07/23の日記

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※ / 疲弊少女とある殺人鬼の記録 / シリアス / 未彩、満
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※時事ネタをやろうとして盛大に失敗したので結局オリキャラの設定資料にした作品につき注意※

【疲弊少女とある殺人鬼の記録】

それは未来の世界の可能性の一つ。

20X5年、六月上旬。
現役と呼ばれる人間よりも一年遅れで大学三年生になった、あと一ヶ月程度で二十二歳になる清上院 未彩は、相変わらず変化の無い、怠惰に満ちた日常を送っていた。
中学一年生の頃にそれまでの人生から足を踏み外し、不登校に陥るという挫折を味わい、仕事(オフィシャルネットバトラー)も退職して親元に戻ってからもう十年近くが経つが、未彩は未だその挫折から抜けきってはいない。
高校一年生の後半から高校二年生の前半でなんとか立て直したように見えた生活も、つい一ヶ月ほど前にあった大学三年生対象の就職に向けての説明会をきっかけにして崩れ出し、中学一年生の頃ほどではないとはいえ、未彩は再び学校を休みがちになっていた。
社会が大学生に求める能力のハードルは、学校に通うだけでも一苦労で、単位もまともに取る事が出来ず、三年生にして既に大学生活が最低でも一年は伸びる事が決まっている、そんな今の未彩には高すぎるのだ。
なんとなく、ただなんとなく、大学に通ってさえいれば、卒業する頃には再就職先がなんとなく見つかるだろうと思っていた未彩に、説明会は容赦無い現実を突きつけてきた。
なんとなく、等という程度の思いしかない熱意無き学生など、会社は必要としていない。
能力が無い学生も、会社は必要としていない。
要するに、それらの学生――人間は社会に必要無い。
その説明は、細い希望を絶たれたような重暗い絶望と、それなら自分に生きている価値や資格は無いのだろうという投げやりな諦めの気持ちを生み出し、未彩は久しぶりに荒れた。
その荒れた気持ちは、病院で出された薬を飲む事で落ち着いた、ように見えない事も無いが、それは所詮表面上の事。
薬の作用で撫でつけた表面の少し下では、今でもあの絶望感と諦めが渦巻いているのだ。
再び社会に出る為に大学生をしているのだと思っていたというのに、それだけでは足りないというのなら、自分にできる事など何もないではないか、という思いは結果的に未彩から様々な行動の、特に学業へ取り組む為の気力を奪う。
そうして何もしないでいると、今度はそんな自分に嫌気が差して、自身を物理的に破壊せよという指令にも似た思い込みが頭を支配しはじめて、自己破壊行動へと繋がっていく。
自分のような何の価値も無い、資格も無い人間は、頭蓋骨でも粉砕して、脳味噌を地面に汚くばら撒きながら死に絶えてしまえばいい。
高校一年生の時に捨てたはずの願望が、少しだけ形を変えて、未彩の元に舞い戻り始めていた。
高校三年生の頃、自分に精神的危害を加える事を楽しみとしている人間を殺す為に手にしたはずの小さな刃は、もはや他殺の意思を持たず、自らを罰する為の手段の一つとなっている。
情けない、本当に情けない、それは未彩自身も分かっている、分かっている故に、惨めだった。
それに縋らなくては壊れてしまいそうな自分が、果てしなく惨めに感じられた。
後にも先にも自己嫌悪、右にも左にも自己嫌悪、上にも下にも自己嫌悪、とにかく全面自己嫌悪に塗りつぶされて、未彩は自分を真っ直ぐに肯定する事を忘れてしまっていた。
これから映し出されるのは、そんな出口の無い日常の一幕である。


ジメジメと湿った暑さを振り払うようにフルパワーで稼働するエアコンの吐き出す空気が冷たい部屋の中に、未彩はいた。
小学六年生と中学一年生の初めの間だけ過ごした独りの城ではない、両親や母方の祖母がいる家の中に設けられた自室の中に、いた。
学業以外の事は全て親任せにしている、学業を失くしたら何も残らないと言っても過言ではない未彩が、そこにいた。
服もスタイルも大した変化は無いのに、小学生の頃の輝きの無い未彩はほぼ無表情で、小学生のころに親からもらった学習机の前にある椅子に座っていた。
学習机の上にはノートパソコンが置かれていて、その隣にはワイヤレスのマウスも置いてあり、未彩の右手はマウスの上にある。
未彩の視線は、パソコンの画面に向けられていた。
パソコンの画面に映っているのは、所謂ウェブブラウザで、その窓の中に映っているのは未彩とは特に何の交流も無い人物のツブヤイターだ。
その人物は、ニヤニヤ動画という動画投稿サイトに自作の歌を投稿している人物で、未彩はその人物の作る歌のファンなのだ。
普通のJ-POPでは歌われないような陰惨な憂鬱と悲哀で心を抉るその歌詞は、時に聴く者を打ちのめすが、その一方で聴く者に一種の救いを与えもする。
どんな人がこの歌を作り上げているのだろう、と思ってその人物の個人サイトやツブヤイターを探して見付けだしたのはもう随分前の事だ。
その人物は何処か気難しく、触れる事が恐ろしくもある人物であった為、未彩は直接のコンタクトを取ろうとはしなかったが、動画の再生数をほんの僅かに増やす視聴者の一人として、今でもROM専の形でその人物の動向を見続けているのである。

さて、ツブヤイターには個人の短い投稿を載せる他にも、企業側が設定したコンテンツを表示する機能がある。
その一つに、『トレンド』という、最近の投稿の中で頻繁に使用されているタグを宣伝する機能があり、日々様々なタグが短い一覧として並べられているのだが、ふとその一覧に目を向けた未彩は、そのトレンドの中に見覚えのある事件の名前が挙がっているのを発見した。

「……Dirty Blood事件……。」

未彩がぼそりと呟いたのは、未彩が小学生だった頃と、それよりもずっと前との二つの時期に起こった、テロと言っても過言ではない事件の総称だった。

事の始まりはもはや四十年ほど前、二人の科学者――花道 愛華と光闇 白夜がぞれぞれの親の権限により、世間から追放された事。
一度目の終息は二十七年ほど前、愛華と白夜の娘であるSearch=Darknessにより、愛華の双子の妹である花道 百合花と、光闇 白夜の双子の弟である光闇 黒夜が殺害され、世間はそれを愛華と白夜だと誤認し、本物の愛華と白夜が行方をくらませた事によって訪れた。
この時、警察はこの事件の残虐性や解決方法の残虐性の隠蔽と、死刑ではなく更生させる道が決まったSearchを保護する為、各報道機関に厳しい情報の規制を行い、この事件の事は当時を生きた人間以外は知りえない、ネット上にも情報が残らないという状況を作り出したのだが、その沈黙はそこから約十四年の時を経て破られた。
今から約十年前、ちょうど未彩が小学六年生だった頃、行方をくらましていた愛華と白夜が再び様々なテロ行為を指揮するようになり、Dirty Bloodの存在が世界に明るみに出るようになったのだ。
しかしそれも、愛華と白夜の娘であり警察官になっていたSearchと、ネットセイバーの光 熱斗を中心とした、警察及びネット警察側の活躍により、やはり未彩が小学六年生だった間に、今度こそ復活の余地を残さない形――愛華と白夜の死によって幕を下ろしている。
そして、四十年前ほどの厳しさは無いとはいえ、強めに布かれた情報の規制によって、報道も即座に沈静化し、ネット上ですら当時の話を見付けるのは難しいという状況が続いている、そのはずだった。

未彩が事件の名前を呟くと、タイミングを見計らったかのように、ノートパソコンの近くに置かれたPETの中からロンナが小さなホログラムで姿を現し、未彩の見ているノートパソコンの画面を覗きこんできた。
ロンナも、Searchや熱斗ほどではないが、熱斗の仲間の未彩のナビとしてこの事件に関わりを持ってきた身であるから、多少気になったのだろう。
未彩は特にロンナを邪険に扱う事は無く、ただ、無言でトレンド一覧の中のDirty Blood事件という一文にマウスカーソルを合わせて、左ボタンをややゆっくりとクリックした。
するとツブヤイターのページは個人ページからタグが使われた投稿の一覧、要するにタグ検索画面に切り替わり、多くの投稿を映し出す。
その中でも上位に表示されるのは、画像だ。
タグの使われた投稿に添付されていた画像の一部が、画面の上部に映し出されるのだが、そこに表示された幾つかの画像は、どれも同じようなものだった。

「本の表紙みたいだね。」

表示されている画像はどれも白背景に黒文字で、度の画像も中央に同じ言葉が書かれており、まるで質素な本の表紙のようだった。
フォントサイズが一番大きく、二重鍵カッコで括られている単語はタイトルだろうか?
そして、その下の二行は――。

「へぇ、満さんのパパとママ、本なんて出しちゃうんだ。」

未彩がタイトルと思わしき単語の下を読む前に、ロンナが言った。
久しぶりに聴いた名前に一瞬驚いてから、未彩も遅れてタイトルの下の行を読む。
タイトルの下には、Dirty Blood事件及び某中学校卒業生連続殺害事件、と書かれていて、更にその下には、容疑者Mの父母、と書かれている。
未彩はそこでようやく、ロンナの言葉の意味を理解した。
Dirty Blood事件だけならば容疑者と呼ばれる事になるであろう関係者は沢山いたが、某中学校卒業生連続殺害事件となると容疑者は一人に絞られる。
そして、未彩を含む一部の人間は、その容疑者の名前を知っている。

「満さん、か……。」

藤咲 満、という名前を、未彩は久しぶりに強く思い浮かべた。
外見は正直なところ地味で、短いながらも柔らかそうな髪は黒く、白いワイシャツの上に鮮やかな藍色のスーツを着用し、まるで血液の色のような黒っぽい赤色のネクタイを締めていた姿を、未彩は今でも鮮明に思い出す事ができる。
そして同時に、その藍色のスーツが血液を吸って黒く変色した姿や、ところどころに紅い装飾が施されながらも黒をメインカラーとしたスーツのような上着を着た姿も思い出してしまう。
要するに、満は、当時の未彩とは逆の形で一般人ではなかったのだ。
Dirty Blood事件と某中学校卒業生連続殺害事件の容疑者、M。
Mは、満(みちる)のMで、その父母とは藤咲 影月と藤咲 陽狐の事だと、ロンナは未彩よりも早く、一瞬で見抜いていたらしい。
画像が本の表紙である事をほぼ断定的に述べたのは、未彩がまだ見ていなかった、画像の下に連なる、文章による投稿の一覧を見ていたからのようである。
実際、ロンナより少し遅れて投稿文章の一覧を見た未彩の目に飛び込んできた言葉は、それが本の表紙であると断定するに値する事ばかり述べている。

『衝撃! ニホン国の闇に葬られた歴史に迫る一冊!』
『容疑者Mの残した記録。残された父母の思いとは。』
『シリアルキラーの親が本とか……ニホンどうなってんの。』
『ニホンの恥だな。発禁処分が妥当。』

文章による投稿は、大きく分けると二種類あり、片方はマスメディアが流している宣伝のような情報で、もう片方はそれを見た一般人による反応だった。
マスメディアは特に肯定も否定もしない立場を取っているようだったが、一般人は十中八九否定的な意見を述べているのを見て、未彩は、まぁ仕方のない事だろうな、と静かに思う。
一般人の反応の中にも書いてある通り、容疑者M――満は殺人鬼だった、それは否定のしようのない事実だからだ。
それは、満がもはやこの世にいないというもう一つの事実をもってしても揺らぐ事は無い。
証拠に、下に続く投稿はそのほとんどが、満への嫌悪や憎悪、そして何より、殺意を否定する立場でありながらそれ故の矛盾――殺意を露わにしていた。

『地獄に落ちとけ!』
『人でなしの極み。』
『鬼畜野郎の死に逃げを許すな!!』
『お前なんか知る価値も無い。』
『こんな失敗作を作り出した親も極刑に値する。』

死して尚許される事の無い罪を満が犯したのは確かだが、生前の満の、その中でも中学時代の満の話をSearchから聞かされているため、Dirty Blood事件はともかくとして、某中学校卒業生連続殺害事件に関しては相手に非が無いとも言えない事を知っている未彩としては、何処かやりきれない思いがあるのもまた確かだった。
とは言うものの、だからと言ってこの大多数の意見に対し、数少ない少数派として、ちょっと待って、と言う勇気は未彩には無く、そもそもそれを言う事は満が望まない気がしなくもない。
未彩は、既に唯の暴言と化している無意味な投稿は放置して、マスメディアを中心とした事実を伝えるだけの投稿に貼られたリンクをクリックしてみる。
カチッ、というマウスのクリック音から約一秒後、新たに開いたブラウザの枠の中に表示されたのは、本の簡単な概要と――。

「あ、今日が発売日なんだね。」

またも、未彩が気付くよりも先にロンナがその情報に気付き、それを未彩に対して教えているようで、それにしては何処か独り言のように聞こえなくもない言い方で言った。
未彩はとりあえず、本の概要を読んでみる。
その概要は、本当に表面上の、本の大まかな構成に触れただけで、後の文章は事件そのものの詳細がほとんどだが、それでもこの本がどういうものなのか知る為に必要な情報はそこそこ書かれていた。
どうやらこの本は、満が生前自宅のパソコンとDirty Blood基地内にあるパソコンに残した日記的文章と、それを読んだ影月と陽狐の手記で成り立っているらしい。
また、満の日記はDirty Bloodに入る前のものも収録されているようで、記事の中には、容疑者Mの生い立ちが分かる資料と言えるかもしれない、という一文が入っている。
満の生い立ち、満の過去、それらに興味が無いと言えば嘘になる、と未彩は思った。
一見、未彩よりもずっと気配りが上手く、良い人そうに見えた満の、たまに垣間見える影のような陰のような、暗くて底知れぬ何かに、未彩が前々から興味を惹かれていた事、それは事実だからだ。
満はもうこの世にいない、だからもうこれ以上情報は増えない、そう思っていたところに舞い込んだ知らせに、未彩は歓喜さえ感じていた。
勿論、社会的あるいは倫理的はたまた人道的には、真っ直ぐ喜べるものではないのは分かっているのだが。
ふとパソコンの画面から視線をそらして、壁に掛けられたやや大きなデジタル時計を確認する。
時刻は午前十一時三十四分で、三時限目に合わせて登校するなら家を出るまでの猶予はあと三十分程度しかない。
それを確認すると、未彩はデジタル時計から視線をそらし、ウェブブラウザを閉じて、椅子から立ち上がった。
視界の端にロンナの若干薄気味悪いニヤニヤとした笑みが見えたが、未彩はそれに構わず机に背を向け、背後の壁にあるドアに向けて歩きだす。
小学六年生の頃にいた家の寝室に比べると随分と狭いこの部屋では、ほんの数歩でリビングと繋がるドアに辿り着く事ができ、未彩はそのドアを外に向けて開いてリビングへ出た。
そして背後にロンナの視線を感じつつ、それを遮るように後ろ手でドアを閉めた。


それから実に六時間後、未彩は大学での授業を受け終え、帰路についていた。
今はちょうど、家の最寄りのバス停にバスが着いたところだ。
赤色と銀色のカラーリングのバスを降り、空の色を見てからPETを取り出して時刻を確認する。
時刻は午後五時四十二分、それを確認してから再び見上げた空の色はまだ随分明るく、薄ら青くなり始めているかどうかどいったところだ。
明日の授業は今日とは違い一時限目からで、朝は早く起きなければいけない。
それを考えると今日という日に帰りが遅くなるのはあまり得策とは言えない、というのはよく分かっているのだが、それでも、

「あ、やっぱり行くんだ?」

未彩の足は自宅では無い方向へ向かっていて、それに気が付いたロンナが肩の上に現れて笑った。


そこから更に二時間ほど後、自宅ではない場所での目的を済ませてから帰宅し、食事と入浴を終えた未彩は、外にいる時よりも若干ラフな服装で、ベッドの上に座っていた。
PETは机の上にあり、ロンナの姿は未彩のそばには見当たらないが、いざとなれば未彩の心境など完全に無視をして、PETの外へ、その小さなホログラムの姿を見せるのだろう。
ベッドの上に座っている未彩の視線の先には、四角く紺色のビニール袋がある。
袋の中には、自宅ではない場所での目的の品が。

「……。」

未彩は少しためらいつつも、シャワーから出てきたばかりの自分の手が湿っていない事を確認すると、ビニール袋へ手を伸ばし、それを引き寄せた。
そして、袋の中から一冊の本を取り出す。
取りだした本の表紙はほぼ真っ白と言っても過言ではなく、白以外の色が使われているのは、タイトルと著者名の文字の黒だけだ。
そう、タイトルと、その下の、Dirty Blood事件及び某中学校卒業生連続殺害事件、というサブタイトル、それから容疑者Mの父母という著者名だけ。
未彩が自宅ではない場所――書店で購入したそれは、藤咲 満の日記と藤咲 影月と藤咲 陽狐の手記が合わさった、社会から忌み嫌われる事になりそうな書籍だった。
ハードカバーでやや重みのあるその本の表紙を、未彩はゆっくりと静かに開く。
一ページ目は表紙とほぼ変わらず、タイトルと事件名と著者名が書かれていて、未彩はすぐに次のページを開いた。
次のページは目次で、この本の構成が、前書きに母親である陽狐の言葉、第一部に満が中学生だった頃の記録、第二部に満がDirty Bloodに入ってから死ぬまでの記録、第三部に陽狐の手記、第四部に影月の手記、そして後書きとして父親である影月の言葉という形になっていると告げている。
また、第一部と第二部は年と月がサブタイトルのようになっており、どのページを読めばいつ頃の日記が読めるのかが分かる形式になっていた。
更に次のページをめくると表題として、容疑者Mの母より、というタイトルが見えたので、そのまま次のページをめくる。
前書きである陽狐の言葉は、見開き一ページ程度の長さで、基本的に満の行いを満の代わりに詫びる文章となっていた。
それは、表面的には特に取りたてて何か言うほどではない文章のはずだというのに、未彩は言い表し難い違和感のようなものを覚え、例えば電気製品のコードが複雑に絡み合ってしまったのを目の当たりにして、早く解きたいと思えば思うほど解けずに苛立つ時のようなもどかしさを感じた。
確かに、謝ってはいるし、後悔が滲み出た文章ではあるのだが、何かが違う、と考えて、未彩はふと満との会話の一部を思い出す。
あれは確か、お互いの家族の話になった時の事。
満は確か、母親である陽狐の事を、普通の人より鈍感なところがある、と言っていた。
その会話を思い出した時、未彩は、この陽狐の言葉に覚えた違和感が何なのかを悟った。

この人は、陽狐は、きっと、満の日記を読んだ今でさえ、満の事を分かっていない。
陽狐は母親でありながら、満の事を知らなさ過ぎたのだ。

まぁ、前書きで社会的には不良品である息子の事を庇うのは気が引けたからあまり満の事に触れなかっただけかもしれないが、それでも、どうしてあの子があんな恐ろしい事を、と、うろたえる様子が容易く想像できるその前書きは、満がどういう思想でどういう生き方をしていたか知らないからこそのものであろう、と思いながら、未彩は陽狐の言葉が書かれたページを後にして、満の中高生時代の日記を読み始める。

日記は中学一年生の始め頃から始まっているのだが、その時点ですでにその日記は簡単には拭えぬ闇を抱えているようだった。
小学生が言うような悪口を言われて不快な気持ちになった事や、悪口と共に自分へ向けられる視線がからかい程度のものから明らかな嫌悪に変わりつつある事や、複数の生徒から自分の行動の効率の悪さを責められた事や、教室に張られた集合写真で自分の顔に画鋲を刺したとみられる穴が集中していた事等、爽やかな青春とは程遠い内容が記されていて、一部は自分もやられた経験がある未彩はどうにも気分が沈むのを感じた。
ただ、この頃の文章にはまだ他者への攻撃性は無く、どうして自分はこんな事をされるのか、自分は何が駄目なのか、どうすればここから抜け出せるのか、等といった、ごく普通の被害者の嘆きが綴られているだけである。
自分に勝手な都合を押しつける他人よりも、その都合に沿えない自分自身を恨めしく思っているような言葉も度々出てきていて、こんな毎日が続くならいっそ……、といった自殺願望としか言い様が無い言葉も見られ、これは自殺した男子中学生の日記です、と言っても疑われる事は無いだろうと思えるような雰囲気の記述が続いていた。

そんな、満の苦悩だけで綴られていた日記に、Sちゃん――原文ではSearchちゃんと書かれているであろうSearch=Darknessの存在が現れるのは、満が中学生になって半年が過ぎた、二学期半ばの事だった。
日記によると、満やその同級生、そしてその中学の教師達は、SearchがDirty Bloodというテロ組織の一員――殺人鬼であった事を、規制が敷かれる前までの報道で知っていたようで、

『Sちゃんが殺人鬼だという事を、僕は知っていた。多分、周囲の皆も知っている。今では報道に色々規制がかかってるみたいだけど、僕が小学生だった頃はまだそこまで規制はされてなかったから、当たり前か。だからかな、担任の先生は一応平静を装ってたみたいだけど、なんとなくよそよそしくて、同級生達は一瞬驚いてから、明らかに拒絶と嫌悪の目でSちゃんを見ていた。僕も最初は同級生たちと同じ様に驚いたけど、Sちゃんに向けられた拒絶と嫌悪の目を見ていたら、何故か逆に落ち着いてきて、なんだか自分が冷たくなっていくような気がした。どうしてかって? だって、同じだったから。Sちゃんに向けられた視線は、僕に向けられる視線と同じだから。』

という記述が、残されていた。
また、満とSearchはSearchの入学初日のある休み時間に校舎の最上階、屋上に続くやや広いスペース(所謂、踊り場)で短い会話を交わし、休み時間の一部を共に過ごしたということも書かれていたが、どうやらこれは本当に短くて無機質な会話をしただけのようで、Searchの言動についてはあまり詳しく書かれていない。
その代わり、満から見たSearchの印象は割と長々と綴られていて、この時点で既に満はSearchに強い興味、関心を持っていたという事が見て取れた。
更に、細かい校則を破ってまで自分を華やかに見せようとする事ぐらいしか頭に無い軽率な考えの女子生徒とは空気が違う、といった記述もあり、満が密かに周囲の人間を軽蔑していた事も露見している。
僅かに垣間見えた攻撃性、その形は、未彩にも覚えがあって、胸の奥に何とも言い難い苦い思いが込み上げてくる。
ただ、それは決して嫌悪等の負の感情ではなかった。

そこからしばらくの間、日記の内容は、満自身の苦悩が五割、Searchとの会話やSearchを見る周囲の様子が五割といった割合での記述が続く。
Searchが入学してきてからも、満は相変わらず屋上の出入り口付近を逃げ場とする日常を送っていたようだ。
ただ、違うのは、その逃げ場にいるのが満だけとは限らないところで、満とSearchはそこで休み時間の大半を過ごしていたらしい。
といっても、どうやら二人はそこで会う約束をしていたという訳ではなく、二人とも教室の中に居場所が無く、自分が存在してもいい場所を探していたら同じ場所に辿り着いただけだったそうだ。
自分が存在してもいい場所を探していた、とだけ言うと、満もSearchも同じように自分の居場所というものに頓着していたように見えるかもしれないが、日記を詳しく読んでみるとそうではない事が分かってくる。
満はこの時まだ少しだけ輝かしい青春に憧れを抱いていたらしく、こんなところにしか居場所が無いというのは寂しい、といった内心を吐露する記述があるが、Searchに関しては、彼女は苦しかったから此処(逃げ場)に来た訳ではないし、寂しいもしくは悲しいといった感情を持たないらしい、といった記述がされていた。
ただ、この時はまだ満も少し懐疑的だったようで、本当にそんな事があるのだろうか? とも書いている。

『僕は正直愚問だと思いつつも、思い切って、「どうしてSちゃんは此処に来たの?」と訊いてみた。きっとSちゃんも、教室にいるのが辛いから此処に来たのだろう、とその時の僕は思っていて、それを確認してみたかったからだ。でも、Sちゃんは完全な無表情のままで淡々と、「教室を出ろという命令を受けた。」って……僕は思わず、「そうなんだ、辛かったね。」と言ったのだけど、Sちゃんは無表情のまま、「辛い?」って、少しだけ疑問に思ったような声で……僕は少し焦って、教室を無理矢理追い出されるのは辛い事のはずだと説明を試みたけど、Sちゃんは理解できてないみたいだった。どうやら、Sちゃんにとって、教室を追い出される事は辛い事でも、悲しい事でもないらしい。いや、そもそも、Sちゃんはそういう感覚を持たないのかもしれない。実際、屋上の入り口の段差に腰掛ける僕の隣に座っていたSちゃんの顔に、悲しげな雰囲気は無かった。これは、喜怒哀楽が分からないからなのか、それともSちゃんなりの強がりなのか……正直まだ、よく分からない。喜怒哀楽が分からないというのは、感情が無い事とほぼ同じになってしまう。つまりSちゃんに感情は無いという事……でも、本当にそんな事があるのだろうか? やっぱり、分からない。ただ、もしSちゃんが僕を不愉快に思わないのなら、僕はもう少しSちゃんの事を知りたいと思う。』

それは、それまで苦悩から遠ざかる為に他人から遠ざかってきた満が、ほぼ始めて抱いた他人への興味だったかもしれない。
しかしその相手が殺人鬼だというのは、一般人にはどうにも解せないだろう、と未彩は思った。
未彩も正直な話、Searchと満に出会った小学六年生の頃は、Searchを殺人鬼だと知りながらも過剰に慕う満の気持ちが理解できなかったからだ。
だが、それももう昔の事。
今となっては、未彩自身がこうして、もはやこの世にいない殺人鬼――満の事を探っている。
そして、満の残した記録に、一般的な不快感とは別の感情を抱いている。
世間の人間が見たら、満の残した痕跡を探る今の自分は相当な捻くれ者で、少数派どころではない異質で、単なる気違いの犯罪者予備軍に見えるのだろう、と思う。
実際、ツブヤイターや大手通販サイトで見たこの本の評価は酷いもので、日記の著者である満と、出版した影月と陽狐は勿論、それを手に取った人間及び読んだ人間をも軽蔑し、人の枠から追放する書き込みが多かった。
多分、それが世間では常識的意見なのだろう。
有識者以外は犯罪者の内面など知る必要が無い、いやむしろ有識者でさえ知る必要が無い、誰も知る必要が無い、何も知る必要は無い、犯罪者は犯罪者、人権など無い死すべき生き物、正義の名の元に殺すべき生き物、それが常識だ。
殺しの否定が更なる殺しだとは何ともおかしな話だが、今のところそれが常識なのだから仕方が無い。
まぁ、別に死刑を否定する気は自分にも無いし、もし自分が遺族の一人だったらと考えると色々と言うまでも無いのは間違いないだろう、が、それでも、満は少々運が悪すぎたのではないかと、思わない事は無いのだ。
もしこの頃満が嫌がらせを受けていなければ、もしSearchが満の前に現れなければ、もし満の苦悩を誰か一人でも理解する人がいたら……事態が好転したかもしれない数え切れない“もしも”の可能性が未彩の脳裏を過る。
そう考えると、この日記を否定できる人間は単にそのもしもの可能性に恵まれただけ、つまりは運が良かっただけで、その運が少しでも悪い方向に向かっていれば、満のようになっていたのかもしれないのに、と考える事もできると未彩は思ったのだ。
自分だって、あと少し、高校生の頃の苦悩が長かったら……と思って、ふと鞄の中に入った筆箱の中に入っている三十度鋭角のカッターナイフを思い出す。
今でこそ自己破壊の意味しか持たないあのカッターナイフだが、元々は他者破壊の為に手にしたのだ。
これ以上苦悩が、精神の責め苦が続くなら、いっそ自分の手で何もかも終わらせてやろう、と決めて。
結局、満とは違いそれを振りかざす事は無かった未彩だが、今でも思いは燻っている部分がある。
だからだろうか、さすがに満の思いを完全に理解できるとは言わないが、それでもほんのりと、満の感じていた世間からの疎外感はなんとなく分かる気がするのだ。
一人じゃなかった。
世間と自分のずれを感じてもがいていたのは自分だけではなかったし、貴方だけでもなかった、と、満に直接言えない事が、未彩には少しだけ悲しく感じられた。

さて、Searchに喜怒哀楽が無いかもしれない事を知った日の記述からしばらくの間は、あまり変わり映えのない記述が続いていた。
今日はクラスでどんな扱いを受けて逃げ場へ隠れた、しばらくするとSearchもやってきた、Searchとどんな会話をした、Searchはこういう人なのかもしれない、という流れが毎日繰り返されているのだが、今のところ満はSearchに長々と話しかける勇気を持たないらしく、会話は短いものばかりで、Searchの人間性に関する考察もそこまで長くは無い。
どちらかと言えば、自分がクラスで受けた扱いや逃げ場に隠れた時の心境がメインになっている、が、それでも未彩はその記述の端々から、満がSearchに少しずつ心を許している様子を感じた。
例えば、Searchに辛いという感覚が無いと分かりつつも、自分は辛くなってしまったから此処に来たと打ち明ける場面には、満が無意識に抱き始めていたSearchへの信頼が現れているような気がする。
勿論、Searchの反応は至極淡白で、同情も共感も感じられないのだが、満はそれでも満足だったらしい。
Searchの反応は同情でも共感でもない代わりに、反発や反論でもない、それを満は心地よく思っていたようだ。

だが、そんな平穏もつかの間、やがてその日はやってきた。
その日の日記は、誰が見ても明らかに熱を帯びた、興奮しきった文体で書かれていて、未彩はこの日は何かが違うと思いながら読み進める。

『今日はとても素晴らしい日だった! どうしてかって? そんなの簡単! それは、僕がこの世界から弾き出される理由がやっとわかったからだ! そうだ、僕は、この世界の異端、異物、異質……やっとわかった、Sちゃんが僕を囲む視線と同じ視線に囲まれ、僕がSearchちゃんを囲む視線と同じ視線に囲まれる理由が……。今まで僕は、僕がこの世界の一員であるように思っていたけど、そんな事は無かったんだ! 僕はこの世界の一員じゃない、Sちゃんと同じこの世界の異端だ! 今日、給食の後、いつも通り僕とSちゃんが屋上の入口にいたら、何処から嗅ぎつけたのか知らないけど、いつもの嫌な奴らがやってきた。人数は五人ぐらいだったかな。それで、どうしてなのかは分からないけど、奴らの一人は一匹の猫を抱えていて、もう一人はカッターナイフを持っていた。カッターは多分、美術室から盗んできたんだろう。僕は一瞬訳が分からなくなって、ただ怯えてしまっていた。多分、奴らがカッターを持っているのが怖かったんだ。猫については、なんで連れているのか全く分からなかったし、その時は重要だと思わなかった。そして奴らの中の一人は、僕にはあまり興味を示さずに、Sちゃんに向けて嫌な笑顔を見せながら言った。「オイ赤目女! お前殺人鬼なんだろ? 人様を殺してたんだろ? お手並み拝見させてくれよ! ほら、コレとコイツ使っていいからさぁ。」そいつが使っていいと言ったのは、カッターと猫だった。僕は驚いて、柄にもなく声を荒らげて、「駄目だよそんなの!」と言ったけど、そいつは不愉快そうに顔を歪めて僕を威嚇し、「あぁ? テメーに言ってんじゃねぇんだよブス咲!」と言ってきて、弱虫な僕は何も言えなくなってしまった。奴は言う、「ほら、コイツ殺してみろよ。」と。僕にはもう、事の成り行きを見守る事しかできなくて、Sちゃんを助けられない事に悔しさを感じていたけど、それが間違いだと気付くのにそう時間はかからなかった。Sちゃんはしばらくの間黙って男子生徒達を観察していたように見えた。一見、困っているように見えない事も無かったけど、今になって思い返せば、多分Sちゃんは困ってなんてなかったのだろう。Sちゃんを赤目女と呼んだ男子生徒の隣で猫を抱える他の男子生徒、その男子生徒から猫を取り上げると、Sちゃんは、猫を、床に、投げつけた。僕も男子生徒達も一瞬声が出なくて、床に叩き付けられた猫は二ギャッ!とかそんな鳴き声を漏らして、そこから逃げようと四本の脚をばたつかせたけど、猫が立ち上がるよりも前にSちゃんが右足で猫の胴体を思い切り踏みつけた。特に生々しい音とかはそんなに大きな音ではしなかったけど、それは男子生徒達の余裕を吹き飛ばすには十分だったみたいで、カッターナイフを持っていた男子生徒の手からカッターナイフが落下した。猫は踏まれた直後はまた潰れたような鳴き声を漏らしたけど、数秒もすると目の焦点がおかしくなってきて、血を吐きながら痙攣し始め、下半身からは尿と思わしき液体が漏れ始めた。どういう原理なのか僕にはよくわからないけど、多分、内臓が破裂したのは間違い無いだろう。肋骨が内臓に刺さっていた可能性も十分にある。尿が漏れたのは、首吊り死体が悲惨な事になるのと同じ事だろう。もう明らかに、猫に未来は無かったけど、それでもまだギリギリで死んでいない。男子生徒達はこの時点ですでに膝を振わせ、後ろの方にいた奴は一人が膝を床に着き、そっぽを向いて嘔吐いていた。茫然と目を見開いている奴もいた。割と前方にいた男子生徒達はじりじりと後退し、Sちゃんの目の前にはほぼ死にかけの猫と、それから、カッターナイフ。僕も声は出せなかった、でも……そこから視線を逸らそうとは思わなかったし、後ろの方にいた奴のように嘔吐く事も無かった。今でもどう言ったらいいのか分からないけど、多分、見とれていたんだ。だってその時のSちゃん、凄く凛々しくて格好良かったから……それまで奴らの悪意に屈服してきた僕と違って、Sちゃんは逆に奴らを屈服させている、こんな素晴らしい事ってそうそう無いよね? 僕は自然と、Sちゃんの次の挙動に期待していた。もう一度踏みつぶして猫自身の骨が皮を突き破る様子を見せてくれてもいいし、なんなら……と僕が思ったところで、まるでその思いが通じたかのように、Sちゃんは男子生徒の一人が落としたカッターナイフを拾った。奴らの一部がひっと息を呑む。後で教師から聞いた話だけど、その時の僕の表情は、奴らの一部いわく、薄気味悪い笑顔だったらしい。Sちゃんは猫の頭を左手でつかみ、その下につながるぐったりとした身体をぶら下げるように持ち上げると、カッターナイフの刃を出して、猫の腹を大きく縦に切り裂いた。もはや猫の鼓動は止まっていたようで、血が勢い良く噴き出すような事は無かったけれど、それでもやっぱり血が出ない訳じゃ無くて、さっきまで猫が倒れていたあたりにピチャピチャと音を立てて垂れ、紅い歪な円を作った。それからSちゃんは、長めに出したカッターナイフの刃で猫の内臓を一部引き出し、それから再び猫を床に落とした。切られた腹から飛び跳ねた血に驚いて、奴らの一部が腰を抜かし後ろに倒れる。でもSちゃんはそんな事には構わずに猫の頭を踏みつぶした。割れた頭蓋骨が猫の頭の顔を突き破り、目からは紅いような白いような濁った液体が流れ出す。奴らの一部は本当に嘔吐し始めて、その間にその中の一人がその場から逃げ去った。後になって思えば、その後来た教師はあいつが呼んだのだろう。そしてSちゃんは、腰を抜かしてへたり込んだ奴らのリーダーに向けて一言、「終わった。」とだけ言った。殺し終えた、という事だろう。そいつは声にならない声を、ひぃ、ひぃぃ、と漏らしながら後ずさって、最終的には壁際まで逃げていった。僕は、何をそんなに怯えているのだろうと思った。だって、猫を殺せと言ったのは奴だったし、奴は僕にいつも「死ね!」って言っていた奴だったから。Sちゃんは奴の命令通りの事をしただけなのに、奴も猫の死を望んでいたはずなのに、なんでこんなに怯えているんだろう? 僕には理解できなかった。まぁ、そいつは後で教師に、「本当に殺してほしいとは思ってなかった、からかいのつもりだった、殺せずに困る顔が見たかった。」って言ったらしいけど……僕は教師からその事実を聞いた時、なんて酷い言い訳だろうと思った。そういう言葉は、からかいで使うものじゃないだろうに。からかいで済むものじゃないだろうに。そういうの、虐めっていうんだろうに……それで許してしまって、僕とSちゃんを徹底的に叱り倒した教師はとても馬鹿だと僕は思う。でもそれも、ある意味仕方が無い事なんだろう。だって、僕等は世界の異端だから。世界の総意に沿う意見なんて、感覚なんて、持ってる訳が無いから。でももう僕はそれを悲しいとは思わない。だって僕が悪い訳じゃないから。飽く迄も、世界が僕等を弾き出しただけだから。』

この日を境に、日記の内容は大きく変わった。
苦悩の傍には攻撃性が寄り添うようになり、どんな嫌な事をされたという話の後には必ず、嫌がらせの加害者を軽蔑し、ゴミ屑や汚物と見做す言葉が書かれ、それ以外の話はSearchとの会話がメインになっている。
それは、出版前の編集で弾かれなかったのが不思議に思えるようなグロテスクな内容ばかりで、時には満自身がSearchに教えてもらいながら小動物――主に野良猫を殺していたという話もあり、これは批判が来ても仕方が無いかもしれない、と未彩は思った。
最初の大人しい中学生としての満はもうそこにはおらず、過激な思想と残虐な行為を繰り返す、常人には理解しがたい得体の知れない少年がそこにいて、未彩も幾つかの行為は理解できないと思う。
特に猫殺しについては、正直理解できなかった。
しかし、その一方で、この頃はまだ実行されていないが既にその胸の中に存在していたであろう、嫌がらせの加害者への嫌悪や殺意、また自分を世界から弾き出された存在だと見做す行為は、そんなに理解できないものではない気がしていた。
と言っても多分、世界の大多数はやはり理解しないのだろうけれども。
これは、大多数に属せなかった者の、その中で更に少数の人間だけが分かる心理だろう、未彩はそう思った。

学校へ行き、授業を受け、休み時間はSearchと過ごし、殺人や動物虐待の体験談を聴く。
満はそれを中学生活が終わるまでずっと続けていたようだった。
一年生が終わる頃には、満はSearchを崇拝していると言っても過言ではない状態だったようで、日記も三年生の終わりまでずっと、殺戮の熱狂に呑まれたような文章が続いている。
社会を斜めに見て他人を小馬鹿にしたような態度は、ある意味中学生らしいと言えなくもないが、満の場合はその度合いが半端なものではなかったようだ。
満は、とり憑かれたように社会への不満と嫌悪、そして憎悪を募らせ、それを殺意に及ぶまで肥大化させていたのだ。
それは、第二部であるDirty Bloodに入ってからの日記でも、色濃く表れていた。
Dirty Bloodに入ってから、満はそれまで家のパソコンで書いていた日記を、主にDirty Blood基地内のパソコンで書くことに決めたらしい。
どうやら、家のパソコンからDirty Bloodの事を書いた文章が漏えいする事を危惧していたようだ。
それから満の日記は、日常的な事や表社会での事は家のパソコンに、Dirty Bloodなど裏での事はDirty Bloodのパソコンに記録されるようになり、結果として第二部は少し読みにくい構成となっていたが、未彩はそれをさほど気にすることなく読み進める。
いつの間にかロンナが未彩の肩の上から本を覗き見ていることなど、未彩の意識には入ってこなかった。

Dirty Bloodに入ってからの日記は、表面上は中学生の頃の日記と大差が見られないように見えた。
文体もほぼ変わらず、殺戮の熱狂も健在で、自分をこの世の異端と称する思想も健在だ。
更に、たまに挟まる思い出話や、愛華や白夜から聴いた話としてSearchの事も書かれていて、割合としては思い出話が三割、愛華から聞いた話が五割、白夜から聞いた話が二割といったところである。
愛華から聴いた話の方が白夜から聴いた話より随分と多いのは、やはり満がSearchの残虐な面を求めていた故か、それとも愛華が満の為に仕組んだ教育の影響か、はたまた白夜がSearchの事を話す事を拒んだのか、未彩には分からない。
もしかしたら熱斗なら分かるかもしれないが、今となってはそれを熱斗に訊く手段など無いので、未彩はとりあえずそのまま日記を読み進める。
Dirty Bloodに入った満は、最初の頃は小動物で殺害訓練を続け、愛華と白夜のもとで電子機器やネットワークの授業のようなものを受け、前線には出ない日々を送っていたらしい。
そのせいなのか、この頃はDirty Blood内での日記よりも家で書いた日記の方が文章は長めで、他社の人間も参加するらしい合コンで如何に女性を口説き落としてホテルに連れ込むかばかり考えている男性の同僚や、自分は大した仕事をしない癖に男性には高収入と容姿端麗を求める化粧の粉だらけの女性の後輩などへの密かな苛立ちが事細かに記されている。
それはテロ組織の人間としての感情というよりは、一人の真面目すぎた青年が現代社会のだらしなさを嘆く様子に見えて、未彩は今までで一番の共感を覚えた。
実際、高校時代の未彩の周りにも、そういう人間――例えば、恋愛というには少し下衆過ぎる性の話と価値観を押し付けて、まるで未彩まで汚れているかのような扱いをした男子生徒や、股を開いて男を誘うしか能の無さそうな厚化粧の女子生徒などがいて、未彩はそれに常日頃から不快感を覚えていたのだから、無理も無い。
自分は正しい事をしている、それなのに何故か味方はおらず敵だけが増える、正しくあろうとすればするほど周囲に嫌な顔をされたり、自分の方が間違っているかのように嘲笑われる、それがどれだけ辛いことか、未彩はよく知っている。
だから、満がそんな社会に対し牙を剥く事を決めるのも、分からない事は無い気がした。
満は、自分が社会に殺されてしまう前に、社会を殺す行動に出ただけで、どれだけ綺麗な言葉で繕っても結局は弱肉強食であるこの社会に真っ向から挑んでいっただけ、そんな気さえも、未彩にはした。

それからしばらくして、満は実際に人間を甚振り殺す経験をする。
だが、それは満が思う社会の汚物かどうか明確ではない人間が相手だったようで、その日の日記は熱狂というよりは、戸惑いや躊躇いが見て取れた。
未彩はそこに、満が抱えてしまった大きな矛盾を感じ取り、満には本当にこの道しかなかったのだろうか? と疑問に思う。
腐った社会を殺す為にDirty Bloodの一員になった満、しかし初めての殺人の相手は善とも悪とも言えない中間層の相手で、汚物と言うほどの害悪を孕んだ人物ではなかった。
その事実は満に、自分の方が害悪となってしまっているのではないかという戸惑いを持たせ、その歩みを鈍らせたのだ。
殺害した相手は、どうやら当時科学省の末端の方に勤めていた研究者だったらしく、現在の社会やテクノロジーの情報を訊き出す為に相当な拷問を受けたという。
そして、その拷問を担当したのは、他でもない満だったそうだ。
罪のあると言っても過言ではない人間を殺したかったはずなのに、実際に初めて殺したのは罪があるかどうか分からない――おそらく罪の無い人間で、だとすればその行為が一番の罪なのではないか? という後悔のような念が渦巻くというのは、どれほどの苦悩だろうか。
そんな経験の無い未彩にはもはや想像する事も難しかったが、ただ、未彩は満が不器用なほどに真っ直ぐな性格だった事だけは理解できた気がした。
他の人間は元々何処か曲がっていて、しかしそれを真っ直ぐだと思っていて、だからこそ本当に真っ直ぐな満のような人間は曲がって見えて、社会にいらないという勘違いを起こしてしまう。
そしてその勘違いにより元々曲がった人間の社会から追放された本当に真っ直ぐな人間は、社会から追放されても尚存在自体を否定し責めたてる社会の人間の悪意と、自分自身の奥に内包されている熱量に内側から焼け焦げる痛みに曝されて、真っ直ぐであるが故に狂い始める。
何がどう狂い始めるのかと言うと、ストレートな自己肯定を行う為の心理の回路が壊れ、謝った修復をした結果、ストレートな自己肯定を行えなくなってしまうのだ。
それは時として自傷行為や自殺というストレートな自己破壊という形で現れ、社会ではそれが、社会が望んで生み出したと言っても過言ではない結果であるはずなのに、何故か問題とされており、昔から新聞やテレビ等のマスメディアに度々取り上げられている。
それと――これはややレアケースな、満の場合の話なのだが――自己肯定の回路はその修復を失敗した時、自己破壊の回路になるだけでなく、更なる突然変異を起こす事もある事を、未彩は知っている。
ストレートな自己肯定の回路が破損した末の突然変異、それはよく言えば悟りに近い気がしなくもないが、悪く言えば一種の諦めである、社会から否定される自己を自己として受け入れようという思考の発現の事だ。
あの時、未彩がまだ小学六年生だったあの時、満が未彩を含む周囲に向けていた言葉の一部を、未彩は覚えている。
それは、旗見 マサナが満の容姿を、カッコいい、と褒めた時だった。

――やだなぁ、僕がカッコいい訳ないじゃないか。だって僕は自他共に認める不細工だからね。――

マサナがとてもおかしな事を言ったと言いたげに笑った満。
あれは今考えれば、満が既にストレートな自己肯定の回路を失っていた故の発言だったのではないだろうか?
例えば、もしマサナからカッコいいと褒められたのが熱斗だったならどうなっただろう?
きっと、口先では、そんなことない、と言いつつも、嬉しさに表情を緩ませ、おまけに調子に乗って何か自画自賛気味な事を言って、ロックマンから注意を受ける事だろう。
そうなるとしたら、それは、熱斗に自己肯定の回路が正しく存在しているからのはずだ。
ナルシズムに陥らない程度の自己への自信は、褒め言葉を素直に受け取る事――褒められた内容を、もしかしたらそういう事もあるのかも、と考える事――のできる思考回路を作る土台となる。
だが、自己への自信が一切無い場合――満の場合はどうだろう?
満はきっと、褒め言葉は全て嘘や社交辞令、嫌味だと思っていたはずだ、と、そんな状況に陥っている最中の未彩は思うのだ。
褒められても、褒められても、それを本当だと思えない、そういう事もあるのかもしれないと思えない、だって自分は他人に誇れるような人間ではない、という思いを、満も抱えていたのではないだろうか?
そう考えると、今となってはそれを確かめる術が無い事が、とても寂しい事に思えた。

ともかく、初めての殺人を通して一度勢いを失った満の日記だが、しばらくすると少しずつ元の勢いを回復していくのが見て取れた。
どうやら、愛華が満にSearchの過去の殺人の話をした事と、何より満自身が最終目標を明確に決めた事が、最初の殺人で揺らいだ殺人鬼になるという覚悟を取り戻させたようだ。
そして、更に読み進めて行くと、その最終目的の内容も明らかになる。
それは、他でもないこの本のサブタイトルの半分――某中学校卒業生連続殺害事件の事だと気付いた時、未彩の脳裏に過ったのは、いっそ安らかにも見えた満の死に顔だった。
未彩は、明らかにこの世に未練が無さそうで穏やかな満の死に顔の理由は、Searchに殺されたからだけでなく、最終目標はすでに達成していたからなのかもしれない、と思ったのだ。
もしかしたら、満は周囲が思っている以上に、自分の死について考えていたのではないだろうか?
人は常に自分の人生の中に何らかの目標を持ち続けるから生きていける、という言葉を、未彩は何時の日か何処かで聞いた事がある。
その言葉は多分、あまりネガティブな意味を持たせたつもりはない発言で、目標さえあれば人は何でもできるというポジティブな応援の言葉なのだろうが、未彩はどうもこの話の裏には非常にネガティブで絶望的な内容が隠れている気がしてしかたがならなかった。
未彩には、目標を持ち続けるから生きていける、という言葉は、目標を持てなくなった時に人は死に至る、という残酷なもう一つの意味を砂糖で包んで誤魔化しているだけのように思えるのだ。
もしそれが事実だとしたら、人が目標を持てなくなる時とはどんな時だろうか、と考えると、浮かんでくるのは大きく分けて二つのパターンだ。
一つは、その目標が途方もなく壮大過ぎたりして身の丈に合わず、自分の一生を全て費やしたとしても叶う事は無いと知った時だろう。
これは、未彩自身が今現在体験しているパターンだ。
社会的に見れば特に壮大でもなんでもないはずの、普通に生きる、社会の役に立つ、という目標が、自分には非常に難しい事だと知ってしまい、それならば自分は一体何をすればいいのか考えてみるも、それも分からず、一切の目標を失って、ただその場しのぎばかりの毎日を送る、それを目標の喪失と言わず何と言うべきか。
きっと、この国の下層にいる、働く事も学ぶ事も無い人間達は大抵このような目標の喪失を経験しているはずである。
だが、このパターンは満には当てはまらないだろう。
満が当てはまるのはもう一つのパターンで、次の目標が一切決まらない状態で目の前の目標を達成してしまった場合、という非常に珍しいであろうケースだと、未彩は考える。
そう、おそらくだが、満は某中学校卒業生連続殺害事件を起こした後の自分の歩みを、一切決めていなかったのではないだろうか? あるいは、そこを自分の終わりの目標に定め、最初から自分の死を想定に組み込んでいたのではないだろうか?
満は、殺人者であると同時に、自殺志願者の要素も持っていたのかもしれない。
そう考えると、あの穏やかな死に顔も納得できる、そんな気がした。

やがて、日記の内容は未彩が小学六年生で、Dirty Bloodが再び勢いをもって活動し始めた頃に入る。
この頃の記述には未彩や熱斗達が既に知っている内容が多く、一般人にとっては興味深いかもしれないが、未彩にとってはそこまで注目するほどの事は無いように思えない事も無い。
というのも、この頃の日記は何故かそれまでと比べて圧倒的に感情面の露出が少なく、自分はどういう行動をして周囲はどういう行動を取った、という事が淡々と記録されているだけの日の方が圧倒的に多かったからだ。
それは、単にそれ以上の事を考えて書く余裕が無いほど忙しかっただけなのか、それとも、わざわざ文にして吐き出す必要が無いほどに満が殺戮に慣れ始めていたという事なのか、はたまた、他の意味が隠れているのか。
未彩にはそれを判断する事は出来なかったが、ただ、そんな淡々とした文章の合間合間に、たまに顔を出す感情的な文章は、相変わらず未彩を惹きつける。
例えば、満が久しぶりにSearchと再会し、初めて熱斗達と顔を合わせた日の日記は、以前のそれと同じ様になかなか感情的な記述が多い。

『今日は、ついにSちゃんとの再会を果たした。偶然、ではなく仕組まれた再会だ。ただの表社会の会社員としての僕が商談に行った会社を、Dirty Bloodのメンバーが襲って、僕以外を皆殺しにし、僕は運良く隠れる事が出来たかのように見せかけ、Sちゃんに発見させる、そんな仕組まれた再会。AリーダーからSちゃんと僕を引き合わせる作戦を行うと聞かされた時、僕は言葉にし切れない程の期待を覚えた。後になって思えば、十年以上も会っていない知人に会うというのは、普通なら相手にどんな変化が有るか一抹の不安を覚えるものなのだけど、僕はそんな不安は一切感じなかった。Sちゃんならあの頃とさほど変わっていないはずだという確信が、僕には何故か存在していた。そして実際、僕が隠れた(と言っても、僕自身Dirty Bloodのメンバーだから、Sちゃんを待ち構える為に潜んだと言った方が正しいかもしれない)掃除用具入れのロッカーを、拳銃を構えながら開いたSちゃんは、僕には一目見てSちゃんだと分かる程にSちゃんのままだった。そりゃあ、僕等が中学生だった頃より更に長身が伸びていたり、前髪が昔より長くなっていたり、黒くて艶やか髪は一つに束ねられていたり、服装が制服ではなく大人のものになっていたり、そういう小さな変化はあったけど、そういう表面的な事じゃない、もっと根源的な部分で、SちゃんはSちゃんのままだった。例えば、そう、Sちゃんの足元には、昔Sちゃんが僕等に嫌がらせをしてきていた男子生徒に見せつけるように殺した猫と同じ様に無様に殺されたDirty Bloodのメンバーの死体が転がっていて、嗚呼、Sちゃんは今でも殺人鬼なんだ、殺しができるSちゃんのままなんだ、と、僕はもの凄く感動した。表面上はSちゃんの拳銃に驚いて怯えたようなリアクションを取った僕の頭の中は、昔のままのSちゃんに再会できた喜びでいっぱいだった。』

その文章からは満がSearchとの再会を心から喜んでいる事が見て取れて、未彩は一瞬微笑ましさすら感じた。
だが、この再会は普通の旧友同士の再会ではなく、その再会の先にハッピーエンドと呼べる展開は無かった事をすぐに思い出し、未彩は微笑ましさと言う甘ったるい考えを振り払うように頭を軽く左右に振る。
社会的に落ちこぼれても尚残る社会的な自分が、この日記に書かれた事は飽く迄も赦されなかった人間の生き方で、バッドエンドまでの道のりでしかないのだから、その考えに呑まれてはいけない、と警鐘を鳴らしたからだ。
だが、その一方で、社会が何をどう言おうと、満が最期の瞬間に自分の人生に対し少しでも満足感を得ていたなら、それはそれでまた一つの幸福な終わりのようにも思える。
未彩は、今の自分――大学を八年かかっても卒業できるかどうか危うく、それならいっそ何もかも投げ出して引きこもって、親が死んだらその後追いをすればいいのではないかと、まだ頭の何処かで考えている自分に満の選んだ終わりを責める資格があるのかどうかを内心で自問した。
しかし、その答えはすぐには出そうにない気がしたので、未彩はとりあえず満の日記の続きを読んでみる事にする。
続きは丁度次のページに書かれていて、まだSearchとの再会の日の事が書かれていた。

『ロッカーが開かれた時、僕は左手で鞄を抱え、右手で自分の口を押さえ、突然の暴徒襲来に怯えながらなんとか隠れていた普通の会社員を演じた。Sちゃんが、「両手を上げろ」と言って銃口を向けてきた時には、ヒッ、と怯えたような声を漏らしてみながら指示に従った。それから僕は両手を挙げたままロッカーを出て、「お願いです、殺さないでください……」と哀願するフリをした。Sちゃんはまだ僕を信用せず、同時に僕が中学時代の同級生だった事に気付いていないみたいで、険しい表情をしていた。僕はとにかく表情を硬くしてその場に立ち尽くしておく。立ち尽くしながら僕は、どのタイミングで今目の前にいる人物がSちゃんだと気付いた事にするかを考えていた。Sちゃんの方から気付いてくれればそれはそれでラッキーだし嬉しかったんだけど、Sちゃんは気付いていなかったみたいだったから。僕、顔も髪型もそんなに変えてないはずなんだけどなぁ、ちょっと残念。とにかく、僕は目の前にいる人物がSちゃんという元同級生だと気付く演技をするタイミングを窺っていた。するとそのタイミングは少し予想外の形で訪れた。僕の隠れていたロッカーの横、つまり僕の死角になる位置から、Sちゃんのものでなければこの会社の社員のものでもなく、はたまたDirty Bloodのメンバーのものでもない、声変わり前の少年の声が、Sちゃんを「S刑事」と呼び、同時に銃を下ろすように言った時、僕は今だと思って今更気付いたかのように、「え、S刑事って……もしかして、Sちゃん!?」と驚いて見せた。それでSちゃんも相手が僕、藤咲 満である事に気が付いたみたいで、少し間を置いてから、「お前の名前は。」と訊いてきた。そして僕が「あ、えっと、藤咲 満……です。」と答えると、Sちゃんはようやく銃を下ろしてくれた。自分で僕の名前を言わずに、僕に名前を言わせる辺り、Sちゃんはオレオレ詐欺とかに強そうだなぁ、なんて場違いな事を考えていたのは此処だけの話。とにかく、僕がSちゃんの元同級生だとSちゃんに知らせる事はそうして上手くいった、けど……僕は内心緊張しながら、背後に振りかえって、Sちゃんに銃を下ろすよう言った声の主の姿を確認した。最初から、女性的ではないのに高い声で、子供っぽい声だとは思っていたけど、それは本当に少年で、しかも後から聴いたら小学六年生だとかで、僕は演技でなく本当に驚いた。その少年、N.H(仮名)は怯えたふりをしている僕に対し、まるで自分より小さな子供をあやすように、何度も何度も「もう大丈夫だよ」と言ってから、Sちゃんが僕に銃口を向けた事を咎めた。内心、コイツは何を言っているのだろう、と僕は思った。中に何がいるか分からない空間の入口を開く時、武装しておくのは当たり前の事だろうに、それを咎めるなんて。後にコイツは自分がネットセイバーである事を僕に明かしたけど、こんな平和ボケした子供にそんな大役を与える警察は無能を通り越して愚鈍だと僕は思った。案の定、Sちゃんに僕が思ったような事を言われてたしね。その後、Sちゃんは僕とN.Hを連れたまま残りのDirty Bloodメンバーを全て殺し、パートナーであるB.EXE(仮名)を会社のネットワークにプラグインした。N.HもR.EXE(仮名)とかいう名前のナビをプラグインしていて、Dirty Bloodの量産型スパイナビをデリートするように指示していた。そのくせ、事件が解決した後に、N.HはSちゃんを責めた。人殺しなんて間違ってるとか言って。正直、僕からしたら、ナビ殺しは容認する癖に何言ってんの? というか、SちゃんがDirty Bloodのメンバーを殺さなかったら、お前今頃死んでたと思うんだけど? って話なんだけど、そう言うと色々怪しまれそうだから、とりあえずは「助けてくれてありがとう。」って、SちゃんとN.Hの両方に言っておいた。例え罪人相手でも殺しは罪だというなら、その人を模して作られたネットナビを殺すのだって罪になりえる、と僕は割と思ってるんだよね。それから僕は、警察とネット警察による合同事情聴取とか、あとN.Hが主張した心のケアとかを受ける為、SちゃんとN.Hと一緒に科学省へ行って、そこでSちゃんと初めてPETのアドレスを教え合った。……そうしたら何故か、N.Hまで一方的にアドレスを教えてきて、「何かあったら連絡してね!」……だって。表情や態度からして、コイツは多分、僕が自分と同じ種類の人間であると確信し、別種であるSちゃんに近づけないようにしたいんだろうと思う。馬鹿だな、僕はお前と同じ種類の人間じゃなくて、Sちゃんと同じ種類の人間、殺人鬼なのにね。』

滅多にSearchと愛華と白夜とMurderの仮名以外が出てこない日記に突然現れた仮名N.H――光 熱斗。
この日は、Searchと満が再会した日であると同時に、満と熱斗が初めて顔を合わせた日でもあるのだったか、と、当時事件現場にはいなかったが科学省には丁度居合わせていた未彩は思い出す。
あの時の熱斗はまだ、Searchのやり方に納得がいかない様子で、科学省に来てからしばらくの間、Searchには一切関わろうとせず満にばかり話しかけていた。
話しかけられた満は、割と笑顔で好意的に応じていたように見えていたが、その笑顔の下では全く逆の嫌悪感を抱いていたとは。
だが、考えてみれば当たり前の話かもしれない。
満にとって、出会ったばかりの少年――熱斗よりも、かつて同じ時間を過ごしていた元少女――Searchの方が大切だというのは、もし満とSearchが殺人鬼で無かったとしても同じだっただろう。
解り合う、とまでは行かずとも、自分の抱える背景をある程度知ってくれて、同じ時間を同じ場所で過ごしていた相手であるSearchに対し、何も知らない初対面の子供である熱斗が、その背景を知ろうともせず、ただSearchを突き放し、同時に満をSearchから引き離そうとするというのは、満にとっては非常に耐えがたい事で、Searchと自分への侮辱にさえ思える事だったはずだ。
勿論、熱斗が満やSearchの過去の背景を知らないのは無理もない事だというのは、未彩が分かるのだから満も分かっていたであろうが、それでもそこに苛立ちを感じずにはいられないのが人間の性(さが)だろう。
だから、この日の日記の後半は、全体的には、自分は殺人鬼だという人を捨てる思想のベールで覆われつつも、そのベールの下にはまだ捨て切れていない人間性を満が隠し持っていた事を証明しているように未彩は感じた。

ただ、この日記を読んだあるいはこれから読む多くの人間は、そこまで気付かないだろう。
何故ならば、それらの人間は最初から満を否定する為に読む者が多数だろうというのは、この本の情報を最初に見つけたツブヤイターや、通販サイトのレビューなどを見れば一目瞭然だからだ。
とはいえ、否定から入る、というのは特別悪い事ではない。
否定は否定でも、そこに詳細な理由や根拠、そして対象を否定する事で何を主張するか等の骨組みが定まっていれば、それは安易な肯定意見を凌駕する強さを持つ事が出来る。
だが、今回の否定は恐らくそうはならないだろう。
何故ならば、嘆かわしい事に、未彩の使う通販サイトのレビューでは、読んでないけどレビューします、この本は最低です、買った人も最低です、等という、中身が無い上に不特定多数への中傷とも受け取れる書き込みが大半を占めているからだ。
否定するなとは言わないが、どうして自分はこの本を否定するのかという理由ぐらい組み立てたらいいだろうに。
それを堅実に組み立てた否定ならば、社会のシステムを変えるほどの力を持つかもしれないのに。
そうでなければ、安易な肯定と大して変わらず、堅実に組み立てられた少数の肯定にも打ち勝てないだろうに、と思うのは、未彩だけなのだろうか。
社会としては、多数決は基本中の基本で、どれだけ中身がない意見でも多数派になればそれが優勢になるのが当たり前なのだろうが……そんな事をする民衆に、国会でたまに行われる、圧倒的多数を持つ与党による何らかの独断決議を非難する資格は無いな、と未彩が思ったのは、此処だけの話である。

そんな社会の話は置いておくにしても、未彩は満の日記にそれほどの嫌悪感は抱いていなかった。
自分が被害者あるいは遺族ではないからそう思うのだろう、と言われれば、それはまぁそうだと返す事しかできないのは認めるが、それを認めたうえで、未彩は少しだけ、自分の呼吸が楽になるような何かを感じたのだ。
未彩は別に、昔も今もこの先も、殺人鬼になろうとは思わない。
それでも、この本の中にいる藤咲 満という人物は、もしかしたらこの世界では無い何処かの世界――パラレルワールドでは、この世界の自分と違う選択をした自分が、満のような最期を迎えているのかもしれない、などという非現実的な想像さえ脳裏を過る程、自分のif――もしもの未来の姿のような気がして、どこか身近に感じられる気がする。
それに何より、人生の中で常に社会と自分の不協和音に悩んでいるのは、未彩だけではなく満も同じだったと思うと、それだけで未彩は自分が独りではないような気がして、少しだけ、生きる勇気が湧いてくる気がしたのだ。
勿論、満は滅多に仲間を欲さない人間だというのはこの日記を見れば明らかなので、例え満が生きていて未彩の声が届く場所にいたとしても、満に対し、自分は満の仲間だ、と言うような言葉をかける事は、満に対して喧嘩を売っているのと同じだろうというのも分かる。
満とは違う場所で違う時間を違う形で違う流れに沿って生きてきた未彩が、たった本一冊分、細部が所々削減された日記を読んだだけで満の全てを分かった気になるのは、おこがましいにも程があり、満にとっては不快以外の何でもないだろう。
それは、この日記に書かれた仲間気取りを選びかけた少年――熱斗への不快感を見れば明らかだ。
だから未彩は、自分を明確に満の仲間だと提言する気は全く無い。
ただ、満がこの記録を残していて、それが未彩の社会で生きる為の呼吸を少しだけ楽にしてくれた事に、ありがとう、と胸の内で感謝を述べるだけだ。
ある意味不謹慎にも思えるこの感謝だが、先人の失敗を糧にして他の選択肢から正解を探すのは人類に限らず動植物全てに共通する後生の特権で、それが無ければ人は猿から人になる事すらできはしなかったはずなのだから、それぐらいの不謹慎は、失敗から目を背ける事しかできない大多数の人間の弱さという罪に比べれば小さな事だろう。

それから満の日記には、何度かDirty Blood以外の人間の名前(仮名)が出現した。
勿論一番出現頻度が高いのはSearchや愛華、白夜のままなのだが、その次に熱斗の名前が頻繁に挙がるようになり、徐々に他の名前も挙がりだす。
しかしその名前の人物達の中に、満の考えを覆せるほどの影響力や、満よりも深い考えを持った人物は存在しなかったようで、満はやはりSearchやDirty Bloodを自分の拠り所のように記し、熱斗達の事はそれを脅かそうとする外敵とする記述がほとんどだった。
特に、熱斗と、それから真波とマサナと思わしき人物の扱き下ろされようは凄まじく、これは本人達に教える気にはなれないし、それ以前によくこれを出版できたな、と未彩は思った。
次いで、少院 秋斗と光野 優斗と思わしき人物のの書かれ方も中々酷い。
熱斗と真波とマサナはともかく、秋斗と優斗は割と大人しく、また満のような虐められっ子側の人間だったので、何故二人が満に嫌われたのかは未彩にはよく分からないが、酷い書かれ方をしているという事は、この二人も自分たちの知らないうちに満の気に障る言動を取っていたと言う事だろうというのはなんとなく想像がつく。
というのも、秋斗と優斗は常に熱斗達の傍にいて、熱斗の影響を強く受けており、未彩がその輪の中から姿を消す直前もまだまだ熱斗達についていく気である事が見て取れたという事があるからだ。
今も二人がそうしているのかどうかは未彩には分からない。
だが少なくとも、満が生きていて未彩や熱斗達と関わっていた頃の二人が熱斗の影響下にあった事は事実なのだから、二人が熱斗の影響を受けた言葉を無意識のうちに発し、満の神経を熱斗のように逆撫でしていたとしても不思議はないだろう。
それは、今の未彩にはよく理解できる事だった。

そしてついに、日記は満の最期の日のすぐ近くになる。
Searchや熱斗達に自分がDirty Blood団員である事がバレてから、満は生活拠点を表の自宅からDirty Bloodの基地に移し、Dirty Bloodに入った本来の目的――某中学校卒業生連続殺害事件を粛々とこなしていたようで、この頃の日記には、今日は以前どうやって嫌がらせをしてきた人間をどのように殺した、等の殺害についての記録が悪寒がするほど詳細に残されていた。
長年書き続けた事もあって文章力が上がっているのか、かつてSearchが猫を殺していたシーンの描写の比ではないレベルで残虐かつグロテスクな描写が活き活きと記述されているそれは、十八禁にしてもまだ足りない気がするほどの威力を持って読者を打ちのめす事だろう。
未彩も、この描写にはさすがに戦慄せずにはいられない。
だが未彩は、そのグロテスクな描写に振り回されてはいけないと思い、あえてその文章から目を背けない事を選んで、一文字も逃さない覚悟で熟読する。
そうすると見えてくるのは、残虐な殺人鬼としての満ではなく、運悪く虐めの被害者になってしまい、大人になっても尚その頃の記憶に苦しめられ、その加害者を殺しても尚それが消えず苦しみもがいている満の姿だった。
一般的には一番明確な怨みの晴らし方だと思われている方法、殺害。
しかし、本当にそうなのだろうか?
もしそうだとしたら、何故満はこんなにも苦悶と虚無を抱えなければならなかったのだろうか?
それを探る為日記を読み進めると、ある記述が見つかった。

『アイツは、最後の最後まで僕を馬鹿にした目をしていた。死の恐怖は感じているはずなのに、最後の最後まで、僕を貶すような、見下すような、そんな目をしていた。その目が、憎たらしい。だから僕は、死体と化したアイツの目に、何本かの長い釘を刺してやった。ざまぁみろ、って、もう見えないか。釘、刺さってるもんね。』

未彩はそれを読んで、満に本当に必要だったのは、怨みの相手を殺害する事ではなく、怨みの相手に過去の事を謝罪してもらう事だったのではないだろうか? と感じ、もうありえないifの未来を想像する。
もしも、虐めの加害者達が何らかの機会を得て――例えば満に捕えられた後、満に対し心の底から真剣に、殺してもいいからその前に謝らせて、とでも言って謝っていたらどうなっていただろう?
未彩が思うにこの場合の流れは大きく分けて二つで、一つはその謝罪を信じなかった満が加害者を迷わず殺す事、そしてもう一つは、その謝罪を信じる、とまでは行かずとも、その謝罪を信じるべきか否かを迷い、殺害を躊躇する事だ。
元々合理主義気味なところがある満の事だから、他の加害者を逃がさない為や、それ以前の善良な一般市民の犠牲を無駄にしない為に、捕えた加害者の謝罪が本心だと分かったとしても殺害に及んだ可能性は十分にあるだろう。
だが、その一方で悲しい程に人間味のある満の事だ、謝罪が本心と感じられれば、殺害をやめるまではいかずとも、躊躇ぐらいはした可能性も無くはないだろうとも思える。
そしてその躊躇が幾つか重なれば、最終的に満は虐めの加害者を殺害する事への執着を失い、遅すぎるタイミングではあるが殺人鬼である事をやめたかもしれない。
そもそも、満が殺人鬼になった原因は、根本的には虐めの加害者への怨みであって、殺害自体に快楽を感じている訳ではないと言っても過言ではない。
だから、虐めの加害者への怨みが消えてしまえば、満が殺人鬼でいる理由は無くなる……と未彩は思った、のだが、それで満の人生の結末が変わるとはあまり思えないのが悲しいところだとも思った。
例え虐めの加害者が謝罪し、満の抱える怨みの念が浄化されたとしても、そのタイミングでは遅すぎるのだ。
猫などの小動物を殺していた頃までならまだしも、一人でも無関係の人間を殺してしまったら、その後はもう、いつ謝られたとしても、どれだけ謝られたとしても、何もかも手遅れなのだ。
もっと言えば、小動物殺害の時点で手遅れと判断する事もできなくはない。
無関係の何かに危害を与えた――それも殺害と言う形を取った時点で、満は虐めの加害者よりも深い罪に堕ちていて、その後に怨みという形での外部への攻撃が不可になったなら、もう後は、自分に攻撃を向ける以外何もできない。
結局、満は良くて自首からの死刑、悪くて自殺という形で自分に死を与える事、自分を殺害する事を決めただろう、と言うのは、少し考えれば分かる事だった。
それを考えると、満にとって怨みの相手が満を見下すと言う形で悪を貫いた事は、ある意味幸運だったのかもしれない気もする。
結局、満の運命を変えようと思ったら、少なくとも満が中学生の時点で、満自身だけでなく、満の周囲が何らかのifを起こしていなければいけなかったのだろう、と思うと、このifは本当にありえない未来なのだと感じられて、未彩はどうにも、世の中は無情にできているようだ、という厭世感に浸らずにはいられなかった。
そしてそれは、満もあまり変わらないようで、最後の日の前日の日記には、こんな事が記されている。

『所詮この世は、僕のような異端あるいは異形にとって無情なのが当たり前。個性を伸ばす時代だとか、多様性は大切だとか、そんな事を言いつつも出る杭を必ず打つ矛盾した社会が、僕は大嫌いだ。本当は個性なんて要らないくせに、本当は多様性を鬱陶しく思っているくせに、一度受け入れるふりをして、外堀を囲ってから洗脳して強制しようと試みるなんて、偽善者どころの話じゃ無い。そして上手く洗脳された奴等には、洗脳できなかった人々を(例えばそう、僕とSちゃんを)叩き壊すようになるプログラムを無意識に埋め込んで、そのくせそれは自分が埋め込んだ訳じゃないと言い訳をする奴等も、そのプログラムに従って無洗脳な僕等を叩き壊そうとした奴等も、皆、大嫌いだ。僕にとって、この世は価値を持たない。今更価値を持たせようとも思わない。ただ、壊したいだけ。壊した後は、知らない。』

最期の日の記述は、物理的な記録や、それに伴う感情よりも、何故か独立して書かれていた独白が強い力を持っていて、未彩は満の抱えた虚無を強く感じた。
やはり少し前にも感じた通り、満は人生の最終目標を達成してしまったからあんな顔で死ねたのだと、未彩は確信する。
未彩よりもよほど強い厭世感の気配に、未彩は、満がもはや自分の生に何の意味も価値も見出せず、未来を見てなどいなかった事を感じ取る。
嗚呼、本当にこの世は無情だ。
無常ではなく、無情だ。

最期の日を読み終えた未彩は、そっと本の表紙を閉じた。
この本はまだ終わりではなく、この後に陽狐の手記と影月の手記、それから影月の後書き代わりの挨拶が載せられているのだが、満の日記だけでもかなり濃い内容で、読み手の容量――パソコンで言うメモリーを多大に消費する内容であった為、続きはまた少し日を置いてから読むことに決めたのだ。
パソコンの置かれた勉強机の上から、小さなホログラムのロンナが声をかけてくる。

「あれ? 続きは読まないの?」
「続きは明日にでも読む。今はもう限界だ。」

未彩はそう答えてベッドから立ち上がり、部屋の隅に置いた本棚変わりのカラーボックスの中に本を仕舞った。
壁に掛けられたデジタル時計を見ると、時刻は午後十時五十五分になっている。
未彩は少し迷った後、カラーボックスを離れて勉強机に近づき、パソコンの電源を落とした。
ロンナは未彩がしようとしている事を理解したのか、笑顔のままPETの中に姿を消す。
未彩はそれを見送ってから、ベッドの上のビニール袋を床に投げ捨て、ベッドに乗って横になった。
ただ、色々な情報を一度に取り込みすぎた頭はすぐに眠りに落ちようとはせず、未彩はベッドの上で横になったまま、少しだけ考え事をする。

社会に傷つき、社会を恐れ、社会を憎み、社会に戦いを挑んだ満は、結局自らの死でしか自分を救えなかった。
そんな満の悲しい人生の記録から、自分――未彩は、何を学べばいいのだろう?
そもそも犯罪に手を染める気がない(高校生の時も、結局誰も殺すことなどできなかった)未彩が、あの本から学べることとは何だろうか。
社会にとって異物であるのは未彩だけではない、というのが分かったのは、それはそれで収穫だが、それだけで終わってはいけないはずだと思う。
しかし、終わらないなら何を続ければいいのかが、未彩には分からない。
つまり、社会にへりくだって、社会の手先になれるように自己洗脳を施せばいいのか?
否、そういう事ではないはずだ、はずなのだが、だからと言って自分を貫き通そうとすると、それはそれで満のような結末に辿り着くしか無くなってしまうのだろう。
ならば、どうすれば――……。

そんな事を考えているうちに、未彩の意識は闇に落ち、ロンナは静かにPETの画面の明かりを消すのであった。

◆◇

どうもお久しぶりです、生きてます、闇雪 冷夜です。

久しぶりの欠片はまさかの、時事ネタ(っても若干乗り遅れた感アリ)+オリキャラ設定資料、という無茶苦茶構成になった訳で、その結果がこれだよ!
いやはや、最近(っても6月上旬ですが)購入した本が興味深かったんで一本書いてやろうと思ったのですが、まぁ上手くいかないのなんのって。
最初に書こうと思ったのは、自分の時間がある一瞬に止まってしまって、成長したり老化したりしているのは飽く迄も身体だけで、心はいつまでもあの頃のまま前に進めない、っていうのはあの本の著者以外にも起こりえる事だよね、という話だったのだが、その初期案は何処かに吹っ飛んだ模様。
仕方がないので、これは時事ネタではなくオリキャラの資料という事にしよう、と思い、その角度で本腰を入れてみたら今度は文章が非常に長くなり……これ書き終わるのか? という疑念を抱きつつも、でも此処まで書いたなら完成させたい、という思いで突っ切った結果がこれである。
最初は、満自身が手記を出版し、それを未彩が読む、という流れも考えていたのだが、よくよく考えたら満って殺人を謝罪するような性格じゃないわ、と思ったので、満は死亡済みで手記を出したのは飽く迄も両親(陽狐と影月)という事に。
これを書くきっかけになった本の著者は本の中で謝罪をしているのに、その著者を若干モデルに取り入れているが実際は誰かさんの攻撃思想の現れである満は謝罪しない可能性大というのは、これを書くきっかけになった本の著者の方が、これを書いてる誰かさんよりも厨二病が治ってる可能性が微レ存という証拠じゃないだろうかとかそういう。
あ、本文中の満の日記は飽く迄も「満の」日記であって、これを書くきっかけになった本に書かれている内容とは無関係です、ハイ。
というかまず、【RE Second】本編では、陽狐も影月も手記を出そうなんて思わないと思いますとかそういう……でも満の日記に書かれている話は満の正式設定ですとかそういう……これって設定資料短編集に入れるべきなのか、それとも誰得短編集に入れるべきなのか……。
そもそも未彩の将来もどうするか不確定なんだよな……エリートルートか落ちこぼれルートか……個人的には落ちこぼれルート推しだとかそういう。
久々過ぎて後書きの書き方を忘れた感満載ですみませんねホント……。

そういえば最後に欠片にUPしたのっていつだっけ、と思ったらもう2014年9月半ばだという事実……時間の流れの速さは恐ろしい。
とりあえず、そろそろ夏休みがやってくるので、夏休みは少しでも多く更新できるように努力したいです、はい。

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