Short storise
□Long long ago
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私とアルバスとの出会いはホグワーツ。
彼はグリフィンドールで、私はレイブンクロー。
寮は違うし、合同授業だってない。
って事は、余程の事がないと………知る機会などない。
実際、卒業後にパーティーなんかで”ホグワーツで一緒でした”と言われても、分からない事が多い。
人間が多すぎるのだ。
自分の寮の子を覚えるだけで、精一杯。
よその寮まで覚えるのは……脳の無駄使いというモノだ。
が、彼は目立っていた。
賢く、魔法を使うのも上手で、とにかく頭の回転が速い。
先生達は彼をべた褒めし、1年生の中で(というより、ホグワーツの中で)一番目立った存在だった。
女の子達は彼に夢中になった。
今となっては信じられない事だが、私もそのうちの一人だった。
鳶色の髪、碧い瞳。
頭がいいうえにルックスも上々と来ている。
モテない訳がない。
が、彼自身は女の子は眼中になく、彼と同じように賢い男の子達と遊ぶ(というより、勉強する)事が大好きだった。
私は彼に何とかして振り向いてもらおうと思い………勉強した。
入学した時は、それ程出来がいい方ではなかったと思う。
が、アルバスに話しかけられたいがために、必死に勉強した。
低学年のうちは上位5人に入るのがやっとだったが、そのうち、彼と肩を並べるまでになった。
「ねぇ、君。レイブンクローのアイ・ファストだよね?」
初めてアルバスに声を掛けられたのは、4年になってすぐ。
私は心の中でガツポーズをしながら、何でもない振りを装って、振り返った。
「えぇ、そうよ。何か用?」
「うん。僕、アルバス・ダンブルドア。君と友達になりたいんだ」
その言葉で、今まで3年間の頑張りが報われたような気がした。
が、ここですぐに返事してもいいものかどうか?
少し焦らした方がいい、と何かで読んだような気がする。
「………あ〜〜ダメならいいんだ」
私が返事しないので、アルバスは、じゃ、と手を上げて行こうとした。
「ぃえ、ちょっとびっくりしただけよ。いいわ。友達になってあげる」
私は慌ててアルバスに声をかけた。
彼はにっこり笑って右手を出した。
「よろしく、アイ」
「こちらこそ、アルバス」
私達は固く握手し、その時から友達になった。
仲良くなってみると、アルバスの内面が見えて来る。
私の最終目的は彼とお付き合いする事だったので、そりゃもう、色々と調べた。
で、分かったのだ。
アルバスは好きになってはいけない男だ、という事が。
彼は知識欲が貪欲なほど旺盛な男だった。
驚くほど色々な事に興味を持ち、その事について深く深く考えた。
彼の傍にいる為に、私も考える。
生来の負けず嫌いも手伝って、彼以上に考え、答えを導き出す。
で、これが大抵アルバスの考えとは全く違うのだ。
そこで議論し、お互い譲歩できる所を探った。
こう言うと聞こえはいいが、彼と議論しているうちに自分の間違いに気付き、私が”譲歩してあげる”事が多かった。
私はいつも彼の”次点”で、彼を抜く事は1度も出来なかった。
………閑話休題。
アルバスは答えが出ると、途端に他の事に興味を持ち始める。
彼は一つの事に固執する事が出来ない男だった。
”広く深い”知識を彼は欲した。
まるで、世の中の全てを自分の頭の中に詰め込みたがっているように。
一度だけ、何故色々な事を知りたがるのか?と聞いた事がある。
彼は”分からない”と答えた。
「ただ、自分の力で世の中を変えられたら………楽しいとは思わないかい?」
私は曖昧に頷いた。
この時の彼の目と同じ輝きを持った人間を、私は知っていた。
この男は”夢”を食べて生きていく人間だ。
私の知っている男のように。
あの輝きが無ければ、私は彼に告白して、多分……玉砕していた事だろう。
ホグワーツの卒業が近づくと、アルバスは友人と一緒に”世界旅行”の計画を練り始めた。
卒業を機に世界を旅する事は、彼の夢の一つだった。
同じ頃、私は家族の仕事の関係でニホンに行く事が決まった。
「アイ、君、ニホンに引っ越すんだって?」
「えぇ。父の就職が決まったの。ニホンの魔法学校の教師ですって」
「じゃぁ僕、ニホンに行ったら君を訪ねてもいいかな?」
「勿論よ。遊びに来てくれると嬉しいわ」
「良かった。君のお父さんにも会いたいんだけど………最近知ったんだよ。”あの”デヴィッド・ファストって、君のお父さんだってね?」
嬉しそうなアルバスと反対に、私はとうとう知られてしまったか、とため息を吐いた。
「何で教えてくれなかったんだい?僕が彼の事をどれだけ尊敬してるか、君だって分かってるだろう?」
「えぇ、勿論。でも、自分から話す事でもないと思ったから、話さなかっただけよ」
「君は自分の父親がどれだけ偉大な事をしたか分かってないのか?」
「勿論、分かってるわ。彼は世界中を旅して、本を書いた」
若い時から冒険家だった彼は、母に逢った事で冒険を止めた。
母に懇願されたからだ。
故郷である英国に戻り、穏やかな暮らしの中で、私は生まれた。
が、それはほんの数年の事だった。
私が物心ついた頃には、彼は家にいない事が多かった。
ふらっと旅に出てしまう。
同じ所にとどまる事が出来ないのだ。
幸い、本の収入と母が株で利殖した配当で食べては行けた。
が、母の心の中には色々な思いが渦巻いていたのだろう。
彼がいない時、母がキッチンのテーブルで悲しそうな顔をしているのを何度も見た。
母は、私の卒業と同時にニホンに移住する事を彼に提案した。
ニホンは母の故郷。
母はニホンの魔法学校の校長の娘で、彼が気まぐれにニホンを訪ねた時、身の回りの世話を任された。
で、恋に落ち………とドラマのような展開で結婚したのだ。
彼はそれを受け入れた。
英国だろうとニホンだろうと、旅に出てしまえば変わりない。
が、母は彼に内緒にしていた事があった。
それが”魔法学校の教師(担当教科は英語)”の件。
彼は抗議しようとしたが、母の方が強かった。
”仕事しないなら別れる。休暇中は旅に出ていい”
朝目が覚めたら隣に夫がいない、そんな生活に母は心底嫌気がさしたんだろう、と思う。
でも自分から積極的に別れを持ち出す程、愛は冷めていない。
この条件は、母が彼を愛し続ける為に必要だ、と考えたものに違いない。
彼は母の事を心から愛していた。
そうでなければ旅に出たまま戻って来なかっただろう、と思う程。
こうして私のニホン行きは決まった。
「そんな話、初めて聞いたよ。デヴィッドにそんな顔があったなんて、思いもしなかった」
「彼の本にはそんな事一言も書いてないものね。勿論、本の内容は嘘じゃない。でも、それだけじゃないってことかしら」
本当の”デヴィッド・ファスト”は本の中と違って、弱い所も持っている、普通の男なのだ。
いや、家庭を顧みない、という点においては最低の男だったのかも。
「夢を見る事は素敵だ、と思う。でも、それで家族を蔑(ないがしろ)にするのは間違ってるわ」
「そう………だろうね。僕もそう思うよ」
アルバスは曖昧に頷いた。
私は彼の反応に、本気で好きにならなくて良かった、と心底思った。
私達は親友のままホグワーツを卒業した。
数日後、アルバスのお母さんが事故で亡くなり、彼の世界旅行は土壇場で中止になった。
アルバスは旅が出来なくなって残念だ、と手紙を書いていた。
病気の妹の面倒をみるので、これから先もニホンを訪れる事はないだろう、と。
葬儀には間に合わなかったが、1週間後、お悔やみを伝えにアルバスを訪ねた。
アルバスは憔悴しているだろう、と思っていたのは間違いだった。
ゴドリックの谷で私が会ったアルバスは、今まで見た事がない程目を輝かせていた。
「やぁ、アイ。良く来てくれたね」
「遅くなってごめんなさい。ボートキーの手配が出来なくて」
私はアルバスの様子に不信を感じながらも、彼のお母さんのお墓にお参りし、彼の家でお茶をご馳走になった。
「アルバス、妹さんのお加減はどうなの?」
「ん?あぁ、アリアナの事かい?うん。大分いいよ」
アルバスの上の空の返事で、彼の目が時計を気にしている事に気付いた。
「アルバス?何か用事があるの?」
「ぁ、いや。その………大した事じゃないんだ」
でも、そわそわしてる。
これってもしかして………
好きな人が出来た?
彼女と約束でもしてるのかしら?
それで思った以上に元気なのね。
それにしても、今日私が来るって事は前もって知らせていたのに、約束入れるかしら?
そんなに………好きなのね。
彼の相手がどんな人なのか気にはなったが、そのうち紹介してくれるだろう。
私は紅茶を飲み干して、席を立った。
「長居してごめんなさい。今日はこれでお邪魔するわ」
「アイ、またゆっくり出て来て」
私はアルバスに見送られ彼の家を出た。
その時は、その数週間後に又、英国に来るようになるなんて考えてもなかった。
それも、同じように喪服を着て。
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