Short storise

□Fool
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ボートキーを使って英国に出張。

と言っても、今回の出張の事、魔法省が知ってる訳じゃない。

私が勝手に作ったボートキーでこっそり英国に来た。

言わば………お忍びってヤツね。

勿論、日本にダミーは置いてきたし、”彼女”は卒なく仕事も来客もこなしてくれる。

私の魔力を注ぎ込んで作った人形だもの。

誰にも………もう死んでしまった彼以外に分かるはずない。

あぁ、どうして先に逝ってしまったのかしら?

ずっと一緒だよって、いつも言ってくれたのに。

はぁ………

「アイ、お待たせ。どうしたんだい?」

私が彼との思い出に浸ってる間に、待ち人が来た。

「久しぶり、アルバス。変わりない?」

私は立ちあがり、アルバスとハグする。

「うん。今んとこね」

アルバスは向かい側に座ると、店員にアッサムをオーダーした。

変わりあるでしょっ!という言葉は呑み込む。

ダメよ、私。

落ち着いて話そうって決めて来たんじゃないの。

運ばれてきたカップにアルバスが口をつけた所で、私は本題に入った。

「アルバス。多分、呼び出した理由は分かってるでしょうけど、この手紙の内容、本気?」

私はバッグの中から、今朝届いた手紙をテーブルの上に出した。

中身を読んで驚き、急いでボートキーとダミーを用意した。

魔法省を通していたのでは、早くても3日。

バカらしい事に、校長が海外に出張するには、たくさんの書類を書いて申請しなければならない。

許可が下りるまでなんて、とても待ちきれない。

普段から、たまぁに”お忍び”はやっているので用意はすぐできた。

英国に着いてすぐアルバスに手紙を書き、呼び出したのだ。

アルバスは頷いた。

「勿論、本気だ。君には話しておいた方がいいと思って手紙を書いた。こんなに早く呼び出されるなんて驚いたけど」

”お忍びかい?”と小声になる。

そうよ、と答えながら私は自分の苛立ちを抑えようと懸命だった。

こんな時にいつもの微笑みとウィンクは感情を逆なでするだけだというのに!

「こんな手紙貰って、手続き踏んでる時間、私がじっとしていられると思う?」

「多分………無理だろうね」

肩を竦めるアルバスに、イライラする。

もうダメだわ。

落ち着いて話すなんて、最初から無理だったのよ。

「だったら!そんな事確認しないで。きちんと説明して頂戴!!」

アルバスは困ったように息を吐いた。

が、無視。

私には説明を聞く権利がある。

「僕はましろを本当の家族として迎えたい。だから、僕の全てを彼女に遺す事にした」

それは手紙に書いてあった事でしょうがぁぁ!!

既に知ってるわよっっ!!と怒鳴ろうとして、アルバスの瞳の奥の輝きに気付く。

あぁ、ダメだ。

こんな目の時の彼は”愚か者”になっている。

それも、世界一の、だ。

私は声を呑み込み、代りに大きなため息を吐いた。





過去、幾度かこの目を見て来た。

例えば………”禁じられた森”の中に入ってケンタウルスと交流を深めたい、と思い付いた時。

例えば………湖のマーピープルと友達になりたい、と水の中に顔を突っ込んだ時。

どちらも、必死で止めた。

”森”は危険だ。校則を破る気か?

水の中は息が出来ない。死にたいのか?

だが、アルバスはあの目で私を見た。

そして言うのだ。

「僕は決めたんだ。だから行く(やる)」

何を言っても、この目の時に私の話を聞いてくれた事はない。

幸いにも”森”では親切なケンタウルスと友達になる事が出来たし、努力の結果マーミッシュ語が話せるようになった。

私も、だ。

アルバスと行動を共にする事は、私の世界と能力を広げてくれた。

それには感謝する。

が、今回のはダメだ。

去年の秋にあれ程確かめたのに、アルバスはなんにも分かってない。

今までのように幸運に頼って、のほほんとしていられる事じゃない。

「アルバス。あなたと彼女の間に”縁”がある事を書類に遺すべきじゃない」

「”遺書”の様な形にすればいい。僕が死んだら………僕の”縁”なんて関係なくなるだろう?」

確かに『彼』が恐れているのはアルバスの事だけ。

アルバス亡き後、その縁者にまで手を出すかどうかは微妙な所だ。

が、『彼』は自分に反する者の家族を皆殺しにする事もある。

アルバスが『彼』の手から守れなくなった時は私がどうにかするしかないが、正直、難しいだろう。

私では『彼』の力を押さえきれないだろう、と予想できるからだ。

私は反論する為、脳味噌をシェイクする。

「アルバス、そんな希望に縋っていては彼女を守れないわ。あなたの縁者を取り込んでしまえば、逆に世界を支配しやすくなると考えるかもしれない。

彼女を人質に取れば、あなたの遺志を継ぐ者達の攻撃の手を緩められるかも、と考えるかもしれない。違う?」

アルバスのワガママで”ましろ”が危険な目に遭うかもしれないと分かっていて、止めない訳に行かない。

まだ会った事はないけれど、”ましろ”を守る事は私の仕事になりつつある。

何故なら、過去、私はアルバスと共に行動して来たのだから。

「でもね、アイ。僕は………君だけには打ち明けるけど………ましろを本当の妹のように感じているんだ」

「何ですって?」

「前に話したよね?あの子はとても不安定だって」

私は頷いた。

その事がアルバスの心に引っ掛かり、『彼』の様にならないよう見始めた、と。

あの時、オカシイ、と思わない事もなかった。

『彼』の様にならないのなら、見守り続ける理由がない、と。

理由もなしに、小さな女の子を危険に晒すはずはない、とも思った。

だが、彼だって人の子だ。

その子に情が移る様な事があったのかもしれない、と自分を納得させた。

彼女を守る為に他の何を犠牲にしてもいい、と言うのは、そのくらいの覚悟で危険な目に遭わさないと言う事だと。

でも、違っていたって事?

”ましろ”を本当の妹の様にって………

ほんの一瞬、ホグワーツを卒業した、あの夏の事が思い出された。

「正直に言うけど、僕はましろが神から遣わされた女の子だと思ってるんだ」

「は?」

今度は何を言い出したの?

とうとうアルバス・ダンブルドアも……年には勝てなくなった?

そんな………

私、同い年なのよ?

私もすぐにそうなるって事なのかしら。

「アイ、そんな顔しないで。僕はボケてもいないし、自分の言った事も理解している」

「じゃ………本気で思ってるって事ね?」

「勿論。神は僕に”ましろ”という妹を遣わされたんだ。贖罪の機会を与えて下さったんだよ」

アルバスは顔を歪めた。

私はその言葉を聞いて、息が止るかと思った。

”贖罪の機会”は、アルバスが今までずっと求めていたものだった。

その為に彼は生きてきたし、一番辛い道を選んだ、と言ってもいい程。




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