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□俺の名を呼んでくれ/俊空
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中学まで、あいつの世界は俺だけだった。
俺の世界もお前だけだ。

高校に上がって、あいつの世界が広がった。
俺以外に友人と呼ぶ奴が増え、俺以外と会話をし、俺以外の名前を口にする。

少しだけ違和感を感じた。





俺の名を呼んでくれ








入学してしばらくの時期が過ぎた頃。
空目の周りには近藤、日下部、木戸野、この何ともいえぬ特殊な人物達が集まっていた。

皆同じ文芸部。

いかにも読書好きそうな木戸野とは違い、本当に本なんか読むのか疑問な武巳と日下部。

いや、それを言ったら自分も例外ではない。
運動部などいかにも練習多そうなかったるい部に入る気は更々なく、空目が文芸部に入るという事で自分もそれなら適当に過ごせるだろうと入部した訳だが。

空目が目立つのは今に始まった事じゃない。
いつも黒づくめにこの美貌。
黙っていたって空目は目立つ。
しかし彼は人を寄せ付けない。
最初から人を相手にしないし、いかにも近寄りがたい人種だ。

中学でも例外はなく、空目の友達は俺だけだった。
元からそんなに会話する仲ではないけども、空目の口から他の奴の名前を聞いた事はめったにない。

空目は決して他人に興味を抱いたりはしない。

しかしこの文芸部に入って、変り者達は出会った。

あいつに友達が出来る事はいいことだし、悪い奴らじゃない。
むしろ喜ばしい事だと思う。

友人として純粋に嬉しい。

しかし、違和感が離れない。


今まで空目の感情、会話の殆どが俺だと言ってもいい。
空目が感じた感情、発した言葉、表情、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、俺だけのもの。


でも今は…




「へーかっ!何読んでるの?」


「寄るな、欝陶しい」


「馬鹿者。恭の字が読む本をあんたが理解出来るわけないでしょ」


「あ!こら武巳クンてば魔王様にひっつきすぎ!抜け駆けはズルイぞ!」



部室にいつもと同じ談笑が響いている。
それは、とても和やかな風景。

俺とお前だけの世界は終わった。

淋しい、とかでは決してない。


それは 確実な、違和感。


世界に俺とお前以外がいるという、違和感。



元から空目の世界には空目一人だけだ。
それでも空目は言ってくれた。

俺が全てだと、

俺しかいないと、


俺はそれが全てだった。



「近藤、顔が近い」


違う、空目。

違う、

違う、

違う、

違う、

違うんだ、空目。


そんな名前じゃなくて



俺の名を呼んでくれ

END

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