ゲレゲレ冒険記

□天空の花嫁
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アベルは黙ったまま、町に着いた。
時間はもう真夜中に近い。
明日の朝、ルドマンを訪ねる事になった。

宿屋で、ゲレゲレはアベルと共に部屋に入ろうとしたが、ビアンカがアベルを呼び止めた。

ビアンカ「もしフローラさんの方でアベルの事を断ってきたら、私がアベルの事貰ってあげる。なんて、冗談よ! うふふ」

悪戯っぽい目でそう言うと、アベルの反応を待たずに隣の部屋に行ってしまった。
ビアンカもアベルの事が好きなのだと思うのだが、ゲレゲレにはビアンカの心の内は解らない。
アベルもそうなのだろう。その場に立ち尽くしている。

アベル「……ゲレゲレ。僕は一体どうしたら良いんだろう……」

ゲレゲレ「がうぅ……」

アベル「……ごめんよ。こんな事、聞かれても困るよね。さあ、寝ようか」

ゲレゲレ「ふにゃあ」




翌朝。

サラボナの町は既にアベルの噂で持ちきりだった。
ビアンカが茶化す様に言う。

ビアンカ「結婚式には私も呼んでよ。リング探すの手伝ったんだからそれくらい良いわよね」

ルドマンの屋敷が見える所まで来たとき、ビアンカがポツリと聞いた。

ビアンカ「ねえアベル。アベルは本当にフローラさんを愛してる?」

アベル「……解らない」

ビアンカ「……アベルったら。そんなこと言うとフローラさんが悲しむわよ」

きっと、今のがアベルの正直な気持ちなのだろう。
ゲレゲレはドラきち達と顔を見合わせたが、誰も何も言わなかった。

そして、屋敷に着いた。

ビアンカ「なんだか私までドキドキして来ちゃった……。アベル、さあ行きましょう」

ビアンカはアベルに着いていく。
ゲレゲレ達は再び回り込み、窓の下から中の様子を窺った。
今回は全員付いてきた。
窓から中を覗き見ると、ルドマン一家がそれぞれ居間で机を囲っていた。
……デボラの姿は無いが。
入ってきたアベルがルドマンに声を掛けた。

アベル「ルドマンさん。水のリングを取って来ました」

ルドマン「おおアベル。なんと水のリングを手に入れたと申すかっ!」

ルドマンはアベルの前へ来ると、アベルの肩を叩きながら言った。

ルドマン「よくやった! アベルこそフローラの夫に相応しい男じゃ! 約束通りフローラとの結婚を認めよう! 実はもう結婚式の準備を始めとったのだよ。わっはっはっ。そうそう。水のリングも預かっておかなくては」

アベル「……」

アベルはルドマンにリングを手渡した。

ルドマン「2つのリングは、結婚式の時に神父様から手渡されるからな」

アベル「あの、ルドマンさん……」

アベルが何かを言おうとしたが、ルドマンは聞いていない。
振り返り、フローラに声を掛けた。

ルドマン「フローラ! お前もアベルが相手なら、文句は無いだろう?」

フローラ「ええ。お父様……。……でも、そちらの女性は?」

フローラは頷いたが、ビアンカを見ながら言った。

ビアンカ「え? 私? 私はビアンカ。アベルとはただの幼馴染みで……。さあてと! 用もすんだ事だし私はこの辺で……」

いきなり話を振られたビアンカは、慌てて帰ろうとする。
それを、フローラが呼び止めた。

フローラ「お待ちください! もしやビアンカさんは、アベルさんをお好きなのでは……? それに、アベルさんもビアンカさんの事を……」

フローラは一気にそこまで言い、一呼吸置くと、意を決した様に言った。

フローラ「その事に気づかず私と結婚して、アベルさんが後悔する事になっては……」

ビアンカ「あのねフローラさん、そんな事は……」

ビアンカは慌てて否定したが、フローラは勢い込んでいる。
アベルは驚いた顔をして固まっている。
そこを、ルドマンが収めた。

ルドマン「まあ落ち着きなさい、フローラ。今夜一晩、アベルに良く考えてもらって、フローラかビアンカさんか選んでもらうのだ」

ビアンカ「ええっ!?」

ルドマンのいきなりの提案に皆も驚いた。
(マジかよ!)
(何よそれ!?)
しかしルドマンは自分の考えが気に入ったらしく、話をまとめ出した。

ルドマン「うむ。それがいい! 今夜は宿屋に部屋を用意するから、アベルはそこに泊まりなさい。ビアンカさんは私の別荘に泊まるといい。良いかね? 解ったかね、アベル?」

アベル「そんな! 僕は……」

ルドマン「私は君が気に入ったのだよ。遠慮なんか要らない、素直な気持ちで考えるんだ」

アベル「…………」

ルドマン「解ったかね?」

アベル「…………………はい」

ルドマン「よろしい! アベルよ、じっくりと考えるようになっ!」

ルドマンの気迫に押されたのか、長い沈黙の後、頷いた。
(それで盾はどうなるんだよ?)
ドラきちが呟いたが、恐らくアベルは盾どころでは無いだろう。
ビアンカとフローラは堅い表情でアベルを見つめている。
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