Syuhei.H

□儚く散る是花火
1ページ/1ページ


花火大会の会場は混んでいるだろうと、少し離れた小さな公園の椅子に腰掛けた。

家に迎えに来た修兵は、黒っぽい藍色の様な着流しを着ていて、ちょっとはだけた胸元が色っぽかった。
手を引かれながら公園に来る途中、慣れない下駄でちょこちょこと小股でゆっくりと歩くあたしのペースに合わせてゆっくりと歩く修兵は、あたしの巾着まで持ってくれた。そんなことに少し頬を赤く染めて。今が夜で良かったと思った。

二人で涼みながら花火が上がるのを待っていれば、周りは静かで。きっと会場は沢山の人で賑わっているのだろう。
二人だけの世界に居るような錯覚に少し優越感を感じ、修兵の肩にあたしの頭を乗せた。

乗せると同時に小さな音楽が聞こえてきて、一つ目の大きな花火が雲の無い空に上がった。会場からだろう、拍手と歓声が聞こえてくる。あたしも思わず声を上げた。

どんどん打ち上げられ、花開き散っていく花火。その儚さが美しさを引き立ててる気がした。
視線を正面から斜め横にずらせば、整った修兵の横顔。視線に気付き、こっちを向いてニッと笑った顔が幼く見えて。花火に、修兵に、釘付けになった。

花火の大きさも、音も大きくなり、心臓に直に響く。
一気に何発も打ち上がって、夜とは思えないくらい辺りが明るくなり、花火が散った。終わったらしく、小さな音楽も聞こえなくなった。残ったのは火薬の匂いと、黒い空に白い煙。ちょっとの興奮。

立ち上がった修兵が、何処からか出したのは線香花火。火を点けて渡してくれたそれは、パチパチと火花を散らす。玉を落とさないよう気を付けながら眺めた。

二人の線香花火が消える寸前、修兵が囁いた言葉に動揺して、あたしの玉だけが落ちた。
それは花火よりも、あたしの心を踊らせた。





浴衣、花火より良いもん見してもらったな。




修兵、あたしは夏の良い思い出をもらったよ。



END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ