SS詰め合せ

□パラレルSS
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 くいっと白衣をひっぱられ、夏侯惇は首を傾げて下を見た。
 見れば、待合の椅子に座っていた子供と目が合う。
 同じ病院内の内科医の子だと分かり、頬を緩めた。
「子桓、また来ていたのか?孟徳を待っているのか?」
 ぷるぷると首を横に振り、曹丕は夏侯惇の胸ポケットに薔薇をさした。
 そういえば、曹操が妻は薔薇園のようなものつくり、目を楽しませるといって喜んでいたと思い出しながら、薔薇をポケットから抜いた。
「これは、家から持ってきたのか?」
「……誕生日、おめでとう」
 頷いた後、ぼそっと、言った曹丕の言葉に、夏侯惇は自分の誕生日だったことを思い出した。
「ああ、そうだった。それで……。ありがとうな、子桓。しかし、よく知っていたな」
「前、入院したときに、聞いたから……」
 曹丕は、二ヵ月前に骨折で三日ほど入院した。
 その時、曹丕は誕生日だったので、夏侯惇は本をプレゼントした。
 それがとても嬉しかったらしい曹丕は、しきりに夏侯惇の誕生日を聞いた後、自分もプレゼントするといいだしたことを、夏侯惇はすっかり忘れていた。
「そうだったな」
「来年は、二本持ってくる」
「薔薇を?」
「毎年毎年、一本づつ増やす」
「そんな……別に俺の誕生日を祝わなくてもいいんだぞ。来年には、30になるし……」
 正直、歳を数えるほどいやなものはないとさえ言ってしまいそうな年齢だ。
 しかし、曹丕は首を横に振り、口を開いた。
「夏侯惇先生の誕生日は大切な日」
「そうか、ありがとな」
「薔薇が10本になったら、告白するから」
「………………えっ、子桓?」
「待ってて」
 有無を言わさず、走って帰る曹丕を止めることは叶わず、夏侯惇は訳も分からず薔薇を見た。
「む、どこの女子に貰った!?」
 いきなり現われた曹操は、眉を潜めて薔薇を見た。
「お前の息子からだ」
「な!?あやつ、まだ子供だと思ったが……」
 イライラとそんなことを言う曹操に、ため息を吐き、夏侯惇は胸ポケットに薔薇をさした。
「夏侯惇、お主、子桓に何か言われたか!」
「誕生日おめでとう、とな」
「…………なんじゃ、それだけか。七歳の子には、ものを買うことなぞできぬしな」
「俺は、心が入ってれば、いいプレゼントだと思うがな」
 胸ポケットにさした薔薇は、とても美しく、夏侯惇は微笑んだ。
「だったら、わしの濃厚な愛撫というプレゼントはいらぬか?」
「孟徳、変態というのだそれは」
 おそらく、頭の中がピンク色なんじゃないかと思われる曹操を睨み付け、夏侯惇は自分の仕事場、小児科へ向かった。





好評もしくは気が向いたら続編を書くかも
丕惇か操惇で10年後の話を
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