Alice is catching.
□チェシャ猫とアリス。
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……ねぇ。
私はどうしたらこのワンダーランドから抜け出せるのだろう。
「有栖多姫さん、好きです」
“多くのモノに愛される姫になりますように”と言う願いから付けられた『たき』───『多姫』と言う名は、間違いなく私の名前だ。
目の前で私の名と好意を告げるのは見知らぬ男子。私は慣れた光景に眉一つ動かさず、何の感慨も抱かず立ち尽くしていた。
「……あの、」
頭を下げて告白を終えた男子は、何のアクションも無いのが不安らしかった。だが私にそれを求められても困る。
だって私は彼を知らない。
この状況に慣れてはいても相手は毎回違うから慣れる訳が無い。私は溜め息を吐いた。隠さなかったので、男子が困惑の色を濃くした。私は気にしないけれど。
「……まぁ良いけど」
「ほっ本当? 僕と付き合って……」
「どこ行く?」
「へ、え、デート?」
「……“する”んでしょ? どこ行く?」
私は不機嫌を顕わに言い捨てる。“デート”? そう言うなら言うかもね。
どっか行って、“して”、バイバイ、は、男女でならそうだろう。……あ、同性でも“する”ならそうか。
男子は呆然とし、次いで強張った顔になった。
「な、何言ってるのっ?」
「何が?」
「僕は、普通にっ……」
「『普通』って何?」
「え、」
「付き合いが長かろうと短かろうとやることは同じじゃない。結局、みんなそれしか頭に無いんでしょ?」
男子が息を飲む。表情に浮かぶのは憤り、だろうか。……何を今更。
だってみんな同じよ。
「……ごめん……悪いんだけど忘れて……」
男子は消えた。私は特に考えもしなかった。ただ、“何を傷付いた顔をするのか”と。
一人残された校舎裏。私は溜め息をぽつんと放った。ぽつんと、呟くみたいに。
呼び出されたのに置き去られた、私みたいに。
誰が言ったかわからない。覚えてないだけなのか、それが何の媒体を使って教えられたかも判然としない。
ただ、一つ、鮮明なのは。
“初恋は実らないって言うじゃないか”