開かない心

□まだ見えぬ空
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いつになったら、コイツは目を覚ますんだろう。


空から降ってきた男を病院に搬送してかれこれ三時間。
病室の綺麗なベッドに頬杖を付いて早二時間。
まったく起きませんがな。
太陽なんてとっくに暮れている。
男はあの高さから落ちたにも関わらず命に別状はないらしい。
医師にはそう告げられた。
だとしても、心配なんだよな。

「悠斗はお人よしだね」

考え込んでいたら隣りの椅子に座ってくつろぐ和己に笑われた。
それに俺はムッとして和己を睨むと和己は肩を竦め男を見た。

「丈夫だよね、この人」

「たしかに。普通死ぬよな」

俺は改めて男の顔を見遣った。
端整に整った顔には傷が痛むのか眉間に深い皺が刻み込まれている。
命に別状はなくても傷は痛むのだろう。

「しっかし…綺麗な顔してるよな」

俺は笑いながら男の冷や汗で張り付いた髪を分けてやった。
すると和巳は驚いたように俺を見上げた。

「怖くないの…?」

「何が?」

首を傾げた俺に和巳は慌ててなんでもない!!と笑った。

相変わらずおかしな奴だな。

「誰だ…?」

下から聞き覚えのないテノールの綺麗な声が聞こえて来た。
驚いて俺と和巳はベットで気絶していた男を見た。
男が目つきの悪い低血圧特有の焦点の合わない眼で俺達を見上げていた。

「貴様らは自分の国の言葉すら理解出来ないのか?」

なんなんだ。この高慢な態度は…。

「ぶっ殺す!!」

「ちょっと、落ち着きなよ悠斗!!」

「これが落ち着いていられっか!?」

「もう。悠斗が熱くなってどうすんのさ〜」

あわあわする和巳を押しのけて俺は男を指差した。
それに男は驚く訳でもなく平然とゆっくりと起き上がる。

「これが命の恩人に取る態度か!?」

「たしかにそうだけど…」

「命の恩人だと?」

男は俺を眉間に皺を寄せて睨みつけた。
でも、俺は引かなかった。
だって、俺は悪くないから。

「そーだよ。空から落っこちてきたお前を介抱して病院まで連れて来て、あまつさえ目が覚めるまでそばにいてやった俺達に対する態度か?!」

「空から…だと!!?」

男は目を見開いて俺の胸倉を掴み引き寄せた。

「ああ、俺達が学校の屋上で昼飯食ってたら急にお前が降ってきたんだよ。なあ、和巳」

驚いた俺は早口ぎみにそう答えた。

「うん」



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