≫Dissociative Disorder
『エックス、どこだ、エックスー?』 いない。 男子トイレまで覗いてみたが、空室ばかりで誰もいない。後から一人が入ってきたが、それも人ゲンの男性であって、エックスではなかった。 『まったく、もうすぐ始業時刻だってのに、どこへ行ったんだ?』 さすがに廊下では大声で名を連呼するわけにもいかず、ゼロは左右を見渡しながら歩き回った。 ゼロのセンサは確かにこの建物内にエックスがいることを示していたが、さしものエックスも普段は戦闘時のような強い信号を発していないため、正確な位置ポイントまでは把握できない。 ハンター本部にあるようなレーダーを使えばミリ単位での観測も可能だが、あいにく内蔵センサでは、そこまでの芸当は出来なかった。
『おかしいな。最初ンとこに戻ってみるか?』 『ああ…』
ダグラスと連れ立って、最初に見た教室をふたたび覗く。 はたして、そこにエックスは居た。 最前列、教壇の真ン前の特等席に、エックスは座っていた。しかも、机に突っ伏して、いねむりをしていた。
『なんだ、居るじゃないか』
どうやら先刻[さっき]は行き違いになったらしい。ゼロは、ダグラスに頼んで、来賓室に置いてきた人を呼びにやった。それから、綺麗な項[うなじ]を見せて眠っているエックスに、ゆっくりと近づいた。
『起きろ、眠り姫』 『…う…、…誰?』
エックスは、眠たげな様子でボンヤリとゼロを見上げた。その寝起きの半眼、かすれたような囁き声に、ゼロは内心少々動揺しつつも、そんな素振りは微塵も見せずにエックスのいねむりをたしなめた。
『ねぼけてる場合か。もうすぐ現役隊長シグマの公開講義が始まるんだろ、見学の客も来てるぞ』
主におまえを見るためにな。と付け加えると、エックスはキョトンとした表情をした。折しもそこへ、ダグラスに案内されて、くだんの客が入ってくるところだった。ゼロが視線で教えてやると、エックスは目を輝かせて立ち上がった。
『兄さん!』
エックスは最前列から講堂の最後部、大勢の見学客が並んでいる壁際まで、カシャンカシャンと駆けていった。見れば、そこかしこで家族同士が顔を合わせて話し込んでおり、小柄なエックスの姿は、あっというまに人ごみの一部となった。 そんな彼らの様子を、ゼロは目を細めてまぶしげに見やった。
…
っていう、ゆめをみたんだ。
ふだん自分がイメージしてるのは苦悩&激情のM氏エックスのことが多いのに、このエックスさんはなぜか冷静&諦観のS氏エックスでした。
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