アブナイ☆恋の捜査室〜Another Story of string〜


□涙しか出ない
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コンコンと捜査室のドアを叩く音がした。
顔をあげると一課のマドンナ、瑞生 史都(みずき あやと)が片手に書類と箱を持って入ってきた。



[涙しか出ない]



夜も遅くなり、俺こと穂積 泪は相変わらず書類整理に追われていた。
クッソ……藤守と如月め……、ギリギリまで貯めとくんじゃねぇよ!



史都
「夜遅くまで御苦労ね? コーヒー煎れるから一服しない?」


穂積
「ああ……そうする。ところでその箱なんだ?」


史都
「少しは腹の足しにと思って、サンドイッチ作ってきたのよ。
一度家に用で帰ったからついでよ、ついで」


穂積
「嘘こけ、お前がついででこんな手の込んだモンを作るわけねぇのは目に見えてんだ。
……悪いな、気ぃつかわせた……」




箱には綺麗に色とりどりの具ざいをあしらっているのが、傍目でも分かる。
ついではついでなんだろうが、俺のも含めてくれているのがとても嬉しく口端が零れた。



穂積
「頂きます。……」


史都
「……どう? バターにねペッパーと、からしを入れたのよ……。
少しピリッとして良いアクセントじゃない?」


穂積
「ん、美味い。史都は料理の腕は良いからな。
今はふんだんに振る舞えんだ、家事が出来る奴でありがてぇよ」




俺は次から次へと口に入れて食べてると、史都は片肘をテーブルに乗せながら見てきた。



穂積
「? 何だよ? どうかしたか?」



不思議に感じて聞いても、ううん、何でもない。と首を振る。
何でもなくて哀しそうな顔すんな……馬鹿が……。



穂積
「そうやって黙られんのは癪だってんだろ。言いてぇことあんなら言っとっけ」


史都
「でも、泪……怒るかも……」


穂積
「そうなふうに黙ってると逆に怒るぜ? 内容にも拠るが、言ってもらった方がこっちは楽だ」




コーヒーをグイッと飲み込むと、史都は少したじろぎながら怖ず怖ずと話し出した。



史都
「本当に大したことじゃないのよ? ただ……あの人も、こうやって美味しそうに食べてくれてたな……って、ちょっと思い出しちゃった……」


穂積
「…………」




そっか……コイツの中ではまだ、あの人との時間がまだ残ってんのか……。



穂積
「なあ、史都……」


史都
「ゴメンね? ちゃんと今は泪を想っ……」


穂積
「別に忘れることねぇぞ?」


史都
「え……?」




史都が少しだけ、驚くように俺を見る。



穂積
「お前とあの人の時間は、幸せと楽しさと、優しさが詰まった時間だ。
忘れろなんて言わない。でもその分……俺がその人の時間と同じだけの温かさをくれてやる」


史都
「……泪」


穂積
「俺はお前と、あの人とあの人の息子も全て大事に受ける。
だから待ってろ、プロポーズして婚姻届出す日に、はい、さようなら。なんて事にしねぇから……。
お前より先に死んだりしねぇから……」


史都
「……、泪……」




死んだりしねぇ……。その言葉で史都はぽろぽろと涙を流した。
我が儘も甘えも、喧嘩も遊びも、沢山したかったであろうあの人との時間……。

その時間を俺とともに今から作れば良いだけ。
涙しか出ないけど、心はゆっくりと綻び始める。

俺とお前との時間が、あの人との思い出に続きを作る。
ナミダはカナシイだけじゃ、ないんだぜ?



END
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