SS詰め合せ

□SS集
2ページ/15ページ

「眞!」
 その呼び声に、譲眞は振り向いた。
 走ってくるその人を確認すると、ため息を吐いた。
 そして、聞かなかったことにして、スタスタと視線を戻して歩く。
「相変わらずだな」
 真横まで来た男は、シニカルに笑い、歩幅を合わせて歩く。
 だが、それでもいないかのように真直ぐ進む彼女に、眉を微かに動かした。
「無視するな」
「……お前は子供か」
 嘆息混じりに、譲眞は言葉を発す。
 呆れたような笑みを浮かべ、男を見上げた。
 これは譲眞の癖のようなもので、とにかく人の話を聞くときは目を合わせる。
 もっとも、手を動かさなければいけないとき以外の場合だが、それでも、誰かを見据えるなんて普通の男だってまともにできない。
 芯の強いその性格故か、生れ付きかは、判別できないが、紛れもなくそれは譲眞の一動作。
「相変わらずか……」
 呟いて、譲眞の頬に手を滑らせる。
 が、甘いムードにはならない。
 ペシッと叩き落とされ、軽く鼻をならして睨まれる。
「女ったらし」
 刺の入った言葉に、思わず呻く。
「女ったらし、て……」
「女なら誰でもいいんだろうが」
 そっぽを向いて、そう口にする譲眞が何だか可愛くて、口元がゆるむ。
 わかりやすいくせして、自分のもとには来ない譲眞は、義章の中で一番に欲しい存在だった。
 しかし、誰がいつ無理矢理奪うか知れない。この世の女を物のように扱うその考え方がにくい。
「……章。ばか」
 微かに潤んだ瞳を隠し、吐き捨てるようにそういった譲眞は去っていった。
 考え込んでいた義章は追い掛けられず、ただそこに立ちすくんでいた。
「何やってんだ?」
「ああ、ちょっとな」
 同僚の兵士に話し掛けられ、曖昧に返事をする。
「ふ〜ん、ところで、お前、三連休じゃなかったか?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、女官のあの子を迎えにきたのか」
「あの子?」
「譲眞。これから三日間休みだからな」
「!!あちゃぁ〜通りで機嫌悪いわけだ」
 頭を押さえ、義章は自分の行いを反省する。
「……まさか」
「そのまさかだ。見たんだなあいつ」
「ナンパか……」
 こうなると、どちらもため息しか出ない。
 三日間なんとなく一人がいやで、女官の誰かをナンパした。
 それがつい先程で、譲眞に会う前。
「誤っても許すだろうかな。あの子、夏侯将軍並みに意地っ張りだから。しかも」
「しかも、なんだ?」
「三日間の休み、直に取り付けたらしいからな」
 絶望的だと思い、頭を抱える。
 そんな姿を兵士は見て、ため息を吐いた。
(だけれど、将軍のように優しいから、あの子は心から謝れば許すな)
 そう思いつつ、言葉を飲み込んだ。
 好いてる者が義章のものになるのが、いやなのだ。



 結局、譲眞の部屋で平謝りする義章の姿があった。


後書き

はい、入れてもよかったボツシーンでした
本当、直して入れてもよかったのですが、やめました
本編は操惇メインだし、彼らは脇役だしね
ですから、ボツというより、未公開というほうが、ただしいかも
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ