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□残さず食べて。
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「何なん?いきなり。でもうちもジローのこと好きやで」
答える声音は常と変わらず、僅かな照れと嬉しさと好意が込められている。
然しそれはとうに遅すぎて、その場には何の効果ももたらさないことを、忍足は知っていた。

「逃げるの忍足。わかったくせに」
寝ぼけたような声は抑揚が少なく、糾弾しているのか、或いはからかいを含んでいるのかの判別は出来ない。
兎に角ここで黙ってはいけないと、緊張でいつの間にかからからに乾いた唇を開く。

「…何、」
「忍足は意味に気付いたでしょ。ずるいよ」
言い訳を紡ごうとする音を遮り、重ねられた言葉には、相変わらず抑揚はないもののいくらかの強さが滲む。

「ジロー…」

負けてしまう。
本能が鳴らす警鐘に、ただ足を棒にして、間の抜けた声で名前を呼んだ。

「…忍足、知ってる?」

慈郎の口端が緩く釣り上がる。
双眸が細く眇められ、悪戯な子猫のような表情を作る。
可愛らしいのに、その三日月のように細められた奥の光に忍足はほんの少し、後退った。



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