桜の木の下で
□思い出に浸れり
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「ヤッホー!帝都。遊びに来たぜ」
俺は勢いよく帝都の住むアパートの扉を開けた。
まぁ、いつもの事だから帝都に睨まれることも…たまにあるかな?
だけど、今日は帝都の姿が見当たらない。
「勝手にお邪魔しまーす」
靴を脱いで俺は家に上がり込んだ。
どこの部屋も電気がついていない。
「不用心だなぁ。おーい、帝都いないのか?」
俺はまず最初に帝都の部屋を覗いた。
そこには何かを熱心に覗き込む帝都がいた。
ここの位置からは帝都の後ろ姿しか見えないけれど優しく穏やかなのは何となく分かった。
何だか声がかけづらくて、しばらく様子を見ていることにした。
「覗きとはいい趣味ですね。愁君」
「いっ、いつから知ってたんだよ」
「先程、家宅侵入した当たりからですが?」
「つまり、最初からじゃん…」
「そうとも言いますね」
帝都はクルッとこっちを向いて笑う。
何だか俺は恥ずかしくて照れ隠しに頭を掻いた。
ニッコリ笑いながら帝都は中に入るように手招きする。
俺は軽く扉を開けて部屋に入った。
「本棚の整理をしていたら、中学校の卒業アルバムが出て来たんです。なんだか懐かしくてね…」
「あぁ、中学のアルバムか。久しぶりに見るな」
何故か嬉しくて床に座り込んでアルバムを覗き込んだ。
ちょうど稲武のシチュー作りのページだった。
意外と稲武の時のことは鮮明に覚えている。
なぜ山の中なのに定番のカレーじゃなくシチューなのかとか…。
はしゃぎまくって疲れ果てたキャンプファイヤーとか色々。
「覚えてますか?愁君、和也君と二人揃って人参やジャガイモの皮剥きする時に20回くらい指を切断しそうになってましたよね」
「いやぁ〜、あの時は大変だったなぁ。ってオイ!お前だって何か怪しいものシチューに沢山入れてたろ!!」
思わず俺は魂からツッコミを入れた。
なのに帝都は素知らぬ顔で「あれは、隠し味や風味を付けるためのスパイスです」なんて言いやがって…。
「それで入れ過ぎた結果、担任の松山と十人近くの女子を地獄に送り出したんだよな?」
「あの人達が味音痴だった、ただそれだけの話ですよ」
しれっと酷いこと言いやがったなコイツ。
松山と女子たちは別に味音痴じゃない。
むしろ、俺たちより優れている方だと思う。
だからこそ、あの危険物を食ってはいけなかった。絶対。
「色からして危なかったろ、あれは放射性廃棄物の域だぜ」
「何が危ないんですか?限りなく白に近くて美しかったじゃないですか」
「なら、聞くけど。ただのシチューなら具材の断面は消石灰みたいな純白にはならんぞ」
俺はあの毒々しいシチューの断面を思い出してげっそりしながら帝都を見た。
すると帝都は話題を変えた方が賢明と踏んだのかペラッと一枚ページをめくった。
次は応援合戦の写真だった。
写真は三年の時のものだった。
当時、俺と帝都はやっぱり腐れ縁のせいかクラスが同じだった。
応援団長も男子二人は俺と帝都だったし…。
帝都の場合は強制だったけどな。
結果的に俺は帝都と中学校三年間ずっとクラスが一緒だったが…。
よく考えたら、俺と帝都は何するのでも必ずと言っていいくらい一緒だったんだなぁと、しみじみ悪友(?)の顔を改めて見た。
やっぱりその顔は綺麗に整ってて悔しいけど、女子たちが言う白馬の王子様ってのはこんな顔してんのかなぁと思っちまう。
でも性格は変えた方が精神衛星上、絶対安全だと断言できるぞ。
口からは毒矢が飛び出すし…。
もし俺が女でしかもお姫様で帝都が王子なら、求婚されても俺は断るし、もし何かの手違いで結婚してしまっても逃げ出す自信、いや、確信がある。(というか、断言できるな。うん)
だから、顔に騙されて酷い目に会うんだな…。女子って。
こいつの本性を知らないから。
「見てください!演劇祭の写真ですよ」
「うげっ!これ、女王様的白雪姫じゃん」
「凄かったですよね。愁君の白雪姫」
帝都の指さしす写真には小人らしき役者を踏み付け高笑いする白雪姫がいた。
「うがーー!言うな!!」
俺はたまらず叫んだ。思い出すだけで穴に入りたくなるぜ。
帝都は面白そうに笑っている。
何だか無性に腹が立ってきた。
顔は多分真っ赤だろうな、パターン的に…。
女王様的白雪姫ってのは、女王様の性格した白雪姫が主人公の話で…。
その…白雪姫を俺がやったんだ。
化粧して、フリフリのドレスを着て、ピンヒール履いて…。
好きでやった訳じゃないぞ!!断じて!!!誰が何と言っても、絶対に…。