インアウトバランスのその後



夕飯後、母さんが切ってくれたリンゴを食べているとやはり俺のことは放っておいて何やら真面目な顔で十希夫に話しかけている。


「十希夫くんて家の事は一通りこなせるよね。器用っていうかマメなのかなぁ」
「うちの母さん、昔っから忙しそうにしてたから多分手伝いの延長みたいな感じだと思いますけど」
「ホントに十希夫くんいい子だわ〜。軍司なんてなーんにも出来ないから手がかかってしょうがない」

チラリと視線を向けられたが本当のことなので言い返せなくて、リンゴを頬張って返事ができないフリをした。

「十希夫くんみたいな息子だったら良かったのにっていつも思うんだけどね。ねぇ十希夫くん?」
「はい?」
「うちにお嫁に来ない?もれなくおちゃめな姑がついてくるけど」


その瞬間、俺は今まさに飲み込もうとしていたリンゴを吹き出して鼻にまで入る始末だ。


よよよ嫁って!!冗談なのは分かるけどこの場で言うか!?


盛大に咳込む俺の背中をさすりながら十希夫は複雑な表情をしていた。
その時は笑って流していたが、俺の部屋へ上がる階段の途中できちんと聞いてみた。


「十希夫は…俺んとこに来る気あるか?」

三段下にいる十希夫は俺を見上げて固まっていたが、僅かな沈黙に耐えれなくて上からキスを落とした。ここで、ごめんなさい、はさすがにないだろうがやっぱりどう返事されるか気になる。
十希夫は柔らかに俺の指先を握った。

「選択肢を用意して俺にノーを言わせたいんですか?もっと強引に、来いって言っていいんですよ」


それがどうにも可愛くて仕方がなくて、俺は十希夫の手を引っ張って倒れ込むように部屋に引き込むと十希夫の頭を胸に抱き締めて、将来のことを本気で考えてしまった。







やさしい手



初夏ともなれば、日差しが強くて晴れだというのに外は過ごしにくい。
室内の中でも、美術室は絵や道具保管の関係で日影になるようにされているから今の時期昼寝をするならうってつけの場所だった。

昼休み、満腹の腹は気持ち良く眠気を誘い十希夫は空になった弁当箱を横に、美術室の机に突っ伏して少々の惰眠を貪ることにした。

だんだんと意識が落ちていくのが気持ち良くて、チャイムが鳴るまで寝てやろうと思っていたところに誰かがやってきてドアが開く音がした。
声をかけずに美術室に来るのはおよそ軍司くらいだが、後少しで完全に眠りにつこうとしていた意識はそうすぐには戻ってこなくて、十希夫はそのまま目を閉じてしまった。

「十希夫、寝てるのか」

軍司に声をかけられ、それは耳に入ったのだがとても目を覚ます気にはなれなかった。
用事があるなら起こされるはずだから、十希夫はこのまま寝てしまおうと思っていたら近づいてきた軍司の気配がごく僅かな距離で止まったのが分かった。そして少しの間。
起こされることも出ていくこともない軍司が気になり十希夫の眠気はいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。十希夫は軍司の先の行動を伺うように、目を開けることなくそのまま寝たフリを決め込む。

そうしていたら頭を置いている腕の先の手の甲に何かが触れた。その感触は体の中でも取り分け柔らかく弾力のある唇のもので、続けて耳やこめかみにも触れられる。とくに耳はくすぐったくて肩がびくっと跳ねてしまった。

軍司のその壊れ物を扱うかのような優しい口づけに十希夫は恥ずかしくなって遂に目を開けた。
視線をそろそろと上に上げるとにっこりと微笑む軍司がいて頭を撫でられる。

「軍司さん、恥ずかしいことしないでくださいよぉ……」

十希夫は消え入るような声で言って顔を伏せてしまった。隠しきれない耳
は真っ赤だった。

大切にされているという実感は嬉しい反面、時にとてもくすぐったい気持ちにさせられる。
それが、こうして普段しないような形で示されると余計に。

「十希夫はホントに可愛いな」

軍司の声は楽しげで、十希夫には見なくともその顔は溶けそうに甘い笑みが浮かんでいるのが容易に想像できた。







欲望を解くのその後




呼吸も落ち着いて服を身につけようと足元で丸まっているそれを手繰り寄せる。
いつもこの時ばかりはなんとなく恥ずかしくて、二人とも何を話していいか分からず黙々と服を着ているのが可笑しく思ってしまう。

さらに今日は紐パンを履き直す俺は軍司さんに背を向けてコソコソと着替えていると、後ろから抱き留められた。

「何隠れてんだよ」
「だ、だって堂々と着替えられない……です」


にやにやと笑いながら頬にキスをされて、さっさとジーパンを履いてしまおうと手を伸ばすと何故かさっと奪われてしまった。
訳が分からなくて問いかけるような顔で軍司さんを見るとこれまたにっこり笑って頭をぐりぐり撫でられた。

「十希夫。俺が満足するまでそのままな」
「………は??」
「だから、俺が十希夫の紐パン姿を堪能するまでジーパンは没収」

時々突拍子もないことを言い出す軍司さん。
俺は絶句してしまった。


「な、な、何言ってんですか!嫌です、ジーパン返せ!」

軍司さんに飛び掛かって取り替えそうとしたら、丸めて部屋の隅に投げやられた。そのまま正面から抱きしめられて深いキス。
目尻に涙が浮かぶほど濃厚なキスに俺の下半身は素直に反応する。


「俺が満足するまでそのままな」

言い聞かせるようにもう一度言われたら、俺は「はい」と言う他なかった。

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