他三国志書

□勝敗の決まっていた攻防戦
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 夏侯惇の唯一の趣味は、誰にも知られていない。
 と、いうのも、誰かに見られるものでも、言うわけでもないものだからだ。
「……丞相」
 呟き、ほうっと熱いため息を漏らす。
 こうやって、誰もいない暇なとき、愛する曹操を考え、二人でいる時の計画を考えたりすることが、唯一の趣味。
 だが、夏侯惇の思いは、告げていない。当然、計画は成功したことがない。
 言えば、すっぱり諦めもつくか、うまくいくかもしれないのだが、何分、奥手な夏侯惇、できないのだ。
 勇気を出して言おうとして、何度やめたかは、数えられない。
 だから、考えるだけなのだが。
 実際、すっぱりはっきり、曹操に言ってしまえば、夏侯惇の計画などすんなりと叶ってしまうのだが、夏侯惇は気付いてはいない。




 詩を考えるより何より、夏侯惇のことを考えるほうが、曹操は何倍も楽しかった。
 頭の中では、夏侯惇の計画よりも遥かに進んだ卑猥な――もとい、大人な計画を考え、どうやって夏侯惇を陥落させるかを考える。
 好きだと、言わせなければ意味がない。
 自分から、告白したら、簡単に承諾するだろうが、それではなく、夏侯惇の口から聞きたいのだ。
 それが、天下を統一するよりも難しい気さえする。
 が、それをさせたいと思い、そうさせると断定するのが、曹操である。
「愛してると、言わせたいな」
 いやらしい笑みを浮かべ、曹操は呟いた。




 仕事続きで、疲れ、溜息を吐いた曹操に、夏侯惇は心配そうに眉を寄せた。
「丞相、お疲れならば、今日はもう……」
「いや、まだ大丈夫だ」
「ですが、お体を悪くしてしまいます」
「すまない。だが、本当に大丈夫だ」
 食い下がる夏侯惇に、曹操は笑みを作る。
 作られた笑みに、夏侯惇は胸を締め付けられたような気がした。
「私は、心配なのです。どうか、お休みして頂けませんか?」
「お前は優しいな」
「そ、そんなことは……その、私は、丞相のことが、心配なだけで……」
 顔を真っ赤にして、夏侯惇は曹操に答える。
 その姿だけで、曹操に惚れているのが、バレバレなのだが、あえて曹操は口にしない。
「そうだな、早いが、少し休むか」
「ゆっくりお休みください」
「ああ、その前に、酒を飲むが、付き合ってくれ」
「え、あ、はい。喜んで!」
 本当に嬉しそうに、夏侯惇は口にした。




 夕刻から飲み始めた酒が、すでに二升を空にしようというとき、夏侯惇がふんわりと笑った。
 酔ったなと、曹操は思い、見えないところで口の端を上げた。
「丞相……私のこと、どう思いますか?」
 撓垂れ、上目遣いで聞く夏侯惇の頬は紅をさしたように赤い。
「よい男だ」
 その美しさに見とれそうになるのを耐え、曹操は夏侯惇に笑って伝える。
「よい男……?」
 首を傾げ、曹操の服の端をいじくりながら、考える夏侯惇の姿は、ずいぶんと幼く見える。
 女がこのようなことをしていたら、媚びているようにしか見えないのだが、夏侯惇がすると、なぜだが、妖艶に見えるのは、気のせいだろうか。
「……私は、丞相のことをお慕いしております」
「ああ、お前の忠義、嬉しく思うぞ」
 笑いながら、答えた言葉に、夏侯惇は盛大に顔を膨らませた。
 ぎゅっと胸の辺りを掴んみ、夏侯惇は顔を曹操に近付けた。
「丞相のこと、好きなのです」
「私も好きだぞ。今までよくついてきてくれたと思っている」
 怒った夏侯惇に怯まず、そう伝えると、夏侯惇は顔を歪め、めそめそと泣き始めた。
「……じょうしょっ……私は、従者では……なくっ……ひと、りの……人として……そう、も、とく様を……お慕い、して……るんです……」
「夏侯惇……」
 名を呼び、落ち着かせるように抱き締め、夏侯惇の背を叩いた。
「丞相、丞相……」
 取りつかれたように名を口にし、夏侯惇は曹操に唇を合わせた。
 その柔らかい感触に誘われ、曹操は夏侯惇の唇を割り、舌を絡ませた。
 段々と力の抜けてきた夏侯惇の体を支えながら、曹操は唇を離した。
「ふっぁ……じょ、しょ……」
 顔を真っ赤にして微笑み、夏侯惇は曹操に抱きつく。
「好きです。愛してます……」
「……やっと言ったか」
 耳元で囁くように口にした後、寝てしまった夏侯惇の髪を梳きながら、曹操は嬉しそうに呟いた。




 目の覚めた瞬間、真っ赤な顔で部屋の隅に逃げる夏侯惇に、曹操は驚いた。
「どうした?」
「は、は、裸っ!」
「ああ」
 全裸で寝ていた曹操を指を差し、夏侯惇は真っ赤な顔で気を動転させている。
「お前もだぞ」
「……!!」
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