他三国志書

□熱
3ページ/6ページ

「愛しいと思わぬ男に、触れたいと思わん!お前だからだ!お前でないと、駄目なんだ」
「殿……」
「好きだ。愛している。お前だけだ。他に、誰もいらない」
「わ、私も、殿と同じでございます……」
 揃いの感情が幸せで、曹操は微笑み、夏侯惇の唇を奪った。
 貪るようなものではなく、触れて離れる軽いものを何度もし、最後に夏侯惇の唇を軽く舐めて曹操は離れた。
「……今宵、泊まってゆかないか?」
「殿のお部屋にでございますか?」
「閨にだ」
 途端、真っ赤に顔を染めて、夏侯惇は躊躇したが、ゆっくりと頷いた。
「さっそく移るか。早くお前を抱きたい」
 起き上がりながら、曹操は口にすると、夏侯惇は真っ赤な顔を俯かせたまま、上体を起こした。
 夏侯惇を曹操は立たせると、夏侯惇の体から手を放した。
 すると、へたりと夏侯惇は座る。
「……すまない。まさか、あれぐらいで、腰がぬけるとは、思わなくてな」
「す、すみません!このようなこと、慣れていなくて……」
「……慣れていない?」
 しまった、という顔をして、夏侯惇は黙った。
「お前、一ヵ月に女を何度抱く」
 夏侯惇とて成人した男。
 女を抱かないわけがないのだ。妻帯もしている。
「……――〜〜」
「何だ?」
 上目遣いで、ごにょごにょと言う夏侯惇の言葉がまったく聞き取れず、曹操は再度問う。
 と同時に、何だか聞いてはいけない言葉を耳にしそうだと、そう思った。
「半年……女の裸体というものを、見ておりませぬ……」
 曹操は絶句した。
「……おま……本当に、男か?」
 信じられない一言だった。
 予感を越えた一言であったと、曹操は思う。
 今、戦場にいるわけでもないのに、妻も他の女も抱かぬとは、いったいどういことなとかと口に出そうと思っても、言葉にできなかった。
「……妻は怒らんのか?」
「はい」
「妾は?」
「居りませぬ」
「前聞いたときは、二人と言っていたが?」
「国に帰しました。相手をしてやれぬので」
 律儀といえば、律儀だった。
 女にとって、男に相手にされないというのは、女としての役目を果たせないのと同じである。
 だが、妾にした女がそういう目にあうのは、別に珍しいことではない。
 しかし、それを気に止んで帰すとは、夏侯惇らしいといえば、夏侯惇らしい。
「……自慰は?」
「そ、それは……」
「してないことはないだろ」
「……月に一、二度ほど」
 観念したかのように口にする夏侯惇に、納まっていた頭痛がするような気がした。
「……お前、清らかにも程というものがあることを、覚えておけ。女に溺れろというわけでは決してないが、ある程度は抱かないとまずい」
「そう、でしょうか?」
「欲を溜めすぎる。捌け口がないと、体を悪くするぞ」
「考えておきます」
 首を傾げて答える夏侯惇は、おそらくまったくわかっていないのだろう。
 確かに、それは夏侯惇の問題であって、曹操が介入すべきものではないし、結局は夏侯惇自身がそれでよいなら直す必要性がない問題でもある。
「……そうやってはきださぬから、少々の快楽で立てなくなるのだ。仕方ない、じっとしていろ」
「殿!?お止めください!」
 曹操に持ち上げられ、夏侯惇は慌てた。
 夏侯惇に比べたら細身の曹操のどこにこれほどの力があるのか、そんな疑問が浮かぶが口にすることは今の夏侯惇には無理だった。
「じっとしているんだ。床で交わりたいというならば、話は別だが」
「そ、そういうわけでは……」
「すぐにつく。これしきで壊れるような私ではない」
 心を見透かしたような言葉に、夏侯惇は黙るしかなかった。




 ゆっくりと降ろされた寝台の軋む音が響く。
 夏侯惇に覆いかぶさり、じっくりと舐めるように、夏侯惇を上から下まで見つめ、曹操は目を細めた。
「……どこから愛したらよいか。悩んでしまうな」
「どこからでも……ご慈愛くださいませ……」
 恥ずかしそうに夏侯惇は口にし、曹操の首に腕を回した。
「夏侯惇……」
「あ……」
 軽くついばみ、曹操はゆっくりと口付けを深くしていく。
 怖ず怖ずと曹操の舌に絡ませてくる舌を逆に絡めとり、くちゅっと音を立てて唇を離し、また合わせる。
 目蓋を閉じ、かたかたと震える体を寝台に押しつけられた夏侯惇を今から犯すと考えるだけで、曹操は女と相手をする以上に興奮する。
 音をたて唇を離し、夏侯惇の頬に伝う涎を舐め上げる。
 夏侯惇の着物を乱し、曹操は顕になった肌に喉をならした。
 健康的な白さをもった、肌理の細かな肌の平らな胸が呼吸で上下し、欲で微かに朱を帯びている。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ