ゲレゲレ冒険記 外伝

□奴隷 〜 episode 1 〜
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ラインハット王国、執務室。

そこでは、一人の男が机に積まれた書類と格闘していた。

次々と書類に目を通し、分類していく。

「……これは良し。……う〜ん、これは確認が必要だな」

「これは……。お〜い! 誰か居ないか?」

男が扉の外に呼び掛けると、すぐに兵士が入って来た。

「はっ! お呼びですか? ヘンリー様」

「ああ、ちょっとこの書類をデールに渡してくれないか?」

ヘンリーと呼ばれた男は、一束の書類を兵士に差し出す。

「陛下にですね? かしこまりました」

兵士はそれを恭しく受け取ると、一礼して部屋を出ていった。

それを見送ると、男――ヘンリーは再び書類の山に取り掛かる。

カリカリと羽ペンが文字を綴る音だけが辺りに響く。

暫く同じ作業を繰り返し、書類の山が半分くらいになった頃、ふとヘンリーが顔を上げた。

懐から懐中時計を取り出し、時間を確認すると、ため息と共に呟いた。

「はぁ……。もうこんな時間か」

立ち上がり、大きく伸びをして、苦笑する。

「まさか俺がこんな事するとはなぁ……」

そのまま執務室を後にすると、上の階にある自室に向かう。

そして、自室の前に立つと、扉を開けようとして―――やめた。

自分の部屋を通り過ぎ、屋上に出る。

空を見上げると、三日月が夜空を照らしていた。

風が、ヘンリーの頬を撫でた。

「風が気持ち良いな……。星も綺麗だ。この間まで空なんか見てる余裕、無かったもんな……」

南西の空を見る。

「ポートセルミはあっちか。アイツ、どうしてるかな……?」

ヘンリーは遥か南西、ポートセルミに向かった親友に思いを馳せる。

本当は、自分も共に行きたかったのだ。

だが、まだ若い弟王デールを、祖国ラインハットを放って置く事は出来なかった。

「ピエール達も付いてるし、大丈夫だよな」

……自分が付いて居なくても。

アイツは自分よりも強いから。

そう、思いかけてヘンリーは頭を振った。

……アイツは確かに強い。

身体だけではなく、心も。

でも、同時に弱さも抱えている。

心に、大きな闇を抱えている。

他でもない、自分が良く知っている筈ではないか。

……あの日。

アイツは心に、癒える事の無い、大きな傷を負った。



―――10年前。


「アベル! アベル! 気がついているかっ!? はあはあ……。これだけは、お前に言っておかねば……!実は、お前の母さんはまだ生きているはず……。わしに代わって母さんを……」

「ぬわーーーーっっ!!」

「ほっほっほっほっ。子を想う親の気持ちはいつ見てもいいものですね。しかし心配はいりません。お前の息子は我が教祖様の奴隷として一生幸せに暮らす事になるでしょう。ほっほっほっ」
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