聖銀の魔法使い

□第8話
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―友枝小学校―

学芸会当日…



体育館内は児童の保護者やその他の人が多くいた


そんな中…





『…何故、お前がいる

安藤…』


「えぇ〜何でそんな嫌そうな顔すんだよ

今日、部活休みで
暇だったから来たんだよ」


ニッと笑う焦げ茶色の髪の持ち主にレイは呆れた視線を向ける


「まぁ、いいじゃないレイ。」


「つか、安藤お前…レイにここまで嫌な顔されるなんて一体何やったんだよ」


「なんでなんかしたことになってるわけ!?
何もしてねぇから!」


にこやかに話す雪兎と苦笑いを浮かべる桃矢に安藤は弁解するように言うが…



『…うるさい』


「はい」


冷めたレイの言葉に安藤は素直に黙り込む


「おっ…レイ、次だぞ。さくらのクラス」


『…そうか』


「劇に出るんだよね」


「へぇ、なんの?」


『…“眠れる森の美女”だそうだ』


安藤の問いにそう答え、レイはまだ開くことのない幕に視線を向けた




一方…




「さくらちゃん、かっこいい――!」


「すっごくかっこいい!」

知世の手作りの王子の衣装を着こなすさくらに千春と奈緒子が絶賛する


「そいえば、お姫さまの李くんは?」


「お姫さまと王子さまは衣装、今日できあがったんだもんね」


「知世ちゃんが今朝、やっとできたって喜んでたよ

今、李くんに着付けてる…」


さくらが千春と奈緒子にそう言ったときだ




「絶対、いやだ!!!」



「「「?」」」


そんな小狼の大声が聞こえ、さくらは舞台裏の幕をそぉっと開ける


「わぁ…!!」


そこにはお姫様の衣装を身に纏った小狼の姿があった
恥ずかしいのか顔を赤らめ、ムスっとした表情を浮かべている


「かわいい―」


「ギッ…」


「……」


思わずそう口にしてしまうさくらを小狼はギッと睨み付ける



「よく似合ってらっしゃいますわ」


「似合ってない!!!

なんで、おれがこんなひらひらしたの着なきゃならないんだ!!」


「お姫様だからでは?」


「絶対いやだ!!!」


悪まで拒否を示す小狼に知世は近づく


「さっき、客席を見たら
レイさんと月城さんがいらしてましたわ」


「「!!」」


その知世の言葉に小狼だけでなく、さくらも反応する

「きっとこの“眠れる森の美女”を見にいらしたんですわ

劇が中止になったらレイさんも月城さんも悲しまれますわね


でも仕方ありませんわ
先生にお話して…」


「……やる!!」


どかどかと気合い十分に歩き始めた小狼をみてさくらは知世にすごいと笑顔を見せた



……







〔ブ――〕


舞台外では、劇の開始を意味するブザーが鳴る


「あ、始まるね」


『…桃矢、カメラ』


「お、そうだった。父さんに頼まれてんだった」


レイの言葉に桃矢はカメラを取り出す


「今日、親父さん来れねぇの?」


「うん。仕事なんだって」

安藤の問いに雪兎は答えると、開き始めたステージに目を向けた



[あるお城に王さまと王妃さまがいらっしゃいました

王さまと王妃さまがには長い間子供がなく…]



「この声、知世ちゃんだね」


『…そうだな』


雪兎に返答し、ステージに視線を向ける

ステージには王様役の男子生徒と王妃役の利佳の姿がある




[そしてついに王女さまが誕生したのです

王女さまの名前はオーロラ姫。
王様はお姫さまの誕生をたいそう喜ばれ盛大なパーティを催しました]


知世のナレーションと共にに舞台袖からわらわらと役にそった生徒たちがステージに現れた


[国中の人たちがお姫さまの誕生をお祝いしています]



その後もスムーズに劇は進んでいく…


観客…桃矢も雪兎も微笑ましげに劇をする子供たちを見つめているが…
レイは青い瞳を細め眉間にしわを寄せた


『(かすかだが…、これは…)』


ほんの僅かに感じる身近な気配…
己と酷似した“それ”


『…』


恐らく気がついているのはまだ自分だけだろう
レイは無言で雪兎に視線を向けたが、すぐに瞳をステージに移した


彼を見ていたところで無意味だ
彼はなにも“知らない”のだから…



「レイ?」


『…?なんだ』


「レイはさくらちゃんがなんの役するか知ってる?」


『…いや、おれも聞いていない』


「あいつレイにも言ってなかったのか…」


「こっから先に出る役つったら王子か姫しかねぇな

そのどっちかじゃね?」


『(そういえば小狼もまだ出てないな…)』


安藤の言葉を聞いたあとレイは知世のナレーションに耳を傾けた




[魔女の呪いを聞いて、王さまはさっそくすべての糸車を燃やすようおふれを出しました


お姫さまの誕生を本当に喜んでいた国民たちは皆、このおふれに従い
国から糸車は消えたのです]



[それから16年


オーロラ姫は美しく成長しました]



ステージ上には王さまと王妃の姿があった


「オーロラ姫や」


王さまの呼び掛けに姿を見せたのは…






「は、はい…」


緊張のせいかぎこちなく、ぎくしゃくと姿を見せたのは小狼だった


「あ、あいつ…!」


「へ―よく似合ってんじゃねぇか、あれ男だろ?」


驚く桃矢に対し感心したように話す安藤


「わぁ…、可愛いねレイ」


『…そうだな』


「がんばれー。ほらレイも手振ってあげてよ」

緊張し、顔を真っ赤にさせる小狼に、にっこり笑い手を振る雪兎。レイもフッと表情を和らげてみせた


「!」


そんなレイと雪兎の姿をみて小狼のやる気メーターは上昇し、さらに爆発する


「なんでしょうか!!
お父様!お母様っ!!」


棒読みのうえ張り上げられた声に王さまと王妃は耳をふさぐ




そんな小狼を知世の横でみたケルベロスは引き吊った笑みを浮かべる


「け、けっこう似合うとるやんか…;

演技はだめだめやけど」


「李くんに似合うようにがんばって作りましたもの」

おほほと微笑む知世を見るとケルベロスは再びステージに視線を向けた





「オ…オーロラ姫
今日は姫の16歳の誕生日だ

なにか欲しいものはないかね」


「いいえ!お父様!!

お父様とお母様がお元気でこの国が平和なら何も欲しいものはありませんわ!!」


握りこぶしをつくり、やけくそで熱演する小狼
王さま役の男子生徒と王妃役の利佳はたじたじながらも演技を進める



そんな彼らの演技をみてか…



「…おい、安藤…大丈夫か、お前」


「…やべ、うける」


小狼の演技が笑いのつぼに入ったらしく、安藤は必死に笑いを堪えているが…何故か片手でレイの背中をバシバシ叩く


『…』


「レイ…抑えて抑えて…」


殺気立つレイを宥める雪兎をよそに劇はすすむ




「…みっ…ミスキャストや」

どかどか歩くお姫様がおるかい!!と知世の横でひっくり返りながらつっこみをいれるケルベロス



[オーロラ姫は自室に戻りました

すると…そこには国からなくなったはずの糸車が…]


「まぁ、なにかしら!?」

[オーロラ姫は糸車をみたことがなかったのです

不思議に思ったオーロラ姫はそっと近づき…]


知世のナレーションとは裏腹にどかどかと糸車に向かっていく小狼…


ぶっすぅっ!
「いっ!!!」


ジャジャーン


糸車の針に思いきり指を突き刺した小狼は痛みに耐える暇なく効果音により、その場にばったりと倒れる


「…指思いっきり突き刺してなかったか」


「大丈夫かな」


「あ―おもしれぇな、あいつ…」


『…』


よく笑ったとでもいいたげな安藤をレイはじとーとした視線を向けるが本人は気づいていない


そしてステージには魔女役の山崎の姿がある


「国中の糸車を燃やしても無駄なこと!
わたしの呪いは絶対なのだ!」


高笑いをしながら幕袖へと去っていく魔女…




『…魔女の呪い…か』


「?レイ…なんか言ったか?」


『…いや、何でもない』


ボソっと呟かれた言葉は誰にも聞き取ることはできなかったようだ




そして舞台はいよいよ終盤へとすすむ…




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