Short storise

□Chocolate
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図書館のいつもの席で本を読む。

と、ましろが1冊の本を僕の手の横にすっと置いた。

僕は読んでいたページから目を外して本を見る。

『LOVE CHOCOLATE』

???何だ???

視線をましろに向けると、その本を手に取り、笑顔で僕に差し出した。

「これを読んだらセブルスもチョコの事、見直すよ。昔はお薬代わりだったんだって」

知ってた?と問いかけるましろの考えてる事が分からない。

「ましろ、僕はチョコレートについて知識を広げたいとは少しも思ってない」

「え〜〜〜。でもさ、これ読んだら私が何でチョコを食べるか分かると思うよ?」

………それは、何か?

私の事をもっと知って、と言う事?

遠回りな………告白?

心臓がドキドキする。

これは………受け取れば、了解のサインとなるのか??

なるよな。

僕は動悸の激しさを押し隠して、読んでいた本を置いた。

代りに手を伸ばし本を受け取ると、ましろは僕の考えとは全く違う事を口にした。

「そしたら、私がチョコ食べてるのを”またか”的な目で見なくなると思うんだよねぇ」

「は?そんな目で見た事はない」

「いんや、見てる。チョコを口に入れる度、視線を感じる。だからいっつも聞くでしょ?欲しいの?って」

「それは………「私、聞くでしょ?」うん」

でも理由が違う。

ましろはチョコを口に入れる度に嬉しそうな顔をする。

僕はその幸せそうな顔を見ているだけ。

可愛いなぁ、としか思っていない。

「で、セブルスの答えはいっつも”要らない”でしょ?」

僕は頷く。

「チョコ嫌いでしょ?」

「いや。嫌いじゃない。でも、ましろからは貰えない」

ましろは、は?と訝しげに僕を見た。

「1番最初に聞かれた時、僕は欲しい、と言った。そしたらましろ、すっごく悲しそうな顔した」

ましろは渋々チョコレートを僕の手に乗せて、僕がチョコレートを口に入れるのをじっと見ていた。

僕が口を動かし、チョコレートを食べ終わるまで、じぃぃっと見ていた。

欲しい、と言った手前、食べない訳にも行かず、かといって食べると恨めしげな目で見られる。

ちょっとした………拷問だ、と思う。

「あの時、僕は学習した。ましろのおやつを貰っちゃいけないって」

「………そんなに見てた?」

「見てた。ついでに言うが、僕が僕のおやつを食べる時、僕も聞くだろう?これ食べる?って」

ましろは頷いた。

「で、ましろは僕から貰って食べる」

ましろはまた頷く。

「気付いてないだろうが、ましろは僕のおやつを食べて………安心するんだ」

「安心?どういう事?」

僕は前々から思っていた事を発表する事にした。

「ましろは世の中で1番美味しいものはチョコレートだと思っている。で、他のお菓子の味見をして、それを確かめてる」

「確かめる?他のお菓子の味を??」

「だ・か・ら。他のお菓子よりチョコレートが美味しいって事を確認してるんだ」

僕のあげたお菓子を口に入れ、味わい、ホッとしたような顔をする。

美味しいね、とは言うものの、チョコレートを口にした時の様な幸せそうな表情とは違う。

ましろはパチパチと何回も瞬きした。

「つまり、ましろはチョコレートバカって事だ」

「………バカって………でも、そうかも。クッキーもヌガーも美味しいなぁっては思うけど………チョコには敵わない」

「だろう?だから今日のおやつはこれを用意した」

僕は杖を振り、花束を出す。

「はい、ましろ。これやる」

「は?バラの花束?でもこれ………香りが………甘い」

ましろの目が輝く。

「気付いたみたいだな。それ、チョコレート。茎はワイヤーだから食べられない」

茶色・白は勿論、赤やピンクのバラの花は全部チョコレートで出来ている。

茶色もミルクやビターなど、味によって若干色が違う。

蕾のはアーモンドチョコレート。

葉っぱもチョコレート。

棘はない。

僕の説明を聞き、ましろは幸せそうな顔になる。

良かった。

とりあえず、気に入ったらしい。

この花束は今日の為に通販で取り寄せた。

今日は年に1度の特別な日。

心に秘めた気持ちを告白出来る日。

勿論、かなりの勇気を必要とするが、他の日よりは………告白しやすい。

何より、告白を考えるきっかけになる。

それに、花言葉を使えば言葉を口にしなくても告白の代りになるし。

VIVA!VALENTINE!!

ただ、本当の花束を贈るのは………少し恥ずかしくて。

でも、僕の気持ちは伝えたくて。

僕は色々なカタログを取り寄せ、片っ端から捲り、探し、見つけた。

ベルギーの小さな店の1枚のチラシ。

英国まで送ってくれるか分からず、ダメもとで手紙を書いたら、大丈夫だ、と返事が来た。

”壊れないように魔法も掛けますから、ホグワーツでもエベレストの上でも、1本からお届けいたします。”

”但し、ふくろうが飛んでくれる所に限ります”

僕は花の色を選んで花束にしてくれるよう頼み、店主はその通りの物を送ってくれた。

勿論、万が一のトラブルがあってはいけないから、と、3日前には着いたし、何の変哲もない箱に入れてくれたから、ましろが気付く事はなかった。

「セブルス、それ何?」

「ん?おやつ」

「ぁ、そ。いいなぁ。私の頼んだヤツ、まだ来ないんだよねぇ」

今日あたり届くはずだったのに、と自分の事に意識が行っていた。

部屋に帰り、箱を開けるとチラシよりも美しく見えるチョコレートの花束。

予算より高くなってしまった請求書の金額は、僕の計算の半分になっていた。

何かの間違いだ、と全額分を送ったら、多すぎる、と返ってきた。

”学割です。と言うのはウソ。花束が評判になってホグワーツからの注文が増える事を祈って。広告料ですからお気になさらないように”

何処までが本気かどうか分からないが、実際にチラシが数枚入っていた。

その手紙を貰ったのは今朝。

店主の期待に添いたいのは山々だが、人前で渡すなんて大胆な事は出来ない。

人の来ない図書館が精一杯だ。

「ここで食べるなよ。マダム・ピンスに見つかると出入り禁止になる」

嬉しそうに花束の中から1本抜いたましろを制する。

「知ってるよ。これ、セブルスにあげる」

抜いたバラの花を僕にくれる。

赤いバラ。

その花言葉は「あなたを愛します」

これは………告白?

僕の気持ちが届いた?

その返事か??

「気にしなくていいよ。赤いのが一番多いから。このビターっぽいのは1本しかないから誰にもあげない」

………そう言う事か。

赤が多いのはワザとだったのに。

僕のため息に気付かないのか、ましろは席を立った。

「これ、食べたいから談話室行く。セブルスはどうする?」

「僕も帰る」

僕は急いで本をまとめる。

「これどうするんだ?」

ましろが持ってきた本。

僕は読まなくていい。

「あ〜〜借りる。結構トリビアな事が書いてあって、面白かったから」

も一回読む、とましろは本と花束を持った。

カウンターに貸出の手続きをしてもらいに行くと、マダム・ピンスは驚いたように花束を指した。

「それどうしたの?」

「はい?あぁ、これ。貰いました」

「そう………図書館で?」

「はい。チョコなんです。ぁ、食べてないです」

ましろがカードに名前を書いている間、マダム・ピンスの目は花束に釘付けだ。

「きれいねぇ」

「でしょう?ぁ、マダムにもおすそ分けします」

ましろはまた赤いバラを1本抜き、マダム・ピンスに差し出した。

「まぁ、ありがとう。でも、いいのかしら?」

マダムは手を伸ばさず、ちらっと僕を見た。

マダムには贈り主が僕だと分かったらしい。

僕は顔に熱が集まりそうなのを必死で止めようとする。

が、ましろの言葉で頭のてっぺんから冷えた。

「いいんです。セブルスも持ってるでしょう?彼にもおすそ分けしたんです」

そうだ。

僕も貰った。

特別な意味なんか全く、全然、これっぽっちもなく。

「あら、彼から貰った訳じゃないのね?」

マダム・ピンスはまじまじとましろの顔を見る。

「ぇ?セブルスがくれたんですけど、一人で食べるのもったいないから」

どうぞ、とましろはマダム・ピンスに強引に渡し、図書館を後にした。

僕も後を追おうとすると、ありがとう、とマダム・ピンスに声を掛けられた。

僕が振り向いて、いえ、と言おうとしたらマダム・ピンスはバラを持った反対の手をグーに握っていた。

「先は長そうだけど、がんばってね!」

あ〜〜ガッツポーズだ。

僕は曖昧に頷いてましろに追いつけるよう、早足で図書館を後にした。

「知ってた?チョコって昔は貴族の飲み物だったんだってさ」

ましろの言葉に、ふ〜〜ん、と相槌を打ちながら僕も質問を思い浮かべる。

”ましろ、今日が何の日か知っているか?”

”バラの花言葉は?”

”僕の気持ちは?”

ましろ、知っているか?




◇◆◇◆◇◆

図書館で魔法使って良いのか?

”呼び寄せ呪文”は4年生で習うんじゃないのか?(本編ではまだ1年生)

なんて疑問………持たない方向で。

お願いします。
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