Short storise

□Secret
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「アルバス!どういう事?!」

待ち合わせのカフェに着いて、いきなり詰問される。

「あ〜〜、アイ?久しぶりに会ったのに、その反応はないんじゃない?」

立ちあがり、僕を睨む様に見ているアイに手をあげる。

周りの人はアイの剣幕に驚いたのか、僕達を見比べている。

アイは、はっと気付いたように口元に無理やり笑顔を作り、僕とハグした。

「久しぶり、アルバス」

「元気そうで良かったよ、アイ」

アイの向かい側に座ると、店員がオーダーを取りに来る。

「彼女と同じ物」

それからしばらく僕達は無言を通した。

僕の前にティーポットとカップが置かれる。

僕はカップにミルクと紅茶を注いだ。

この香り………

僕はカップに口を付ける。

やっぱりだ。

「アイ。君、ウバ飲んでたの?好み変わった?」

「いいでしょ?気分よ。そんな事より呼び出した理由、分かってるんでしょうね?」

僕は頷く。

分かってなくても頷くのがこの場合正しい。

分かってない、なんて言ったら火に油を注ぐようなものだ。

「ならいいわ。校長が愛人を学校に連れ込むって”噂”の真相は?話して頂戴」

内容が内容だけに声を落としてはいるが、アイが怒っている事は確か。

「日本にまで伝わってるのかい?参ったなぁ」

「こっちで聞いたのよ。ぼやきは後で聞いてあげるから。早く話して!!」

それで急に呼び出されたのか。

ま、僕もアイに頼みたい事があったから良いけど。

僕はため息を吐いて、アイに話し始めた。




アイは日本にある魔法学校の校長をしている。

学生時代、僕達はライバルだった。

主席の座をめぐって、お互いに切磋琢磨していた。

勿論、僕がその座を明け渡した事はない。

が、毎回、結果が出るまでひやひやしたものだった。

色々な問題について討論し(大抵意見が分かれたので)お互いに譲歩し、それを尊重してきた。

彼女のおかげで僕の学生生活は楽しいものだった、と認めざるを得ないほど。

ホグワーツ卒業後、僕はそのまま教師として残り、彼女は両親の仕事の関係で日本へと引っ越した。

数年後、現在勤めている魔法学校の教師となる。

それをきっかけに、近況を知らせるだけだった手紙は、お互いに仕事の愚痴や問題を打ち明けるものへと変わった。

出張やバカンスで年に数回直接会って話す機会もある。

僕は結婚しなかったが、彼女は同僚と恋に落ち、結婚し、幸せな家庭を築いた。

子どもはなかったが、仲睦まじい彼らの姿を見ていると、こちらも自然と笑顔になったものだ。

アイのご主人は10年ほど前、病気で亡くなった。

その後、アイが彼の仕事を引き継ぎ、校長となった。

今も昔も、気が置けない僕の親友。




「彼女は友人の一人だ。決して愛人なんかじゃない」

分かるだろう?と僕はアイを見る。

「マルフォイが広めてるんだ。僕がホグワーツにいる事が心底気に入らないらしくてね」

「で?その女の人は誰なの?まさか、マルフォイも”火のない所に煙を立てた”訳じゃないでしょう?」

「彼女はある国の姫だ。門限を破ってしまったのを怒られたくない為に、僕に助けを求めに来た」

「ある国って?」

「それは言えない。僕にも彼女にも”都合”というモノがある」

アイは呆れたように僕を見た。

「しょうがないだろう?お姫様がふらふら夜遊びしてる、なんて広まったら?それこそ目も当てられない」

「校長が愛人を学校に連れ込んでるって”噂”よりも?もうちょっとマシな嘘を吐けばいいのに」

話せないって言ってくれたらそれでいいのよ、とアイは頭を振った。

………やっぱり誤魔化せないか。

でも、真実を話してしまうのは、今でなくても良い。

”噂”もしばらくしたら消えるだろうし………

消えなければ、消す手段を考えれば良い事だ。

「それより、君に頼みがあるんだよ、アイ」

この話はさっさと終わらせて僕の方の話を進めたい。

「小さな女の子用の”キモノ”が欲しいんだ。華やかなのがいい」

「は?アルバス?あなた何言ってるの?」

「日本人の正装って、”キモノ”なんだろう?それを着せたい子がいるんだ。僕だけじゃ……選ぶのに難しくてね。店を紹介してくれるだけでも良い」

彼女には内緒で用意したい、と付け加えた。

アイは黙ったまましばらく僕を見ていた。

ダメなんだろうか?

やっぱり、本人がいないと用意できない?

「来週のハロウィンに間に合わせたかったんだけど、どうかな?」

時間も足りない?

「アルバス、”小さい子”って、どのくらいの?」

「あぁ、今11才なんだ。ホグワーツの1年生。身長は……このくらいかな?」

僕は手をあげてましろの身長をアイに教えた。

アイは何かを考えるようにじっと僕の手を見る。

「アルバス、その子………何?」

「何って?」

「あなたにとって、よ。只の生徒じゃないわね?」

僕は頷いた。

「彼女は………僕の”妹”だよ」

「はぁ?冗談は止して」

アイは大きな声を出した。

僕はしぃっと人指し指を口に当てた。

「声が大きいよ」

「だって……そんな………何言ってるか分かってるの?」

「勿論」

おかしな事を言っているのは分かってる。

今は変身しているからお互いに20代後半くらいにしか見えないだろうが、本当は違う。

僕は勿論、アイも白髪のきれいなおばあさんだから。

11歳の子は、僕達からすれば”孫”か”ひ孫”くらい。

間違っても”妹”であるはずがない。

僕はそっと杖を振って、僕達の周りに見えない壁を作った。

マグルの店で魔法は使いたくなかったのだがしょうがない。

これでアイが大声を出しても周りに聞かれる事はない。

勿論、僕の話も。

「彼女の前で僕は彼女と同じ日本人なんだ。髪も瞳も黒くして、ね。年は…「アルバス?」…今よりも少し若い。「アルバス!」”あさぎ”って名前なんだ「アルバスっ!!」」

僕の言葉を遮るようにアイは何度も僕の名を呼んだ。

が、僕は最後まで話した。

「アルバス!!正気なの?!」

「勿論だよ。彼女は”あさぎ”が”ダンブルドア”である事を知ってる。僕が彼女の意見を聞かず兄になった事を不思議がってた」

アイの大声に僕は普通の声で応じた。

「何考えてんの?って言われたよ。僕はその方が都合がいいから、って答えた。休暇中に帰る場所が必要だからね、って」

アイが僕をまじまじと見るので………

僕はにっこり笑ってあげた。

アイは、はぁっと息を吐く。

「………経緯を聞いても?」

「夏休み、彼女が僕の前に現れた。彼女は身寄りがなかった。彼女は魔力を持っていた。だから、僕が育てる事にした」

以上、と極めて簡潔に経緯を説明し、カップに口を付けた。

………嫌いじゃないけど、やっぱりアッサムの方が好きだな。

カップを置くと、アイがテーブルに両肘を付き、頭を抱えていた。

「アルバス、バカにしないで。私はあなたが身寄りがないってだけで子どもを引き取るはずがないって事、知ってるのよ」

違う?と手の間から僕を覗き込む。

さて、何処まで話すかな?

「確かにそうだね。でも、ましろは……彼女の名前だけど、ましろは他の子と違うんだ」

「何処が?どう違うの?」

「ましろは『彼』にとても似ている。強くて、一人ぼっち。そして……いつも何かを求めてる」

「そんな………ホントに?」

アイは目を見張った。

僕が頷くと、アイは窺うように僕を見た。

「『彼』の様にならないように見張ってるって事?」

アイは僕が『彼』を助けられなかった、と後悔していた事を知っている。

その後の『彼』の行動に僕が心を痛めている事も。

「最初はね。でも、今は違う。ましろは『彼』にはないものを持っていたんだ」

「何なの?」

「”優しさ”だよ。ましろは優しすぎて他人を拒んでいる。傷付ける事も傷付く事も恐れているんだ。ましろは『彼』のようにはならないだろう」

僕にはましろが『彼』とは違う、という確信がある。

「それで……『彼』の様にならない子を、あなたが引き取る必要が何処にあると?」

「何処にもない。僕はただ、ましろの成長を見ていたいんだ」

ずっとそばで。

出来る事なら、ましろの為にだけ生きたい、と思うほど。

アイは頭を振った。

「アルバス、ダメよ。危険だわ。もしその子の事を『彼』が知ったら?その子は勿論、あなたまで危険に身を晒す事になる」

「知られなければいい。違うかい?」

「そうだけど……何処にスパイがいるか分からない状況で、その考え方は賢明ではないわ」

「そう………かもしれない」

僕は肩を竦めた。

「茶化さないで。その子が危ない目にあってもいいの?あなたの関係者ってだけで『彼』に狙われるのよ?」

「僕が守るよ。ましろに危険な事なんか起こらないように」

アイは僕の意見を否定するかのように頭を振る。

「アルバス、分かっているはずよ。あなたはあなた自身の弱みとなるモノを持つべきじゃないって」

勿論、分かっている。

だが僕は、ましろを手放したくなかった。

僕が納得していないのが分かったのか、しばらくアイは考え込んだ。

僕は彼女の考えを想像した。

多分、僕からましろを引き離そうとする。

「例えば………私が彼女を引き取るのはどうかしら?「嫌だ」彼女日本人なんでしょ?私の学校に「嫌だ」どうして?」

どうして?

理由なんて………分からない。

ただ、僕の手元に置いておきたい。

「アルバス、考えてみて。あなたにもしもの事があったら『彼』は魔法界のみならず、マグル界もその手に納めてしまうわ」

その脅威は英国を飛び出し、欧州、米大陸、アジア、アフリカと広がりかねない。

そうかもしれない。

でも………

「他の何を犠牲にしても、ましろを手放す気はない。僕は彼女を育てたいんだよ。この手で。僕の力で」

彼女の成長を手助けしたい。

ましろが大人になった姿を僕自身の目で見たい。

「アルバス、あなたはそう思っていても、彼女自身は?あなたは彼女と世界全体を秤にかけて……その上で彼女を取る、と言うのね?」

その重さに彼女は耐えられると思う?

アイは僕を説得しようとした。

だが、僕はブレなかった。

「この事をましろは知らない。知る必要もない。………知っているのは、僕と君だけだ」

僕達は睨みあうようにお互いの目を見ていた。

僕達の間に妥協点なんか何処にもなかった。

僕は僕の意見を譲らない。

1歩も引かない。

ほんの1インチでも無理だ。

過去にこれほど激しくぶつかった経験はないと思う。

アイは、はぁっと大きく息を吐き、負けた、と呟いた。

「何があっても、彼女を守り抜き、隠し通す覚悟なのね?」

「勿論。たとえ相手が君でも変わる事はない」

一言でも漏らしたら………容赦しない。

「安心して。口が堅いのは昔から。知ってるでしょ?今は引く。でも彼女が危険な目に遭いそうな時は強引にでも彼女を日本に連れて行くわ」

「頼りにしてるよ。今の世の中、信用できる人間はそういないからね」

アイは肩を竦めた。

「で?着物だったわね。小物までそろえたら結構いい額になるわよ?」

「いくらでもいいよ。この先、金貨を使う機会はどんどん減っていくからね」

「あら、私はまだまだ使うわよ」

「女性の物欲はなくなる事がないのかなぁ」

「当たり前でしょう?世の中には素敵な物がたくさんあるんですもの」

僕達は紅茶を飲み干して、店を出た。

そのまま日本に飛び、紹介された店でキモノを選んだ。

「これっ!これがいい。ましろのイメージにぴったりだ」

「………これ?本気?」

「うん。華やかだと思わないかい?」

「思うけど……じゃ、帯はこっちにする?」

「え〜〜?この黒い方がいい。そうだ!全体を赤と黒でまとめたらどうだろう?」

「あ〜〜そうね。ハロウィン用なのよね?」

「そうだよ。ぁ、何か決まりがあるのかい?ハロウィンには着れない?」

「いぇ、大丈夫。むしろ、ハロウィンだから着れると思わ」

こうして、彼女は僕の良きアドヴァイザーとなった。



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