Alice is catching.
□チェシャ猫とアリス。
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朝からの呼び出しにうんざりした。遅刻ぎりぎりの時間になって、結果面倒だったから一限はサボった。今は昼休み。私は自分の席に着いてぼんやり私以外の風景を眺めた。
よくこれだけ人がいるものだとあきれる。各々固まって、団子みたいに丸まって顔を突き合わせて、壊れた機械みたいに喋りまくってる。
「……あ、ねぇ新曲出てるーっ」
私のすぐ横で誰かが言った。勿論私にではない。
私から一メートル距離の無い範囲にたむろする少女たちは、私を閉め出して団子の中ではしゃいでいた。
「新曲?」
「だよー! 私これ好きなんだー! やぁっとCDになるー」
「CD? 歌フル落としゃ一発じゃーん。嵩張らないしー」
「やぁだぁ。CDを買って、セットして、どきどきしながら流れるのを待つのが良いんじゃーん!」
「うわ、何か語ったよコイツ」
きゃはははっ、と男女の区別も付けられないような声が上がる。……そんなに好きなのか。そうか。
聞き耳を立てているのでは断じて無い。だいたいこの距離でそれを主張したらさすがに腹が立つ。
けれど私の胸中とは裏腹に、話題に上がったアーティストのファンらしい彼女たちは何やらメンバーの話に移った。よく在る、“誰それが良い”と言うアレだ。
「私はねートモ好きなのー」
「えー? タケのが格好良くね?」
「あー私コタニかな。コタニー!!」
「ちょ、叫ぶなよーっ、ははは」
「モトも良いよねー。ギターしてるとき格好良いー」
……平和なもんだ。私はシャットアウトさせるために鞄から雑誌を出す。洋楽の雑誌。私はJ-popよりジャズとかのが好き。たとえば────。
私が好きなバンドを思い起こそうとしたとき。
「そう言えばさ、『ヤシロくん』て似てない? コタニに」
“ヤシロ”───『社』。
私は雑誌に目を向けながら硬直した。次いで自嘲した。────何過剰反応しているの。
「えー? 似てる?」
「似てるって! コタニが眼鏡してるときとか絶対似てる!」
「そうかぁ? 私、それよりさ、モトに似てると思うんだよね」
知らず身構えた私は力を抜いた。話は、別方向へ向いたらしい。それで良い。
社の名前聞いただけでこんな風になるなんて、どうかしてるわよ。