桜の木の下で

□弟
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「ていとさーん!!」


「?」



―ガバッ!



物影から何かが飛び出して来た。


「春…」


愁は飛び出して来た少年の名前を頭を抱えながら呼んだ。
帝都も至って冷静に対処している。
少年は明るく笑う。

少年の名前は、三崎 春(みさき しゅん)。
中学3年生で愁の義兄弟。


「いらっしゃい、帝都さん♪」


営業スマイルを向けて上機嫌の春に帝都は合わせるように微笑んだ。


「ここにイチジクはありますか?」


「あるよね!!兄さん」


帝都に向けたものとは少し違う笑みを春は愁に向けた。
愁は倉庫部屋に続く扉を指で指示した。


「一番の左の棚の端にある」


「ありがと、帝都さん、ちょっと待っててね」


そう笑い倉庫部屋に春は消えた。
愁はふぅ…と溜め息を着いて帝都に苦笑を向けた。


「墓参りか?」


「そんな所です」


「あれから、結構経つよな」


「五年前です」


そのまま二人は黙り込んだ。
お互い話す言葉を持ち合わせていないのだ。
そんな静かな店の雰囲気はすぐに粉々に壊れた。
春が戻って来たのだ。


「あったよ。帝都さん☆」


パタパタと春は上機嫌な笑顔であらわれた。
手にはイチジクの箱が大事そうに抱えられていた。
愁は溜め息まじりに素早く前をスルーして帝都の元に駆け寄ろうとした春の手から箱をもぎ取った。


「あんっ!何すんのさ!!」

「煩い。気色悪い声出すな!!んで、幾つだ?」


「えぇと、それでは2つ頂けますか?」


二人の会話を聞いていた帝都は突然話を振られて少し慌てながら答えた。
愁は手早く箱から一番いい物をポケットに入っていたビニール袋の入れて帝都に差し出した。


「230円だ」


「はい」


「毎度」

帝都はイチジクと引き換えに代金を愁に手渡した。


「それでは、車に兄さんを待たせていますから。今日はこれで」


「ああ、薫さんもいるのか。んじゃぁな」


踵を返した帝都が急に扉の前で動きを止めた。
そして、肩越しに愁に笑いかけた。


「どうした?」


「いえ、ただ一つ言いそびれたことが…」


不審がる愁に帝都は少し笑いを堪えているらしく涙を拭うマネをして言った。


「また、愁君のエプロン姿みんなで見に来ますね」


「〜〜〜ッ!!///」


愁はカーッと羞恥心に駆られて顔を真っ赤にした。
そんな愁に帝都はクスッと一つ笑いながら物を投げられる前に店を出た。

その後、我に返った愁は込み上げてきた怒りに任せて帝都の出て行った扉に空箱を投げ付け、それが外周りをしていた雇主、つまり、店長の顔面にクリティカルヒットした。
そして、愁は厳しく鬼の形相の店長に説教をされたのは言うまでもない。


春はそんな義兄を愛しそうにみて苦笑まじりに「兄さんはやっぱりドジだね」と本人が聞いたらキレるセリフを呟いたとさ☆






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