夜の話。 ※やおい注意
あかりを落とした部屋の中、エックスが下から潤んだ瞳で見上げてきた。
「ゼロ‥‥お願いだ、もう‥‥」
オレは唇の端をニヤリとゆがめる。さてこれからじっくり楽しませてやろう、と思った矢先、 あいつの口から突然、場違いな定型文が飛び出した。
「This is X, go ahead.(ハイッ、こちらエックス)」
また、また、またか!! オレは天井を仰いで額を押さえる。本部からの呼び出し通信だ。
「ええ、ハイ、いま出動します」
オレが身体を動かして退くあいだにも、エックスは連絡元と会話を交わし、おざなりにあちこちを拭い、戦闘用のアンダーウェアを着て、部屋の床に散らばったアーマーを拾い集めている。オレも一緒になってパーツを拾う。どうして、とエックスがつぶやいた。
「どうして見はからったように通信が入るのかなあ、こういうことしてるとさ」
「こういうこと」と言ったとき、エックスの頬が微かに赤らんだのをオレは見逃さなかった。目を逸らしたエックスにつられて、オレもあらぬほうへと視線をさまよわせる。盗聴かなにかだろうかと、エックスはしきりに首を傾げている。しかもおればっかり、と言って尖らせた唇は、まるで外見年齢そのままだ。
「おい、口動かしてないで手動かせ。緊急事態なんだろう」
だいたい盗聴なんぞとバカらしい。オレたちの身体そのものが、超・強力な電波探知機みたいなものだ。身体だろうが、部屋だろうが、怪しいものが仕掛けられていれば一発でわかる。
だが「おればっかり」という、そっちの原因は何だろう。オレもエックスも、同等同格のベテランハンターだ。自分のほうに仕事が回ってきてもおかしくない。 一瞬首を傾げたが、──あ、わかったぞ。
「お前は通信を切らないが、オレは切ってるからさ」
エックスはどんなときでも通信を切らない。いっぽうオレは、全館放送級の事件でも無いかぎり、非番のときは通信を切っている。 その理由を、オレは、自分に出せるいちばん優しい声でエックスに告げてやった。なぜなら、
「何よりも大切なお前と二人きりの時間を、誰にも邪魔されたくないからな」
ふ、キマッた。これであいつも少しはオレに惚れ直したかもしれない。 そう思って目を上げたら、エックスはもう部屋にいなかった。バシュッバシュッと金属的なダッシュ音が廊下を遠ざかっていく。せっかくの口説き文句も、宙に霧散しただけだった。くそ。
「まあいい」
べつに、これから金輪際あいつを口説いちゃいけないというわけじゃない。 あとでいくらでも、ゆっくりじっくりと聞かせてやるさ。 オレは負け惜しみに肩をすくめると、エックスのかわりにクッションを抱え、恒例の独り寝を決め込むことにしたのであった‥‥
◇
‥‥と、ふと気づく。
あいつを援護に呼ぼうかというほどのイレギュラー発生に、オレが出て悪いという法はない。 ソファからパッと飛び起きる。立ちふさがる「問題」は、早く片づけてしまえばよいのだ。 見てろ、イレギュラーめ。
「オレたちの邪魔をした代償は、高くつくぜ」
本部通信全開。傍らのZセイバーをひっつかむ。 窓をあけ、金の髪をなびかせて、夜の空へと身を躍らせた。
END
Ζ「エックス、お前のために宿舎の窓から飛びだして来たんだ」 Χ「えーっ、ちゃんとカギ締めて来たよな?!」
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