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□歯がゆいゼロ距離
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「き、切原」
「何」
「なんでこんな体勢になってるんだ俺達」
「なんでって…日吉君が俺と向き合うの嫌がるから」
「嫌とかの問題じゃない、お前が抱きついてこようとするからだろうが」
「悲しいなぁ、愛情表現なのに」
「愛情表現するのにあんな目をする奴がいるか」
「あんな目?」
「…気付いてないのか。しっかり充血してたぞ」
「え、マジ?」
「さすがに正面からアレは、ぞっとしない」
「アレ扱いはないでしょアレ扱いは。体質なんだしさー」
「しみじみと妖怪だと思ったぞ」
「俺の真剣さの現れなのに」
「あんなのはごめんだ」
「失礼じゃねぇ?俺はカワイイ日吉君を優しく抱きしめようとしただけなのに」
「…そんな表現に当てはまるような雰囲気じゃなかったぞ」
「じゃあどんな雰囲気?」
「…獲物を前にした飛びかかる寸前の肉食獣」
「あはは…やっぱりバレた?」
「食われるのはごめんだ」
「悪いな、たまーに抑えが効かなくなるんだ。お前相手は特にさ」
「勘弁してくれ…」
「だってお前なら俺を抑えられるだろ?自慢の古武術でさ」
「まあな。素人なんざ楽勝だ」
「だから、手加減しなくていいんだ。…結構、そういうのありがたい」
「………」
「だからこれは妥協案な」
「…いつまでだ」
「もう少し、かな」
「早く大人になれよ」
「日吉君も、っしょ」
「…まぁ、未熟なところがあるのは認める。だが下剋上だ、俺はまだまだこれからだ」
「そ。俺達はこれから」
「見てろよ、お前より俺の方が早く大人になってやる」
「基準はどうすんの?」
「お前の危うさも受け止められようになることだ」
「なら俺は日吉君を怯えさせないように自分を抑えるのを目標にするわ」
「それまでは…こうして背中合わせだ」
「ん。…早く日吉君を正面から抱きしめてぇ」
「…うるさい」
「でも、背中合わせも結構好きなんだ」
「………」
「見えないけど、伝わるだろ」
「手」
「ん?」
「いや、なんでも」
「…良いぜ。繋ごう」
「………」
「日吉の背中、あったかいな」
「…うるさい」




 

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