「バカにすんなバカにすんな、バカにすんな…」 「俺はバカになんかしてない」 「歌だよ」 「そうバカバカと叫ばれるとどきっとする」 ゼロは全然どきっとしてない顔をしてそう言った。 「…わたしはあなたのそばにいるー」 エックスは歌いながら細々[コマゴマ]とした手作業を続ける。よく手もとが狂わないものだ。ゼロは感心してエックスの筆捌きを眺めた。 「鳴り止まない通信機を放ったらかしてFMのチャンネルを合わせ…」 「ひでえ奴だな」 「十字路で道が分からなくなって、迷ったあげく遅刻して…」 「情けねえ奴だな」 「…慌てて階段を駆け上がったら、フットパーツのかかとが折れたー」 「‥‥最近の歌はよくわからん」 「さ、あとは乾くのを待つだけだ」 エックスは筆を置くと、イェイだのホウだのとシャウトしながら自分のエリアに引っ込んだ。なにがエックスをそこまで上機嫌にさせているのかはわからなかったが、エックスの精神が安定しているのならそれはゼロにとっても望ましいことだった。 エックスは胸に飲みもののボトルを二つ抱えて、歌いながら戻ってきた。奥にいる間もかすかに聞こえていた歌声が、ふたたびはっきりと聞こえるようになった。こんな浮かれた笑顔を見るのは、ずいぶん久しぶりのような気がする。 エックスはニコニコしながらボトルを一つ寄越した。 「振り返らないで前進してみよう…」 俺は有難くボトルを受け取って、軽く捻って封を切った。――よく冷えた中身はほろにがく、舌に弾ける味がした。
「さあ、太陽のように熱く貫いてくれ…」 「ブーッッッ」
元ネタの歌詞が知りたい方は、 「S/h/o/w/-/t/a/r/o monkey 阻まれて」 で検索してみると、たぶん見つかると思います。 (「/」は消して下さいw) 最後の一節は、「駆け抜けて」部分の英訳歌詞を日本語翻訳ソフトにかけたらそんな感じになった。
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