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 〜新婚旅行〜





―――新婚旅行でもしてきたらどう?




『…ぬらりひょん、あたしは貴方の部下に言ったのよ』
「ん?」
『それがどうしてあなたとあたしの新婚旅行になってるのかしら?』

椿姫は高級旅館の一室でぬらりひょんに酌をしていた。

――遡ること半日前。
総大将であるぬらりひょんが所帯をもって落ち着いた所為か奴良組では最近婚姻を結ぶ組員が増え始めていた。
そして彼が幹部の一人から婚姻の報告を受けていた時、たまたま傍にいた椿姫が新婚旅行でもしてきたらどうかと花婿花嫁に勧めたのだ。
この時代に新婚旅行というものはまだない。だから新婚旅行とはなんだと聞いてくる周りに婚姻を結んだ男女が行う行事のようなものだと説明をした。

そしたらぬらりひょんと側近達が慌て旅行を企画し、その日のうちに椿姫はおぼろ車にぬらりひょんと共に押し込まれた。
現在は妖怪専門の旅館でぬらりひょんとまったりしてる。

『あたしは気にしなかったのに』

ぬらりひょんと椿姫はつい10日ほど前に婚姻を交わしていた。
飄々としてるぬらりひょんだがこれでも忙しい。
この新婚旅行に行くために急ぎで仕事を片付けていたことも知っている。だからねだるつもりなどなかったのに。
ぬらりひょんは手元の杯を指で弾き笑う。

「そうはいかん。他ならぬあんたとワシのことじゃ。些細なことでもワシはあんたに幸せを与えてやりたい。ワシと婚姻を結んでよかったと思ってほしいんじゃよ」
『…あたしが後悔してるとでも思ってるの?』

ぬらりひょんはにやりと笑い椿姫の腰を引き寄せる。

「いいや?あんたはワシが心底好きじゃろ」
『…ばか』

自信満々の顔が憎たらしくてカッコよくて。不覚にもどきどきする。
答えない代わりに椿姫はその広い胸に顔を埋めた。それを見てぬらりひょんは愛らしい反応をする妻の髪を愛しげに梳く。そして傍らの卓に杯を置くと椿姫を抱き上げて立ち上がった。

「さて、そろそろ夫婦水入らずで露天風呂でも入るか。主人にいっとったからな貸切じゃぞ?」
『え?』





 カポーン

「いい湯じゃなー」
『……………』

ぬらりひょんが極楽極楽と言いながら湯船に浸かっている。
そんなぬらりひょんから椿姫は出来るだけ離れて温泉に入っていた。
確かに自分達は夫婦で、ぬらりひょんとはもちろん体の関係もあるわけだがそんな雰囲気でもないのに裸をさらすことなど椿姫には出来ない。面と向かってぬらりひょんの裸を見る勇気もない。

(ふむ、風呂場とは意外な盲点だったのぅ…)

椿姫は頼りない手ぬぐい一枚を盾に真っ赤になってぬらりひょんに背を向けていた。
契りを結んでからぬらりひょんは幾度となくその体を抱き、そっち方面にまるで知識がなかった彼女にいろいろ仕込んできた(その度に真っ赤になって殴られたり蹴られたりしたが)。
背を向けたままの椿姫をちらりと見る。
いつもは垂らしている髪は全て頭の高い位置で結い上げている為、今は細い肩と真っ白いうなじが露になっている。
顔は見えないが形のいい耳は赤く染まっていた。

「………………」

ふつふつと悪戯心と男の嗜虐心が刺激され、ぬらりひょんは畏れを発動させて椿姫に気付かれぬよう背後に回る。
壁際に逃げるとは肝心なところで詰めが甘い彼女のうなじに…ぬらりひょんは吸い付いた。

『ひう!?』

予想通り椿姫は飛び上がった。それに意地悪く笑い更に歯を立てる。

『ぬらりひょん…!』
「裸の付き合いじゃぞ椿姫。なのにこう離れていては深まる親交も深まらんではないか」
『っ、なら背中でも流してあげるからどきなさい!』
「なぁにそう慌てなさんな」
『あ!』

胸元を隠していた邪魔な手ぬぐいを取り払い、手で隠そうとした腕を取って後ろの壁に押さえつける。
白い肌は色付いて、目は潤み、身体は羞恥に震えている。
舌舐めずりする獣の如く目を光らせたぬらりひょんは故意に掠れさせた低い声でその耳元で囁く。

「…背中ならワシが流してやる……隅々まで、の」
『!!』

悲鳴は覆い被さってきたぬらりひょんの唇によって不発に終わった。
――その後、宣言通り椿姫はぬらりひょんによって隅々まで美味しくいただかれてしまい、のぼせた彼女はぬらりひょんの手によって一日介抱さてたとか。


 
おまけ

屋敷帰宅後

ぬ「のぅ、カラスよ。離れに露天風呂を造ってくれんか」
カ「は?」
『ぬらりひょん!!』



〈終〉

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