ゲレゲレ冒険記
□サラボナ
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涼しいお陰で、進むペースは早くなり、程無くして砂漠を抜けた。
目の前には洞窟がある。
ゲレゲレは以前通った事があるので、アベルを出口まで案内した。
蛇蝙蝠の焼けつく息に苦しめられながらも、洞窟を抜けた。
洞窟を抜けると、辺りの魔物が一段と手強くなってきた。
以前、逃げるしか出来なかったベロゴンにも出くわしたが、アベル達となら恐れる必要は無かった。
南に進み橋を渡ると、塔が見えてきた。
見覚えがある。やはり、前にいた町だ。
傭兵に追われた事があるが、アベルと一緒なら大丈夫だろう。
アベルを先頭に町に入ると、前から犬が走って来た。
*「わん わん!」
*「誰か!お願いです!その犬を捕まえて下さい!」
遠くから声がする。
アベルが犬の前に立ち、道を塞ぐと、白い犬はアベルを見て立ち止まった。
後ろから青い髪を長く伸ばした女性が走り寄ってきた。
あの髪は……。あの時の少女だろうか。
*「はあはあ……。ごめんなさい。この子が突然走り出して……。いったいどうしたのかしら? さあいらっしゃい。リリアン!」
*「わん わんっ! く〜ん く〜ん」
リリアンと呼ばれた犬は甘えた声を出すと、アベルに擦り寄った。
*「まあっ!? リリアンが、私以外の人になつくなんて初めてですわ。あなたはいったい……」
彼女はアベルを見ると固まった。
*「…… ……」
*「!」
*「……あら嫌だわ。私ったらお名前も聞かずにボーッとして。お名前は……」
彼女は我に返ると、アベルに尋ねた。
心なしか顔が赤い。
アベルはそんな彼女の様子に気付いた風もなく、笑顔で挨拶した。
アベル「こんにちは、僕はアベルと言います」
*「そうですか、アベルさんとおっしゃるのですね。本当にごめんなさい。またお会い出来たら、きっとお礼をしますわ。さあリリアン帰るわよ。いらっしゃい!」
*「わん わん!」
彼女はアベルの笑顔を見て、ますます顔が赤くなった様だ。
早口にそう言うと、リリアンを連れて行ってしまった。
ドラきち「……俺達の事、完全に眼中に無かったな」
スラりん「アベルしか見てなかったよね」
ピエール「それにしても、名前も名乗らずに行ってしまうとは……」
スラりん「でも、綺麗な人だったね」
アベル「そうだね。綺麗な人だった」
ドラきち「! アベルがそんな反応するなんて……!」
ドラきち達がわいわい話している間、ゲレゲレは数年前を思い起こした。
彼女がゲレゲレに気付いた様子は無かったが、彼女の匂いは以前、手当てしてくれた少女で間違い無いだろう。
まさか、また会うことになるとは……。
ドラきち「おい、ゲレゲレ。ボーッとしてどうしたんだよ? 置いてかれるぞ」
いつの間にかアベル達の会話は終わっていた。
ゲレゲレは慌ててアベルの後を追った。
アベルと離れていると、人間達に追われかねない。
噴水の前で追い付くと、アベルは商人と話をしていた。
*「息子を連れて旅する途中でこの町に寄ったのですが……。まったく凄い話ですよ。あなたも聞きましたか?」
アベル「いえ、どんな話ですか?」
*「他の町でも有名な大金持ち、ルドマンさんが娘のフローラさんの結婚相手を募集するそうですよ。勿論、条件は厳しいですが、結婚が決まったら家宝の盾もくれるとか」
アベル「家宝の盾?」
*「ええ。あくまでも噂ですが、伝説の勇者に関する物だとか」
アベル「……。ルドマンさんの家はどちらですか?」
*「おや、あなたも参加するんですか? ルドマンさんのお屋敷なら、あそこの町で一番大きなお屋敷ですよ」
アベル「そうですか。ありがとうございます」
商人と別れると、アベルはすぐに大きなお屋敷に向かおうとした。
しかし、それをピエールが止めた。
ピエール「アベル、あのお屋敷に行くのは日を改めたらどうだ? 間もなく日も暮れる。それに、薄汚れた格好で行くのも失礼にあたるだろう」
ドラきち「そうだぜ、急いでも機嫌を損ねて、盾を貰えなくなるかもしれないぜ」
アベル「…………」
スラりん「焦る気持ちは分かるけど、オイラもそう思うな」
ゲレゲレ「がうっ」
ゲレゲレも同意して、アベルを見た。
盾の話が出てから、なんだか焦っている様だ。
アベル「……。そうだね、皆の言う通りだ。ルドマンさんを訪ねるのは明日にしよう。皆、ありがとう。何だか焦ってたみたいだ」
ドラきち「じゃあ、宿屋に行こうぜ。もうクタクタだ」
ドラきちがそう言うと、皆で宿屋に向かった。
町中、ルドマンの噂で持ちきりの様だ。
あちらこちらで、誰が選ばれるのか囁かれていた。