SS詰め合せ

□パラレルSS
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 空は晴れていて……。
 ――泣きたくなった。


 どうして?
 なんて聞くけれど、答えは出ない。
 誰かを思い出したようで。
 その記憶を思い出せなくて。
 その人に、逢いたくて。
 だけど、誰だか分からず、逢えなくて。
 この気持ちを、どう示せばよい?


 思い起こせば、こんな気持ちは一生続いている気がする。
 逢いたくても、逢えない誰か。
 それは、失ってはいけないものだったはずだ。


「今日から看護士として働くこととなったの」
「夏侯惇元譲と言います」
 目の前で看護婦長に促され、自己紹介をする男に、何かが当てはまった。
「外科医の曹操孟徳だ」
「よろしくお願いします」
 緊張して強ばらせた表情を少し緩め、夏侯惇は頭を下げた。


 空を見ても、泣きたくならなくなった。
「曹操先生!」
「騒がしいのう。もっとゆっくりと仕事がしたいものじゃ」
「無茶言わないでください!」
 夏侯惇に怒鳴られ、騒がしい日を過ごすにつれ、空を見上げることはなくなりつつあった。
 いや……
「何を見てるんですか?」
「ん、いや何でもない」
 夏侯惇を見るほうが、何倍も楽しい。
「ぎゃっ!」
「いつもいい尻しておるのう」
 少し、いじめるのもだ。
「何するんだ……。たくっ、触ったって面白くもないだろうに……」
 ぶつぶつと独り言を言う夏侯惇にほほ笑む。
「はぁっ」
「ほれ、行かぬのか?」
「行きます!」
 怒鳴る夏侯惇の肩を叩き、歩きだした。
 叩かれた本人は、ただのコミュニケーションの一種のように感じているようだ。
 だが、実際は、自分が触れたかったから。
 本当は手を繋いだり、抱き締めたりして触れ合いたい。
 しかし、できないのが現状。
 それが、空を見上げて泣きたくなったときより、何倍も泣きたくなった。


 この愛しすぎてどうしようもないものとの間に感じる空虚を、どうしたらよいのだろうか?





何となく、三国志の時を覚えてないけれど、惇がいないことに違和感があり、淋しさを覚える曹操が書きたかった
アンケートにあったナースマン惇を採用してみました
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