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□来るべき時
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☆ ましろ ☆


三月も中旬が過ぎて、私の部屋に少しずつ荷物が増えてきた。


肌着、おむつ、ぬいぐるみ、ガラガラ、おしゃぶり、等など。


寝室は子ども部屋にする為、壁紙も替えた。


私のベッドはベビーベッドと共にリビングの窓辺に置き、仕切用のカーテンを付けた。


産んでしばらくはリビングで過ごして、落ち着いたらセブの寝室が夫婦の寝室となる。


まぁ、今までも私の寝室はほとんど使ってなかったから、あまり変化はない。


お互いの寝室を魔法で繋げてもらった事が一番の変化、かな。


これからはセブが一人の時も部屋を出て階段上らなくて済む。

(私は今までも鍵で自由に出入りしてたけど)


さぁいつでも出てきていいわよっ、って臨戦態勢に入る。


ただ、ここに来て湧き上がる疑問が………



「セブ、私、何処で出産するんだろう?」


「アルテミスが誰かを連れてくると言っていた。確かエイレイテュイア………」


「あぁ、そういう事。彼女は『お産の女神』。彼女がいてくれたら安産間違いなしね。………って事は、ここで産むって事?」



ソファで愛おしそうにお腹を撫でるセブは、そうだなって………


聞いてる?



「心配してもしょうがないだろう?いつ産気付くか分からんのだ。時が来て、この子が元気に生まれて、お前が元気でいてくれれば、それだけでいい」


「うん、そうだね。でも、生徒達に迷惑かけるのは嫌だなぁ」






そう言ったのは、つい三日前。


なのに、どうして今お腹が張ってる?


天気がいい日は毎日、散歩に出る。


階段はしんどいので、中庭をぐるっと回ってベンチに掛ける。


気分がいい時は湖のそばまで遠出。


今日は遠出してみた。


風もなくて、暖かくて湖のそばの木陰に腰掛ける。


ここは過去に跳んだ時、セブとレギュと一緒に勉強してた木陰。


お気に入りの場所でゆったりとした時間が流れ、とても幸せだった。


が、きゅぅっとお腹が固くなる。


あぁ、最近“張る”事が増えたから近いのかもしんない。


しばらくしたらふぅっと緊張が解けた。


この間に城へ戻ろう。


ゆっくりと立ち上がり、歩き出す。


途中まで来た所でまた張り出した。


う〜ん、痛いんだよねぇ……


そばにあった木に手を置いて、考える。


“張った”の二回目。


間隔も短かった。


緊張が解けて歩きながら懐中時計を出して、時間を計る。


中庭に着くまでに5回“張る”。


また木に凭れて痛みに堪える。


………陣痛だ。


間隔はすでに8分。


お産が進むのが早いのは”初産”ではないからかも。


前回を思い出そうとするが、遠い過去の事。


はぁ、覚えてないよ。


とりあえず、次の休憩で部屋まで行きたい。


痛みが消えて、歩き出す。



「ましろ、こんなところで散歩か?」


「えぇ、ドラコ。あなた、授業中じゃないの?」



後ろから掛けられた声にゆっくり振り向く。


ドラコが温室の方から歩いてきた。



「あぁ、忘れ物を取りに戻るんだ。薬草学で使うドラゴンの革手袋を部屋に置いてきてしまった」


「ポモーナは貸してくれなかった?」


「他人が使ったのなんて………ましろ、どうかしたのか?」



離れた所からは分からなかったんだろう。


目の前にきたドラコが顔色を変える。


あぁ、しまった!


せめて汗くらい拭いとくんだった。



「うん、ちょっとね。早く戻らないと授業分からなくなるわよ」



何とか笑顔を浮かべた時、また張り出した。


痛い……


なにか捕まるもの………



「ごめん、ドラコ、ちょっと捕まらせて」



返事を聞く余裕がない。



「ましろ?どうしたんだ?辛いのか?」



ドラコの腕を掴み、痛みを堪える。



「ふ〜っごめん、助かった」



今のうちに部屋へ行こう。



「ましろ、どうかしたんだろう?僕も行く」



私を支えるようにして隣を歩いてくれる。



「あ〜〜ありがとう………もうすぐ生まれそうなの。部屋まで行けば何とかなると思うから………」



さっきからコロニスの返事がない。


多分、アルテミス達の所に行ったんだろう。


授業中だからセブは呼びたくない。


30分もすれば終礼のベルがなる。


Darling、もうちょっと我慢してね。


お願いだから。



「生まれるって………赤ちゃん?!」


「そうよ。さっき陣痛始まっ………」



また張り出した。


ドラコの腕を掴む。



「ましろ、誰か呼ぼう。スネイプ先生かダンブルドアか……マダム・ポンフリーは?」



うん!


今は返事できないっ!!



「っはぁ、そだね、セス、おじいちゃん呼んできて」



もっと早くに気づけばよかった。


こんなに余裕がなくなるなんて、考えもしなかったよ。


あぁ、あと少し、ほんの10メートルが遠いっ!


それでもドラコの腕に捕まり、少しづつ歩いて何とか中庭を横切った。



「おぉ!ましろ!始まったのかね?」



渡り廊下を走ってくるおじいちゃんが目に入る。



「うん、部屋まで行きたっ………」



パンっという音と共に、足を温かい物が流れる。


やばい!破水した!!



「おじいちゃん、破水した。このままだと、危なっ………」



痛みが襲う。


なんかもう、助けて!



「ましろ!遅くなった!!すぐに楽にしてあげるからねっ」


「ぁぁヘルメス、遅いよ………」



ドラコの腕から私の手を取ったヘルメスは怒鳴った。



「アルバス、この子、邪魔!二人ともあっち行ってて!!」


「おぉ、ミスター.マルフォイ、わしらはあっちに行かねばならんようじゃ」


「ましろ、このまま部屋に連れて行くから」



ヘルメスの肩に凭れるように立っているのが精一杯。



「よし、いなくなった。行くよ」



そして、私は部屋で待っていたアルテミスとエイレイテュイアに助けられ、無事、女の子を産んだ。



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