*愛を求めて〜恋をして初めて愛を知る*
□愛求*simple girl〜T*
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急に話し掛けた事で、霞の空気が張った。顔や態度にこそ出ていないので、司以外の奴らは分かっていないのが少しの助けか、霞は戸惑うように怖ず怖ずしていた。
しかも同い年相手に敬語とは、やはり十年で彼女は変わってしまったようだと、司は思った。
「あの、頼みにくいことなんだけどよ…カラオケ店に行きてぇんだけど、生憎俺達飲んでんだ。だから申し訳ねぇけど送ってもらぇねぇか?」
駄目元で司が聞いてみる。昔喧嘩したのだ。此処で了承してくれるか少しの不安があったが、霞は少し間を空けてから怖ず怖ず答えた。
「良い…ですよ…どうぞ…」
「マジ!ラッキー!ありがとう、蜩!」
「いえ…」
そうして、司を含めた男三人が乗った。司は助手席に乗りたくなかったが、友がもう後ろを占領していたため、仕方無しに座ることになった。だが、司が隣に乗ったことでより一層、霞の緊張感が上がったのを司は感じ取る。刑事としての五感が、こんな時にワザワザ出なくてもと、司は溜め息を漏らしていると車が動いた。
「でよ、俺も早く仕事変えてぇのさ」
「今のご時世、仕事があるだけマシだべさ」
「んだな。でも職場ばキツイんだじゃ」
後ろの二人は着くまでの間、話題の絶えない様子で話しているが、前席の司と霞は一言も口を聞こうとしない。そんなとき、友の一人が霞に話し掛けた。
「なあ、蜩は何の仕事してら?」
「えっ。…仕事…ですか…?」
何で話をふるか、と隣で聞き耳を立てる。司も少しは気になるところだ。
「あ、フリー…の…ライターです」
怖ず怖ず答えて、また押し黙る。どうやら自分の事を明かすのが嫌らしい。さっきより緊張感が増した。
しかし、そんなことは露知らず、友はライターか〜、大変だろう〜?と口々に言っている時に、霞が到着したことを告げる。漸く解放されるのか、少し安堵している霞の横顔に、司は眉を潜めた。
「サンキュー、蜩!お前もカラオケ行かないか?」
「え…」
突然の誘いに一瞬戸惑う。だが、少し間を空けニコリと笑みを見せた。
「ごめんなさい、私…明日用事があるんです。折角のお誘い…ありがとうございます」
「そうか、じゃあ仕方ねぇな…。それじゃ、おやすみ!」
「おやすみなさい」
そうして霞に礼を言うや否や、凍りつくような寒さのため一目散にカラオケ店に入っていく。司も同じく走っていくが、どうもカラオケをする気分でもない。