他三国志書

□天は舞を欲す
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「このような時間に、なりません……んっ」
 耳たぶを軽く噛み、夏侯惇の欲を煽る。
 夏侯惇の弱い部分を狙って体をなぞれば、息が荒く、密着した体温が上がっていくのが、直に分かり、曹操は微かに笑った。
「ここまできて、辛いだろう?」
「あ、駄目です……。明る、い……それに、服が汚れ……」
 明るい日差しがある中で、それも聖なる物を着ての行為に、夏侯惇は頑なに嫌がった。
 その姿が、逆に曹操の興奮を煽る。
 真っ白なものを自分が汚すことに、背徳感はなく、ただあるのは、独占欲。
「……我儘に付き合え。元譲」
「……っ」
 普段呼ばぬ字で呼べば、顔を真っ赤に染めて夏侯惇は俯いた。
 ちらりと向けられた目は、欲と羞恥に揺れていて、曹操は微笑した。




 目をとろんとさせ、肌を上気させる夏侯惇を見て、曹操は喉で笑う。
 ここまでくれば、逃げることはしないと分かり、曹操は夏侯惇から離れた。
「殿……?」
「……お前の淫らな声も姿も、誰にも見せたくはないからな。人払いをしてくる」
 耳元で囁いた後、曹操は部屋を後にした。
 その後ろ姿を見送ると、夏侯惇は熱の納まらぬ身体を持て余し、きゅっと服を掴んで自身を慰めてしまいそうになる手を封じた。
 それでも、欲を求める身体が震え、夏侯惇は涙を浮かべた。
「と、のぉ……殿……すみま、せん……」
 自分が卑しく感じ、夏侯惇は愛しい男の名を呼び、こんな淫らな自分など曹操に捨てられるのではないのかと勝手に思い、謝罪を口にした。
 このような状態にしたのは、曹操のせいだというのに。
「待たせたな。――どうした」
 体を震わせて泣いている夏侯惇に、曹操は驚いた。
「すみ、ません……」
「何を謝る」
「こんな、卑しい身体……殿は、いらないのでは……」
「何をいうか!馬鹿が」
 曹操は抱き締め、夏侯惇の唇を奪った。
 抱き締めた身体はひどく熱く、曹操はたとえ一瞬であっても離したことは間違いだったと、自分に苛立った。
 夏侯惇に、考える隙を作ってしまったのは、今までで一番の失態だとさえ、曹操は思う。
 夏侯惇は、清廉潔白といわれるほど、欲がない。
 ないものを与えれば、どんなものでも、困惑する。
 そういう時、人は良いほうか悪いほうかのどちらかにしか、思考は向かない上に深みに填まる。
 生来、曹操へ純粋な思いを寄せつづけ、利を欲さず付き添い続けている夏侯惇には、与えることはあっても欲することはない。
 だからこそ、その曹操に対する欲望は恐怖でしかないのだろう。
「ん、んんぅ……あ」
 名残惜しそうに、離れた唇に視線を送る夏侯惇の頬を撫で、曹操はまた唇を塞いだ。
 ものを考える暇を与えないほどの濃厚な口付けに、夏侯惇は体を震わせ、目を潤ませる。
 ぴちゃりと厭らしい水音を立て離れた唇を呆然と見送るだけで、夏侯惇は目元を赤く染め微動だにしない。
 否、脳内がぼやけ、動けないのだろう。
「お前の全てがほしい。淫らなそれも、お前を彩る一つ。何もかも、私に捧げろ」
 神に舞を捧げたように、自分にも。
 否、いるか知らぬ神なぞに、捧げるものなどないと、誇示するかのように。
「……よろしいのですか?」
「いいも悪いもない。ほしいのは、お前の全てだ」
 不安そうな顔を見据えたまま、曹操は夏侯惇の帯に手を伸ばした。
 するすると帯を解いていくが、夏侯惇はもう抵抗しなかった。




 涙に濡れた真っ赤な目元に口付けし、曹操は肌の感触を楽しむため、鎖骨の辺りからすっと胸元まで撫でた。
 ぴくぴくと震える体に目を細め、肌に唇を寄せ、跡を残していく。
「は……あぅ……」
「……このように綺麗だというのに、手放すはずがない」
 濡れた瞳、上気した肌、普段より甘く高い声、その全てが淫らで美しく、曹操の欲望を煽るものでしかない。
「殿……」
「安心して身を任せろ」
「……殿、殿……」
 ぽろぽろと涙を零し、夏侯惇は曹操に抱きついた。
 突然のその行動に、驚き目を見開いたが、すぐに微笑し、曹操は夏侯惇の頭を撫でる。
「嬉しいです。とても」
「そうか」
「殿……」
 愛しそうに名を口にし、夏侯惇から口を合わせた。
 初めてのことに驚き、曹操は目を見開いた。
 恐る恐るであるが、舌を入れてきた夏侯惇に、思考まで停止する。
 だから、気が付かなかった。
 夏侯惇が股を開き、慣らしもしていないそこに、曹操の高ぶりを当てたことに。
「あっ!いた……んんっ……」
 目の前で苦痛に歪む夏侯惇に、曹操ははっとし、慌てて腰を引こうとするが、片腕でぐっと押さえられた腰はびくともしない。
「元譲!なんてことを……」
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