メモログ

□ネタログY
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部屋の扉を開けた途端、うずたかく積まれたE缶のタワーがゼロを出迎えた。
そればかりではない。皿には美味そうな御馳走が並び、スープが湯気をたて、豪奢な花束まで飾ってある。

「何だ、この騒ぎは。なにかの祭日なのか」

ゼロが訊ねると、エックスは楽しそうに、うん、と頷いた。
手にとった青い缶を、右手に持ったり、左手に持ったりして、なんとなくそわそわしている。
軽い音をたててそれを置き、エックスは顔を上げた。

「今日はね、ちょうどハンセイキなんだよ」
「反省期、‥‥何だ、それは。なにかを反省する期間なのか。おまえはいつだって反省してばかりじゃないか」
「ちがうよ、半世紀。50周年(Golden Jubilee)さ」

エックスは、どうだすごいだろうというように、ソファの上で胸を張った。

「今日はね、おれがハンターになってから、ちょうど50年目なのさ」

50年。もうそんなに歳月が流れたのか。ということは、俺はもう何年こうしているのだろうか。
ゼロは過ぎ去った年月を思って瞼を伏せ、エックスは拳を突き上げて「今日は飲むぞ」と気勢をあげた。
そうか、それで先刻[さっき]から、へんにうずうずしていたのだな。

「いっぺん、酔っ払うまで飲んでみたかったんだよな」

エックスは早くも一本めを手にとって、缶の上蓋を切っている。
ゼロもつられて、いちばん近くにあった缶に手をのばす。自分でも封を切りながら、笑って言ってやった。

「いいぜ、つぶれるまで飲めよ。ポッドにちゃんと運んでやるから」


  ◇


レプリロイドの飲料は、最近とみに種類がふえた。

戦闘用レプリにも味覚はある。
あるが、それは本来かんたんな成分分析を即席で行うためのキノウだ。
いわく、これはメチルカルビノールだ、これは塩酸メタンフェタミンだ、これはシアン化カリウムだ、こりゃエックスのオイルだ。
そのていどのものだ。

べつに新年や祭日を祝わずとも機体は日々勝手に老朽化していくし、毎日標準タイプの無味無臭なE缶を飲みつづけたところで何の問題もない。

ついでにいえば、俺は出動していないときにも起動している。こんなのは、まったくのムダな典型だ。
用がないときは電源を切って、倉庫にでも格納すればよい。たとえレプリロイドが誰もそうしなくとも、俺は今にも自分から倉庫に納まる準備はできている。

だが、この薄っぺらな──軽口と空虚しか入っていないような、安っぽい自分の心でさえ──ときに、何の益にもならない行動をしろと叫ぶのだ。



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物質名について、ひとつめは未成年飲酒、ふたつめは密輸の差し押さえ、みっつめは殺人事件、よっつめは…何だろうね。



  ◇ ◆ ◇ 
 
 
あるありふれた先輩の日誌(断片)
 

  
ハンターの入隊式のときに初めて顔を合わせてから、丸っこくて、俺より背が低くて、沈んだ表情で、怒ったような目をしていて、ヘンなやつだなと思っていた。
 
子どものような顔つきをしているくせに、目つきばかりがぎらぎらとして、あいつは俺を見るときいつも、おびえたような視線で見上げるくせがあったが、その上目遣いすら、可愛いどころかただ睨みつけているようにしか見えなかった。
 
そんなわけで、入隊して幾日もしないうちに「目つきが悪い」とVAVAがあいつをのしてしまった。あいつも防御すればいいものを、黙って殴られるもんだから、余計に相手を調子づかせるだけだ。
 
俺はソッコーVAVAを殴りに飛んでいった。どうでもいいことで、俺の可愛い後輩を苛めやがって。向かい合って啖呵[タンカ]を切り、腹立ち紛れにまず一発お見舞いしようとした。あの頃の俺は、いつもどこか殺気立っていて、何かにつけて暴れる機会を狙っていたのだ。
 
が、誰が注進[チク]ったか知らないが、折悪しく隊長が登場し、俺の首根っこを掴んで持ち上げたので、ケンカはお流れになってしまった。本気で抵抗すれば簡単に抜けられたのだろうが、その時の俺は営倉行き覚悟で隊長とつかみ合う理由もなかったので諦めた。
 
そのかわり、隊長が野次馬を追い払おうと後ろを向いた隙に、VAVAに向かって口の形だけで「ベロベロバァ」というジェスチャーをしてやった。相手のほうでも同じことをやったのかも知らんが、あいにくメットがフルフェイスだから、口が何にも見えなかった。ざまあみろ。
 

 
 
  ◆ ◇ ◆
 
 
あるありふれた戦友の会話(断片)
長く生死を共にしてきた、たぶんX8か、もしかしたらコマンドミッションかもしれない二人のふたりきりの世間話。

 
 
 
Ζ:まったく。最近の若い者の考えることは、分からん。
Χ:若い者って、ゼロ、きみは年寄りなのかい?
Ζ:年寄りさ。俺の稼動年数を言ってやろうか? 人ゲンならとっくに骨だぞ。

(ゼロ、左拳で自分の右腕をたたく仕草をする)

Χ:だいたい「最近の」じゃないだろ。きみ、おれと初めて出会った頃だって「おまえの考えることは、わからん」って言いまくっていたじゃないか。
Ζ:そりゃ、おまえだからだ。エックス。
Χ:なんだそれ。それじゃ、おれが、よっぽど変わっているみたいじゃないか。
Ζ:変わっている「みたい」?

(大笑いするゼロ)

Χ:なんで、笑うんだッ。
Ζ:おまえのそういうところ、嫌いじゃないぜ。
 

 
 
MI1027,N1727,D1702

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