Follow Me
□来るべき時
1ページ/6ページ
☆ ましろ ☆
三月も中旬が過ぎて、私の部屋に少しずつ荷物が増えてきた。
肌着、おむつ、ぬいぐるみ、ガラガラ、おしゃぶり、等など。
寝室は子ども部屋にする為、壁紙も替えた。
私のベッドはベビーベッドと共にリビングの窓辺に置き、仕切用のカーテンを付けた。
産んでしばらくはリビングで過ごして、落ち着いたらセブの寝室が夫婦の寝室となる。
まぁ、今までも私の寝室はほとんど使ってなかったから、あまり変化はない。
お互いの寝室を魔法で繋げてもらった事が一番の変化、かな。
これからはセブが一人の時も部屋を出て階段上らなくて済む。
(私は今までも鍵で自由に出入りしてたけど)
さぁいつでも出てきていいわよっ、って臨戦態勢に入る。
ただ、ここに来て湧き上がる疑問が………
「セブ、私、何処で出産するんだろう?」
「アルテミスが誰かを連れてくると言っていた。確かエイレイテュイア………」
「あぁ、そういう事。彼女は『お産の女神』。彼女がいてくれたら安産間違いなしね。………って事は、ここで産むって事?」
ソファで愛おしそうにお腹を撫でるセブは、そうだなって………
聞いてる?
「心配してもしょうがないだろう?いつ産気付くか分からんのだ。時が来て、この子が元気に生まれて、お前が元気でいてくれれば、それだけでいい」
「うん、そうだね。でも、生徒達に迷惑かけるのは嫌だなぁ」
そう言ったのは、つい三日前。
なのに、どうして今お腹が張ってる?
天気がいい日は毎日、散歩に出る。
階段はしんどいので、中庭をぐるっと回ってベンチに掛ける。
気分がいい時は湖のそばまで遠出。
今日は遠出してみた。
風もなくて、暖かくて湖のそばの木陰に腰掛ける。
ここは過去に跳んだ時、セブとレギュと一緒に勉強してた木陰。
お気に入りの場所でゆったりとした時間が流れ、とても幸せだった。
が、きゅぅっとお腹が固くなる。
あぁ、最近“張る”事が増えたから近いのかもしんない。
しばらくしたらふぅっと緊張が解けた。
この間に城へ戻ろう。
ゆっくりと立ち上がり、歩き出す。
途中まで来た所でまた張り出した。
う〜ん、痛いんだよねぇ……
そばにあった木に手を置いて、考える。
“張った”の二回目。
間隔も短かった。
緊張が解けて歩きながら懐中時計を出して、時間を計る。
中庭に着くまでに5回“張る”。
また木に凭れて痛みに堪える。
………陣痛だ。
間隔はすでに8分。
お産が進むのが早いのは”初産”ではないからかも。
前回を思い出そうとするが、遠い過去の事。
はぁ、覚えてないよ。
とりあえず、次の休憩で部屋まで行きたい。
痛みが消えて、歩き出す。
「ましろ、こんなところで散歩か?」
「えぇ、ドラコ。あなた、授業中じゃないの?」
後ろから掛けられた声にゆっくり振り向く。
ドラコが温室の方から歩いてきた。
「あぁ、忘れ物を取りに戻るんだ。薬草学で使うドラゴンの革手袋を部屋に置いてきてしまった」
「ポモーナは貸してくれなかった?」
「他人が使ったのなんて………ましろ、どうかしたのか?」
離れた所からは分からなかったんだろう。
目の前にきたドラコが顔色を変える。
あぁ、しまった!
せめて汗くらい拭いとくんだった。
「うん、ちょっとね。早く戻らないと授業分からなくなるわよ」
何とか笑顔を浮かべた時、また張り出した。
痛い……
なにか捕まるもの………
「ごめん、ドラコ、ちょっと捕まらせて」
返事を聞く余裕がない。
「ましろ?どうしたんだ?辛いのか?」
ドラコの腕を掴み、痛みを堪える。
「ふ〜っごめん、助かった」
今のうちに部屋へ行こう。
「ましろ、どうかしたんだろう?僕も行く」
私を支えるようにして隣を歩いてくれる。
「あ〜〜ありがとう………もうすぐ生まれそうなの。部屋まで行けば何とかなると思うから………」
さっきからコロニスの返事がない。
多分、アルテミス達の所に行ったんだろう。
授業中だからセブは呼びたくない。
30分もすれば終礼のベルがなる。
Darling、もうちょっと我慢してね。
お願いだから。
「生まれるって………赤ちゃん?!」
「そうよ。さっき陣痛始まっ………」
また張り出した。
ドラコの腕を掴む。
「ましろ、誰か呼ぼう。スネイプ先生かダンブルドアか……マダム・ポンフリーは?」
うん!
今は返事できないっ!!
「っはぁ、そだね、セス、おじいちゃん呼んできて」
もっと早くに気づけばよかった。
こんなに余裕がなくなるなんて、考えもしなかったよ。
あぁ、あと少し、ほんの10メートルが遠いっ!
それでもドラコの腕に捕まり、少しづつ歩いて何とか中庭を横切った。
「おぉ!ましろ!始まったのかね?」
渡り廊下を走ってくるおじいちゃんが目に入る。
「うん、部屋まで行きたっ………」
パンっという音と共に、足を温かい物が流れる。
やばい!破水した!!
「おじいちゃん、破水した。このままだと、危なっ………」
痛みが襲う。
なんかもう、助けて!
「ましろ!遅くなった!!すぐに楽にしてあげるからねっ」
「ぁぁヘルメス、遅いよ………」
ドラコの腕から私の手を取ったヘルメスは怒鳴った。
「アルバス、この子、邪魔!二人ともあっち行ってて!!」
「おぉ、ミスター.マルフォイ、わしらはあっちに行かねばならんようじゃ」
「ましろ、このまま部屋に連れて行くから」
ヘルメスの肩に凭れるように立っているのが精一杯。
「よし、いなくなった。行くよ」
そして、私は部屋で待っていたアルテミスとエイレイテュイアに助けられ、無事、女の子を産んだ。
.