってしまいそうで…







『…桃矢』


「…!」


桃矢は背後の間近な距離から聞こえた低く艶のある声にハッと息をのんだ



『…そのまま聞け』


「…っ」

唇が左耳に近づけられ、ゾクリとする声が脳内に響く




『…例えいなくなってしまうとしても…


お前らに黙っていなくなったりしねぇよ』


「…レイっ」


『いつ、誰がどうなっちまうかなんざ…んなことわからねぇよ』


顔は見えないが彼が苦笑いを浮かべているだろうことはわかった




「なぁ…っお前は…

『見ず知らずの…何者かもわからねぇおれを…何も聞かねぇでこの家に迎えてくれて感謝してんだ』


桃矢の言おうとしたことを阻み、レイは話す



『…悪りぃ、無私の良すぎることかもしれねぇが


まだ何も聞かねぇでくれ』

「…!」


桃矢はレイの悲痛な感情を含んだ声色にハッと息を呑んだ


そして、自分は何をしているのかと…


「……っ(こいつが自分から話すまで聞かないと、そう決めたじゃねぇか)」


そう、彼がどこからきたのか…
一体何者なのか…そんなことはどうでもいいと自分に言い聞かせてきたではないか。



『…桃矢…?』


「聞かねぇよ」


『…!』


「お前が自分から話してくれるまで、何も聞かねぇ

だから安心しろ」


桃矢はレイに向き直り、彼を見つめた



『…、すまねぇな

ありがとよ』


「…あぁ」


ただ、彼が自分の傍に…この場所にいてくれるなら…

この優しい、きれいな笑みが見れるなら…

他のことはどうでもよかった


「気にすんな、家族だろ?」


『…、そうだな』




夜は更けていき…2人の姿を優しく照らしている月…

それはまるで見守っているかのようだ



一時して、桃矢が自室に戻ったあと…

レイはため息をついたあと苦笑いを浮かべた


『…(時は待っちゃあくれねぇか)』


レイにとってその月が自分を嘲笑っているように感じた



『(黙っていなくなったりしねぇ…か、よく言えたもんだ)』



レイは苦笑いを浮かべると何かを耐えるかのように瞳をとじた





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