月夜の旅人

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「また値上がりしたの?
ちょっと高いんじゃない?あんたんとこ」

新聞配達に来たカモメ…ニュース・クーに代金を支払いながらナミが不服そうな面持ちでそう話しかけていた。


天候は晴れ…
穏やかな海の上をメリー号は航海を続けていた。


「クーー」

「今度上げたらもう買わないからね」

困ったようにペコリと頭を下げ、飛び立って行ったニュース・クー。

「何を新聞の一部や二部で」

「毎日買ってるとバカになんないのよ!」

相変わらず金にうるさいナミに、作業のために手を動かしながらウソップが呆れたように話す。

彼はタバスコを元にした火薬をつくっているようだった。

だが、そんな時だ。


「触るなぁ!!!」 「うわぁ!」

「「!!!」」

ガシャァアン!!!
ビチャッ!

「ぎぃやぁあああ!!!」

飛ばされて来たルフィがぶつかってきた反動でウソップの目にタバスコが入ってしまったようだ。


「いいじゃねぇか!1個くらい!!」

「ダメだ!」

ウソップの悲痛な叫び声をよそにルフィは自分を蹴り飛ばしたサンジに批難の声をあげる。

ルフィはナミが故郷から持ってきた蜜柑の木からそれを採ろうとしていたようだ。

サンジはルフィが蜜柑を採るのを防ぐため、蹴り飛ばしたのだ。


「まぁ、いいや。おれは今うれしいから」

「ナミさん、恋の警備万全です!」

「んんっ!ありがと、サンジくん」

女性に目がないサンジをいいように扱うナミは軽く返答し、新聞をパラッとめくり、目を通した。


「いいように扱われてんな、あいつは…」

ゾロはそんな光景をはたから呆れたように見ていた。


と、そんな時だ…

ガチャッ

『……少し目を離すとすぐにこれか…』

「お、レイ…。悪りぃな」

キッチンに続く扉から姿をみせた見慣れた銀髪。
レイの手には救急箱がある。

つい先程まで彼はこの場にいたのだが、まだ先日の戦闘で怪我が治っていないゾロの傷の具合を見るため救急箱を取りに行っていたのだ。

『……ゾロ、少し待っていてくれ』

「ん?おう…」

救急箱を自分の傍に置いて、また歩み出したレイをゾロは見つめるが…


『……ウソップ、じっとしていろ。』

「うぉおお!!レイっ!!
おめぇはやっぱ優しいなぁっ!!!」

「……」

レイはタバスコで喚いているウソップの様子を見て放っておけなかったのだろう。
彼の両目をとじさせ、その前で手をかざしている。
ぶつかった本人であるルフィは全くウソップを気にかける様子もない。

「あいつはルフィの尻拭いしかしてねぇ気がすんな…」

ウソップの両目を冷やしているのだろう。
それをしながら、彼はルフィとサンジに視線を向けてウソップに謝罪するように穏やかに言葉にしている。

そしてナミにも蜜柑の警備をサンジにずっとさせておくわけにはいかないだろうと、
ルフィには許可なしに口にしないようにと伝えている


「本当、こいつらが自由だけどまとまってるのはあんたがいるからよ
レイ。」

『……おれは何もしていないが…』

「そうよね、あんたが“普通”なのよね
まともで冷静で穏やかなあんたの存在にすごく救われるわ」

『……大丈夫か、ナミ』

「あんたがいるから大丈夫よ」

『……なんだそれは』

ハァ…とため息をつきながら再び新聞に目を通し始めるナミだったが…



ピラッ

「「「ん?」」」

「ちらし…」

『……』


新聞からピラッと落ちた1枚の紙にゾロ以外が全員目を向ける

それは…



「あ…」
「あ…っ」
「あ!」
「あ…?」
『……』
「おっ」


「「「あああああーーーーっ!!!!」」」

賞金首を現す手配書…
レイと怪訝そうにこちらを見るゾロを除いた船員全員の声が響いた。


『……』

レイは今だに騒いでいる船員たちをよそに床に落ちたそれを手に取り目を向けた。

モンキー・D・ルフィ
賞金額 3千万ベリー
生死問わずと記載があるが、政府は公開処刑を望んでいるため生け捕りが基本である。

『……3千万…。妥当な額か』

レイはそれをルフィ本人に手渡した。

「レイ!おれも“お尋ね者”になったぞ!!
お前と一緒だなっ!」

『……そうだな。』

「3千万ベリーだってよ!!」

嬉しそうに大きな口を開けて豪快に笑う船長…
後頭部だが、自分の姿が写っていると自慢気な狙撃手。
そしてそれが自慢になるかというコック…



「レイ、こいつら見事に事の深刻さがわかってないわ」

『……理解しろと言う方が難しいだろう。何を今更…』

がっくりと頭を抱えて言う航海士にそう淡々と返答する副船長。

『……“東の海”、最高賞金額。
“ノコギリのアーロン”の2千万ベリーを抜いての初頭賞金額か…。』

「そうよ…、この額ならきっと“本部”も動くし強い賞金稼ぎにも狙われるわ…」

「つっても、レイ。
お前すでに高額賞金首なんだろ?

本部が動き始めるっつうより、もう動いてんじゃねぇか?」


「「「「!!!!」」」」

ウソップの言葉にナミをはじめ、ルフィたちがバッとレイを見つめる。

『……“赤髪”をおりたのは本部に知られていてもおかしくはないが、

“麦わら”の一味に加わったとはまだ情報にないはずだ。』

「そ、そう。なら大丈夫よね!」

『……どちらにせよ、船長が1千万超えの賞金首になったからには早々と“偉大なる航路”に入った方がいい。』

「そうね、のんびりやってる場合じゃないわ」


あの“死神”と“鷹の目”が情報をもらしてさえいなければ、自分のことはまだ大丈夫だとは言える。

『……そろそろ“あの島”が見える頃だ』

「あの島ってのは何だレイ?」

「おい、何か島が見えるぞ?」

サンジの問いに答えようとしたレイだが、ゾロの言葉に遠くに見える島に目を向けた。


その島とは…“ローグタウン”
別名“始まりと終わりの町”

かつての海賊王“G・ロジャー”が生まれ…
そして、処刑された町だ…。


「海賊王が死んだ町…!!」

『……』

「行く?」

ナミの問いかけに、真剣な面持ちで遠くに見える島を見つめていたルフィが
無言で頷いた。


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