曖昧ライン

□episode-1
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「君、自殺でもする気かい?」


――――確か、彼が私に初めて声を掛けたのが、こんな台詞だった。
まぁ、場所が場所だけに、ということもあり、私の行動もそう取られても仕方のないことだったのかもしれない。…が。んが、校内じゃそこそこ有名な彼を知らないわけではないが、面と向かって話したこともなければ半径三メートル以内に近付いたこともない、単純に“噂な彼”という意識の中にいただけの存在に、なぜ急にそんな質問をされなければならない。しかも初会話―――まだ返事をしていないので会話にはなっていないが―――のタイミングが悪い。
否、普通に考えれば、話しもしたこともない“全校生徒の内の一人の女性生徒”に話しかけたのは凄いことだと思うけれど、状況が状況だけに、今は凄いとは思えない。普通なら、この状況を見たら声を掛けずにUターンするのが普通の人。稀にだけど顔を青白く強張らせて「や、や、やめるんだ…」とかって自分が怖じけずきながら寄ってくる人がいるけど。ついでに、あんな質問を投げ掛けてくる人は稀中の稀だ。

「………無視かい?」
「いや‥別に、」

まぁ、それも含めて今までの“普通の人”に関しての考えに全く当てはまらない人。

「で、自殺しようっていうのかな?君は」
「自殺するように見えます?私が」

きっと見えるわけがない、と断言しよう。
単純に遊び心で屋上に来て、フェンスを乗り越えて、ギリギリの所が地上を見つめる。―――否、やはり、普通に考えればそう見えるだろうか。が、目の前の彼は例え少しでもそう思ったとしても、今の発言に対し、真実だと完全には思わないだろう。

「君、面白いこと言うね。なら、仮に自殺する気がないなら、どうして君はそこにいるんだい?」
彼は笑いを堪えているかのように口元には笑みを浮かべ、そう口にした。
「そうですね…高い所から地上を見てみたいなっていう好奇心ですかね」
「好奇心から、飛び降りてみたいっていうのはうまれなかった?」
「ないですね」
「随分ハッキリ言うね」
「現にそうですから」
それにしても、初めての会話にする内容がコレはどうなのだろう。初対面に等しく、会話をしたことがない。遠い存在だった彼が前方に立ち、私を見つめている。…不思議な感覚だ。
「でも」
――――だから、なのか可笑しな会話をしている内に、一つの疑問が頭を過ってしまった。否、今までの彼の発言を聞いていれば、誰だって考えてしまうものではないだろうか。絶対そうだと思う。

「貴方は、此処から飛び降りて欲しいみたいですね」

過った疑問をそのまま口にすれば、彼は更に笑みを深めた。



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