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□Citrus
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春の日差しもようやく落ち着いてきて、暖かな日差しに汗すら滲む時期。
整然と整えられた広いコートで200人あまりの氷帝部員達が部活に精を出している。
いつもの、氷帝学園男子テニス部の光景。
しかしその統率者である跡部は、レギュラー陣のみの専用コートのベンチで浮かない表情していた。
不機嫌を少しも隠そうとはせず、イライラと腕を組んだまま爪を噛む。
磨かれた綺麗な爪を無意識に齧って、今コートの中で暢気に打ち合う友人達にも目を向けずに組んだ自分の腕に視線を落としてじっと考え込んでいた。
その日の跡部は妙にイライラしていた。
原因はもちろん言うまでも無く。
綺麗に切りそろえられた髪を持つ、同い年の小さい少年。

(あの馬鹿…)

苦々しげに心の中で呟いて、事の発端だった…

(俺以外のヤツと…)

そう、今日の昼休みの事を思い出す。



それはとても些細な、ほんの少しだけのすれ違いだったのだけど。
昼休み、久しぶりに恋人である向日を相手の教室に行った。
もちろん一緒に食事を取るつもりで、家のシェフに作らせた特製の弁当を持参して。
特に何の緊張も無くその教室のドアを開けて中を覗く。
いち早くこちらに気付いた女子生徒に目当ての人物の居場所を聞くと、後のほうの机を指差した。
それを目で追うと、目的の目立つ綺麗な髪を持つ気の強そうな少年を見つける。
そこまでは何の問題もなかった。
同じクラスの男子生徒に囲まれて楽しそうに談笑する向日。
中の良い友人同士なら普通にありえるのだろうが、その友人の腕が向日の肩に回されていたり。
さらさらと流れる真っ直ぐな髪に触れていたり。
それから、既に食べ途中だったのだろう弁当の中身を交換したり。
手に触れたり、じゃれるように頬に殴るそぶりを見せたりと。
そんなものはきっとこの年代の友人同士ではなんでもないことなのだけど
楽しそうに遊ぶ様子に、頭に血が上った気が、した。

それからなにも言わずに足早に自分の教室に帰った。
食事を取る気など、もうなくなった。
用済みになった弁当箱を乱暴に鞄に突っ込んで、イライラと机に付く。

午後の授業はもちろん最悪だった。



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