桜の木の下で

□僕は…
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額を撫でる温かい手の感触に僕は意識を覚醒させながら瞼を開いた。

「!……よかった」

そこには僕の額を撫でる愁君がいた。
愁君は少し驚いてから優しく笑う。
その笑顔と手の感触が心地よくて思わず目を細めた。
それを知ってか知らずか優しい手は額を離れることはなかった。

「薫さんのことなんだけどさ…」

言いづらそうに愁君は言葉を紡ぐ。
僕は大袈裟なくらいビクついてしまった。
それに愁君はため息混じりに苦い笑いを零す。

「…何があったんだ?」

そっと尋ねる愁君に僕は信じたくないありえない現実を話した。

帰り道突然消えてしまった兄。

その場をくまなく捜しても見つからなかったこと。

話している最中も震えてしまった手を額から離した手で握っていてくれた。
今はその心遣いが嬉しい。

「そっか…とにかく、みんな心配してっから顔だけでも見せてやろうぜ?」

「…みんな?」

「おう。春に直人さん。それにさっき来た光に翔太。みんなお前が起きるの待ってたんだぜ?」

「……すみません」

「謝んな。そんじゃ、そのしけた面どうにかしろよ!!」

「ありがとうございます」
僕は身体を起こしてベッドを出た。

「今はそんなん難しいかもしんねぇけど…笑っとけ。愚痴ならいくらでも聴いてやっから」

部屋を出る時に愁君は小声で笑った。
その囁きがまた僕に活力を与えてくれる。

「はい」

僕は精一杯の笑顔で答えた。
それに満足したのか愁君は僕の背中を叩いた。
少し痛かったけれどそこから愁君の優しさが伝わって来たような気がした。


大丈夫。
僕は一人じゃない。




END
 

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