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□Number5
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いつも夜は光の中へ。
だけど今夜だけはそんな気分じゃないんだ。



Number5

「忍足!」
春になり日中は暖かくなったと言っても、夜20時を回れば未だ肌寒い風が吹く。
ベッド脇に置かれたシンプルなデジタル時計はPM11:36を示し、時折チカリとその明かりを点滅させる。
中学生の学生寮と聞けば大概想像が付くような狭い部屋、付属の机に向かい英語の課題に取り込んでいた時、開いた窓から飛び込んできたのはそんな少し冷たい風とよく知った声だった。
一瞬目を丸くして立ち上がり、再度自分の名を呼ぶ声が窓の外から聞こえることに気づくと、忍足は困ったように怒ったように眉を寄せてから僅かに開けてあった窓から顔を覗かせる。
「ジロー、また外に出とったん?もう門限過ぎとるやん」
「知ってるよ、だから忍足呼んだんじゃん」
軽い呆れを含んだ問いかけに、微妙にズレた回答が返ってくる。
しかし論点が違うと文句を紡ぐはずの口つぐみ、慣れた様子で縦に伝うパイプやベランダを足場に器用に上る相手を眺める。
「忍足」
「ん」
二階である自分の部屋に相手がこうしてやってくるのは初めてではない。
そのたびにどうしてあんなに軽くここまで上ってこれるのかと疑問に思い、そして今日も同じように考えていた。
その思考を中断させた声の主に改めて視線を向ければこちらに片手が差し出されており、その手をそっと掴んで握り最後の仕上げにと強く引っ張り上げた。



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