*愛を求めて〜恋をして初めて愛を知る*


□愛求*simple girl〜T*
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昔とは大違いで、小肥りはどこにやら、今は比べられないほどやせ細っている。少し捻れば簡単に折れるのではと思ってしまうほどだ。
それともう一つ、霞を見ていて思ったこと…。昔のような覇気が全くなく、大人しいを絵に描いたような彼女らしくない雰囲気が流れているのを、司は感じていた。
昔喧嘩腰に挑んできていた霞は、今はもう頼りないほど縮こまった猫のように静かに事を過ごす。そして一番、司だからこそ分かったのだろうことがあった。
霞は今、物凄く緊張している。それも尋常でない位に。張り詰めている空気が流れていることは、その場にいた司しか捉えられない。
そしてまた霞は、友との会話を直ぐに終わらせて、一人っきりになるのを司はずっと見遣るのだった。

****

同窓会の主体となるイベントが終わると、次は二次会へと進んだ。此処から車で行かないと着けないカラオケ店に、予約していると言う奴がいた。
司のように飲んでいる連中は、案の定運転など出来ない。だから酒を飲んでいない者、飲めない者に送ってもらうことでカラオケ店にそれぞれ集合する事となった。

「いや、マジどうする?誰のに乗るよ?」
「ゼッテーに運転するなよ!俺がお前等取り締まるんだからな?つーか、止めねぇとあとで痛い目に合うのは目に見えてんだ。飲んだら運転すんなよ!」
「へーい、分かってますよ〜、櫻 司(さくら つかさ)刑事!」
「ったく…本当に分かってんのかよ…」

次々とカラオケ店に移動する仲間達を見て、友の一人がぼやく。その横で司が注意を促すと、分かってるのか曖昧な返事をする友に、少し困った。からかい雑じりに友は司を刑事と言ったが、司は列記とした警察官である。
父親も警察、他界した祖父も警察で、司の家は警察官のサラブレッドと言われていた。周りから司も警察官になるのだろうと思われるのが嫌で、中高と共にヤンキーな振る舞いをしてきた。
それが今では泣く子も黙る刑事になる。あまり刺激の無い毎日を送るが、それでも忙しいときは忙しい。だから飲酒運転で仲間が捕まったら、それこそ司の刑事生命に亀裂が生む。それだけは何としても避けたい司だが、カラオケ店に移動する仲間達はもう、ものけの空となった。
あと飲んでいない者といったら、一人だけ浮かぶ。が、司は少し迷う。彼女に貸しを作るようで嫌だが、背に腹はかえられない。
意を決して司は今から帰る様子の霞に話し掛けた。

「あの…」
「はい。何か」
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